第41話 想起-1


 サンクティオでの三人の無事を確かめた翌日から『宝探し』をソリオとティエラに任せた残りの三人は、中央図書館に詰めていた。

 アカデミーの中央図書館は、ルーメン各地から集められた資料や書籍が集められた、まさに知識の宝庫だ。その為、サードの研究者たちの姿も多くみられる。普段は静かに各々が研究や読書に勤しむその場は、今日に限っては普段には見られない華やかさに少し浮足立っていた。三人が座る席には何冊もの書籍が積み上げられていて、周囲からの視線はあまり感じられないが、ひそひそと遠巻きに彼らを見ている生徒たちの声が聞こえてくる。


「ここは何時もこんなに騒がしいのか? これで皆は集中できるのだろうか」


「今日は仕方ないよ。君が居るから」


「俺の所為か? 」


 カーティオは慣れた様子で本から目を離さずにリテラートの疑問に答えたが、質問した彼はきょとんと首を傾げた。その姿に、遠くから声を潜めた悲鳴が上がる。


「ほら、集中して、明日には方針を固めてフォルテたちと話をしなくてはいけないんだから」


「ああ、そうだな」


 促されたリテラートがまた手元へと視線を落とすと、カーティオは周囲へ向かって唇へ人差し指をあてて静かにと伝える。すると遠巻きにしていた生徒たちがハッとして口を噤み、黙ったまま頷いて散っていった。

 再び図書館内を静寂が支配する中、三人の間にも心地良い間隔で紙をめくる音がしている。しばらくしてパタンと厚い本を閉じたリデルが立ち上がった。


「幾つか気になる書籍を何冊か持って一度サロンへ戻ろう」


「何か分かったのか? 」


「漠然とだけどね。後、神子に確かめたい事がある」


 普段、ティエラはもちろん、カーティオやリテラートをリデルが神子と呼ぶことがない。そんな彼が、今、真っ直ぐに自分たちを見るそれが、何処か問うような視線だと思ったのは、カーティオ自身が思う所があるからだろうか。


「そうだね。どのみちここでは話し合いは無理だから」


「それがいい……慣れない事をするものじゃないな。帰って少し休憩もしたい」


 ぐっと伸びをしたリテラートは、さっさと目の前の本を片付け始める。その姿にカーティオとリデルは顔を見合わせてくすりと笑うと、自分たちも手元の本を片付けていった。


 三人がそれぞれに本を抱えてサロンに戻ると、ちょうどティエラがコーヒーを淹れる準備をしていた。


「おかえり、三人とも。ちょうどよかった。ソリオがお疲れだから、ちょっと休憩しようと思っていたんだ」


 ゴリゴリと豆を挽く音と共にサロンには独特の香りが漂う。一目散にティエラの前のカウンターへ陣取ったリテラートは、その手元を覗き込んだ。以前、ティエラの見よう見まねで自分も淹れてみたが、ティエラのそれとはまったく別のもののような味になってしまった。後で聞いてみれば温度やお湯の注ぎ方も色々あるらしい。


「それで、成果はあった? 」


 自分の手元から目を離さず、ティエラは目の前に座るリテラートに問いかけた。それにリテラートはうーんと唸って、首を振った。そんな彼の姿を後ろから見ていたカーティオが苦笑いを浮かべる。


「リテラートが座学苦手なのは分かってるけど、サードの帝王学は逃げられないよ」


「今、それを思い出させないでくれ」


「それで、本当は? 」


 カーティオの苦笑い以上に苦虫を潰したような顔をしたリテラートに、ティエラはあははと声を出して笑うとリデルの方を伺うように見た。


「何かが分かった気がするんだ。その為に神子たちに聞きたい事がある」


「分かった。じゃぁ、まずは皆でお茶だね」


 湯気の立つカップを五つ、テーブルに運んだティエラはソファで瞳を閉じていたソリオの肩を揺する。


「ソリオ、皆が戻ってきたよ。起きれるならちょっと話をしよう」


「ん……分かった。起きる、今起きる」


 揺すられたソリオは起きると口にしながらも、なかなか目が明かない様子だ。


「ソリオはどうしたんだ? 」


 何時もの場所に座ったリテラートは、余り見ないソリオの様子に心配そうにティエラに問いかけた。


「うん、『宝探し』の仕掛けを作ってたんだ。今の参加グループ数と同じだけのものを作らなくちゃいけないから魔力を相当使ったらしい。俺も手伝ったけど、ほとんどはソリオがやったから」


 何週間も掛けて一つずつもたらされる手懸りを使い、答えを得ていくとやがてそれは一つの場所と言葉を表していた。

 それぞれの手懸りが示された場所には、元々神子と季節の女神を現わすものが置かれている。そして、そこには問題が置かれ、正解すると一つの文字と次の場所の手懸りがもたらされるようになっていた。元々あるものを目的場所としたため、ある程度の推測は出来たが、先回りをしても、決められた手順を踏まないと正解にはならない様に予めソリオが仕掛けを施していた。流石にそこではそれまで積み上げたものを消すようなことはしなかったので、改めて然るべき時に然るべき手順を踏めば次への道は示されたらしい。そうやって、起点の大講堂から全部で七か所を回り、八か所目で最後の文字と水晶の欠片を手に入れる。仕上げにそこに置かれた水晶の欠片を手に八つの文字から示される言葉を唱えると仕掛けが発動してクリアとなる。

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