第18話 いけいけ、カイト! ※一部マリア視点


 魔法実技の授業後、僕は教室でグッタリとしていた。血への耐性がないだけで、心身共に疲れるとは思いもしなかった。


「カイト大丈夫か?」


 そんな僕に声をかけたのはクラウスだった。さっき止めてくれた彼に感謝しかない。あのままではモブを卒業して、教員の上に乗った不良児として言われていただろう。


「んー? クラウス!」


 疲労のあまり癒しを求めてクラウスに抱きついていた。


 実際は鑑定により表示されていた、デイリークエストのためなんだが、抱きつかれているクラウスには御構い無しに僕は頬をスリスリとしていた。


 ちなみに今日のデイリークエストは抱き付いて頬スリスリという結構難易度が高いものだった。


 兄のタンジェでやってもよかったが、最近ブラコンが度を超えている。


「うっ……」


 ちなみに椅子に座っている僕の顔は、立っているクラウスのちょうど下腹部あたる。クラウスの額にはわずかに汗が流れており、何か必死に隠そうと腰が引けていた。


「聞いて、クラウス!」


「はぁ、これは何かの修練なのか」


 クラウスに声をかけるが、ブツブツと何かを唱えていた。さっきの魔法実技の復習をしているのだろうか。


「クラウス? ねー、クラウス聞いてるの?」


「はぁ!? どうしたんだ?」


 何度か声をかけると、クラウスの意識は元に戻ってきた。


「さっきの授業で保健室のホバード先生がいきなりナイフを取り出して自分の手を切ったんだよ! それでいきなり治せって酷いよね」


 クラウスを見上げると、僕の顔をジーッと見つめていた。


「可愛い……」


 さっきまで泣いて目が腫れている顔を見て、可愛いとはクラウスは変わり者だと思った。それにしてもモブが可愛いって相当クラウスも疲れたのだろう。


 その後もクラウスの脳は一時停止し、また意識がどこかにいこうとしていた。


 何度も名前を呼ぶことでまた意識を取り戻していた。


「あっ、カイト頑張ったな」


 すぐに返事をしないといけないと思ったのか、クラウスは僕の頭を撫でた。この世界の人達は僕よりも体格が良いのもあって、とにかく手が大きい。


 人から撫でてもらうのって前世でも好きだったからな……。


「んー! 」


 あまりの心地良さに意味もなく、そのまま顔をクラウスのお腹にスリスリとしていた。


 それを見ていたクラスの男性達からは嫉妬の眼差しとなり、例の令嬢二組が暴走していたことを僕は知らなかった。





「ねぇ? フローラさんあそこが凄いですわよ」


「もうカイトさん大暴走してますわ。推しが困惑してる姿って素敵だわね」


 花子フローラはお腹の底から低い声で笑い、最後はじゅるりとよだれが垂れないように啜っていた。


「あなたも色々と凄いわよ。令嬢としてあるまじき……ちょっと、カイトがスリスリしてるわ。いけいけ、もっと甘えてしまえ! そしてそのままベッドインよ」


 私は握り拳を作って小さく叫んでいた。私は転生スキルのカーテシーでどうにかなるから気にしなくていい。


「あなたも相当言ってる内容が凄いですわよ。あれ? クラウスさんが呼んでますわよ?」


 クラウスは私達に向けて手でこっちに来いと合図を送っていた。


 それでも私達は答えなかった。花子フローラが推しのクラウスを見たくて、私の手を掴んでいるからだ。


 プロレスをやっていたのかと思うほど、彼女の力は強かった。それだけ推しへの愛情が強いのだろう。


 だから全力で行けないと手を横に振る。今は貴腐人会の最中だからね。


「マリア何をやってるんだ?」


 そんな様子を見ていたのは会いに来たレオンだった。遠くにいることに気づいた私はレオンに視線を送ったのだ。


 彼も以前より私に会いに来る頻度が増えて、教室に来ることが多くなった。実は私よりカイトに会いに来ていると信じている。


「いや、クラウスさんがなにか呼んでいるの。でも、今は乙女同士の話をしているからと断っているところなのよ」

 

「あっ、今度は私を呼んでるぞ」


 クラウスはレオンを見ると今度はレオンを呼んでいた。この国の時期国王なのに、今のクラウスはそんなの関係はなかった。


「ちょっと行ってくる」


 そう言ってレオンはカイトとクラウスの元へ向かった。


「マリアさん流石ですわ。これでレオン様も含んだ3P……ぐはっ!?」


「本当にあなたって人数が多ければ多いほど好きね」


「だって、取り合いって最高じゃない」


 以前3Pの魅力を伝えたら花子フローラは取り憑いたように推しを頭の中で犯していた。


 複数プレイって推しを最も犯して尽くして、狂わせることができるからね……。


「あー、今度はレオンに抱きついたわ! もう美味しすぎて死ねる」


 私の推しであるレオンに今度は抱きついていた。興奮のあまり、机をゴングのように叩いて悶えるしかなかった。


 やっぱり推しのBLルート最高よ!


「ぐふふ……離れてほっとしたけど、ちょっと寂しい顔をしたクラウスさんも良いわよ」


「あー、レオンのカイトを撫でる姿もいいわ! そして……」


「戯れ合うカイトが可愛い!」


 二人は同時に声を上げた。思わず言葉が合った瞬間に見つめ合う私達。


「やっぱり私達気が合うわね」


「そうね、もう私達親友ね! むしろ戦友って所かしら」


 私達はお互いに握手をした。絶対上がるはずのないお互いの好感度は跳ね上がっているだろう。


 ヒロインと悪役令嬢の二人が仲良くしている乙女ゲームって面白くないからな。


 そんな私達をお構いなくカイトはまだレオンとクラウスに撫でられていたのだった。

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