第40話 遭遇-13

 部屋でフォルテを休ませると、その後をウェルスに任せたクラヴィスは、神殿への道を引き返していた。そのまま迷いない足取りで神官長の部屋の扉を叩くと、待ち構えていたフランに迎え入れられた。


「私の封印石が砕けた」


 そう言ってクラヴィスは、手にしていた宝玉が砕けて抜けてしまった剣をフランに差し出した。


「存じております。先代の神官長が封印石と同じ宝玉をこしらえておりました。後は魔力を込めるだけですが、停滞の力は使えませぬ。私の魔力のみでどれだけもつかは……」


 恭しく剣を受け取ったフランは、懐から出した宝玉を穴の開いてしまったそこに合わせてみる。隙間なくはまりそうなことに満足そうに頷いた彼は、剣と宝玉を銀で作られた箱へ納めた。


「とりあえず事が済むまでもってくれたらいい。封印が解けた時、私へ入り込んでいた魔物から存在が知れている。あまり時間をかけるとあらゆる手段を使って王都を狙う可能性があるから」


「いかがなされるおつもりか? 」


 そうだね、とクラヴィスは部屋の奥へ進み窓から外を眺める。すっかり夜も更けた月が浮かび、王宮を照らしていた。冬石を護るために張られた結界は、民をも守る砦となるが、同時にそれを維持するだけの術者たちが動けないという事だ。


「撃って出る。運が良ければ冬石の問題も解決できる。そちらは賭けになるけれど」


「策がお在りか」


「神子が揃っているおかげで、上位の魔物までは出てこれなかったらしいから、十分に勝算はある。後は、今生で私が友人たちと築いてきたものを信じるさ」


 月明かりを背に少年の姿で微笑むクラヴィスに、フランが知る前の彼の姿が重なる。通常の生の理から外れてしまった彼の瞳には、どれだけ多くの生と死が映し出されたのだろうか。


「トルニスにはなんと? 」


「リテラートがどんな策を出してくるか分からないけれど、それに乗る事にトルニスが迷っているようだったら、彼の援護をしてくれると有難い。後は、私に動かせるだけの兵を」


「承知しました」


 クラヴィスが部屋を後にし、一人となった部屋の中、フランは先ほど彼がそうしていたようにここから見える王宮を見つめた。

 歴代の神官長が担ってきた彼という存在を補佐し、時に護る役目。何時か、その役目を終える時は、果たして来るのだろうか。もしもその時が来るのだとしたら、彼の瞳には何が映るのだろう。それが幸福であったらいいと、フランは願わずにはいられなかった。



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