第16話 ぶち犯してぇ!
「では、カイトくん授業を始めようか」
やっと魔法実技の授業に入ったが、周りを見渡すと、どこか他の先生の授業とは距離感が違っていた。
「あのー、ホバード先生ちょっと近いですよね?」
「いやいや、そんなことないですよ? 私の授業はこの方式ですので」
ホバードはべったりくっつくような形で授業が始まった。それに違和感を感じていたものの、何もわからない僕はそのまま流されることしかできなかった。
「早速ですがカイトくんは光属性魔法を使えますか?」
「実はまだ教えてもらったことがなくて……」
「今まで生きてた中で魔法を使うことがなかったんですね」
「いえ、鑑定魔法も使えるのでそちらを優先していました」
基本的に魔法は一人一属性だが、僕には鑑定魔法と光属性魔法が使えていた。しかし、学校に通うこともなかったため使えるのは鑑定魔法だけだった。
「それは珍しいですね。商人の子どもなら鑑定魔法があれば便利ですね」
ホバードはそう言っているが、僕の鑑定魔法はどちらかと言えば使えない分類だろう。だって、人の好感度が見えても商売に関係ない。
「まずはじめに光属性魔法を体に感じてみようか」
「ヒール」
ホバードの手は光輝き、そのまま僕の手に触れると次第に温かさが伝わってきた。
「全身が温かいですね」
「どうやら魔法は感じられるようだね。これが初歩のヒールと言って、傷を塞いだり体調を整える効果がある回復魔法だ。じゃあ、実践といきましょうか」
ホバードは懐から小さなナイフを取り出すと、自分の手を切りつけた。
急な行動に僕は驚き止まってしまった。思ったよりも深く切れた傷から血が多く流れ出ていた。
「はぁー、快感。さぁ、カイトくん治してくれ」
ホバードの顔はどこか喜色溢れていた。
「ホホホホバード先生!?」
「あー、血がたっぷり出ているよ……」
ホバードは微笑みながら、腕から滴る血を眺めていた。咄嗟に僕は血を止めようとして指の根本から止血する。
「えっ? ちょっとどうやってやるんですか! 魔法なんて使ったことないですよ」
「大丈夫だよ。ほら早くしないと私が血だらけになって倒れるよ」
あたふたしながら前世の絆創膏を思い出し傷が塞がるように魔法を唱えた。
「ヒール」
僕の手から光が溢れホバードの手に集まった。
「ほお、やっぱり純度が高くて綺麗だ」
傷口はすっかり塞がり血は止まっていた。事故で亡くなった時の記憶は映像で見ているため、思ったよりも血がトラウマになっていた。
「さすがだ。カイトくん?」
ホバードは話しかけてきたが、僕の震えは止まらない。自身を傷つけるなんてやってはいけないことだ。
「うっ……先生の馬鹿!」
気づいた時には僕の目には涙を溜まっていた。
「あっ、やばいな」
泣いている僕を見て自身の唇をぺろりと舐めている。
「いきなりあんなに血が出て倒れたらどうするんだよ」
僕はそのままホバードを押し倒し、ホバードの上に馬乗りになった。
「へっ!?」
突然の出来事で今度はホバードの頭が追いつかなくなっていた。
「治せるってわかってても血は嫌だよ」
実際にトラックに挟み込まれ、痛みを感じた瞬間に血が飛び散った記憶は残っていた。それが関係して光属性魔法に適性があったのかもしれない。
僕の目から大量の涙が溢れ出て、ホバードの顔を濡らす。
「今度何かやる前には言ってくだざいぃぃぃー! 僕が治すからあぁぁー!」
くちゃくちゃな顔になった僕を見て、ホバードはゆっくりと頬に触れる。
「ああ……ぶち犯してぇ――」
「はい、カイトは今すぐ離れようね」
「クラウス?」
体が軽くなったと思ったら、クラウスが持ち上げてホバードから剥がした。いつのまにか授業は終わり、マリアとフローラも心配して僕を見ていた。
彼女達はなぜかこちらを見て親指を立てている。
「先生カイトに何したんだ?」
「あっ、ごめんなさい」
まだ立ち上がりきれていない僕が体を起こすと、泣いた影響か体がふらっとした。
「あぶな――」
僕を持ち上げていたクラウスは受け止めるが、そのまま今度はクラウスに馬乗りするように倒れた。
「ごめん!」
急いで体を起こすと、そこには顔を赤く染めてたクラウスの姿があった。
「ほぉ……、良いものを持ってるな」
ホバードはクラウスのある部分を見てニヤついていた。
「あっ、これは……カイトすまん!」
クラウスは急いでカイトを退かすと、クラウスはどこかに走って行った。
「クラウスどうかしたのかな?」
「思春期にはよくあることだよ。じゃあ、授業はこれで終わりにしようか」
「ありがとうございました」
魔法実技はハプニング続出だったけど、これで僕も光属性の魔法が使えるようだ。
それにしても令嬢二人はいつも楽しそうに悶えていた。
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