第19話 貴腐人フローラ ※フローラ視点

「私の名前はフローラ・ラビリンス。王都の学園に通うようになったヒロインよ。最近同じ学園に通うカイト・マーブルさんが気になって仕方ないのです。彼との出会いは衝撃的でしたわ」


 フローラは自室で静かに独り言を語り出した。隣には相方であるチ○ポッコン先生マリアが如何わしい顔で見ていた。




ーー遡ること編入手続き前


「フローラお嬢様学園に到着しました」


「カロルありがとう」


 執事のカロルに支えて貰いながら私は馬車から降りる。ここからが男爵である私の本当の戦いが始まると思っていた。


「私は先に学園長に挨拶をしてくるから、お前は少し庭で待っていなさい」


「わかりました。お父様もお気をつけください」


 学園長に会いに行くと言って歩かれたお父様を見送って私は庭に向かった。正直貴族を演じるのは疲れる。


 貴族は気軽に鼻もほじれないし、声を上げて推しを応援できない。


 私はつい最近まで普通の平民だった。お母さんが亡くなり、いきなり現れたのがラビリンス家男爵で現当主のお父様だった。


 お父様の話では、私はラビリンス家当主と娼婦をやっていたお母さんとの間にできた子供だと最近知った。


 以前、お母さんにお父さんのことを聞いたら、亡くなったと聞かされていた。それなのに、急にラビリンス男爵家が目の前に現れたからびっくりした。


 昔から母は街の飲み屋街で働いていたが、病気になってからは生活苦になると思っていた。母からは貯金があるからと言っていたが、男爵家に入ってからそれはお父様が私のためにお金を出していたことを知った。


 そもそも私を連れて来た時、現当主である妻……つまり義母は私のことを嫌っていた。


 隠し子と一緒に住むなんて誰でも嫌なはず。


 だが、幸いラビリンス男爵家には三人息子しか居なかったが、私の笑顔で兄達はイチコロだった。毎日頭の中で兄弟BLが繰り広げられていたとは思ってもいないだろう。


 そんな私と義母を仲良くさせたのは、屋敷で働くカシューナッツだった。


 屋敷にいた執事見習いナッツと教育係のカシューで繰り広げられるBL劇『カシュー×ナッツ』が最高だった。


 まさか義母もBLを好んでいたとは知らなかった。


 それからはもうズブズブの関係になって、毎日一緒にいたから学園に来るのが辛かった。


「ふう、中々学園の庭は広いんですね」


「これからお嬢様も通われるんですからね」


「そうですわね。お兄様にも後で挨拶にいかないといけないですわ」


 ラビリンス家の三男である兄は今最終学年で皇太子であるレオン様と同じクラスで頑張ってるって連絡が来ていた。


 長男と次男はもう成人されているから、継ぐ必要性のない三男はどうにか自分の道を開くために必死らしい。


「そういえば、編入したのがお嬢様だけではないらしいですよ」


「それは緊張しなくて済みますね」


「あっ、ちょうど今通った……可愛い……」


 私がラビリンス家に来ることになった時に、同時に執事となったカロルは私から見てもイケメンだ。


 メイド達からも毎日声を掛けられているカロルがどこかを見て止まっていた。私もその目線を追っていくと衝撃が走る。


「カロルどうした……ぐぅ!?」


 私は全身に衝撃が走った。太陽に透けて光る髪に小柄な体型の少年を見たら、少しずつ頭痛がして来た。


 この時私は『恋する魔法学園』のヒロインに転生したことを思い出した。


 名前もフローラと過去の名前である花子と似ているのは、転生した時の特典だと思っていた。だが、実際は学園通うヒロインだったと……。


 私は前世でBL沼に落ちた貴腐人だった。夫に隠れて毎日夜な夜な乙女ゲームである『恋する魔法学園』をプレイしていた。


 大きな声が出せない深夜は悶えるしかなかった。


 そんな私は転生した時の記憶も、BLが好きだった時の記憶も残っていたが、恋学に関する記憶はなかった。


 それがBLルートのヒロインであるモブを目にして、鮮明な記憶が戻ったのだ。


「カロル、大丈夫よ」


「少し冷えてきたかも知れないですね」


 心配してくれたカロルには悪いが、今後の学園生活が楽しくて身震いがしているだけだ。


「カロルはあのこの子とどう思う?」


「あの子とは?」


「さっき歩いていた少年よ。可愛いって言っていたじゃない」


「それは……可愛い少年でしたね。フローラ様に負けじと――」


 少し考えている間は顔が崩れてたカロルも、私の顔を見て止まっていたわ。


「お嬢様、よだれが……」


「あら、私としたことが」


 私は転生スキル"顔面工事中"を発動させた。


「お嬢様そろそろ呼ばれると思いますので戻りましょうか」


「じゅる……ええ、わかったわ」


 私はクラウス×モブを妄想して溢れ出るよだれを啜ったわ。これが私とカイトの初めての出会いだった。





「どうしてもカイト総受けがいいのよね」


 それから少しずつ前世の記憶が蘇り、記憶を整理した。元々貴腐人の私が恋学の裏BLルートをやるために高額で買ったゲームだった。


 私は、このルートを出るために何度もクリアしたのよ。それなのに裏BLルートをクリアする前に交通事故に遭うなんて……。


 そもそもBLルートが多すぎてどこがクリアかもわからない。


「でも、悪役令嬢のマリアがまさか私を腐沼に引き込んだチ○ポッコン先生だとは思わなかったわ」


 私とチ○ポッコン先生マリアのルートのフラグを全て折ることでカイト総受けも夢じゃない。


「次のイベントはお茶会・・・ね」


 私は次のイベントであるお茶会をまとめた日記に目を通して寝ることにした。

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