第一章 ボーイミーツガール・・・・・・ガール?
第6話 天野 未来の生き方は
「行ってきます!」
玄関口で両親に元気よく挨拶をしてドアを閉める。さぁ、いよいよ僕の高校生活のスタートだ!
僕は
返事は元気よくはきはきと、挙手はいつも天に向かって真っすぐに上げ、立っている時はちゃんと「気をつけ!」の姿勢を心がける。クラスメイトには「軍人かよ」と言われ、父には「競艇選手にならないか?」などとよく言われる。なんでも選手養成学校は軍隊並みに厳しい世界らしい、全く父さんはボートレース好きなんだから・・・・・・ギャンブルはダメだよ。
とにかく今日から高校生。まず元気よく自己紹介をして、クラスの委員長にも立候補しよう。中学時代はあまり友達も出来なかったが、高校生になったらきっと僕と同じような志の友人も出来るだろう。何しろもう真面目に将来の進路を考える時期に来ている、義務教育の時期とは違うんだから。
女子に関しては・・・・・・まぁいいや。どうせ女の子には僕のような真面目な性格は受けが悪いだろう。現に中学時代憧れていた女の子は不真面目でチャラい男と付き合い始めた。告白こそしなかったが実質は振られたようなものだ、女子なんてそういうものだろう。
そんな事を考えながら、学校手前の横断歩道に並ぶと、道路の向こう側にいるおばさんが目に入った。その腕には一匹の子犬が抱かれている、それを見た瞬間、胸に黒い不快感が沸き立つのを覚えた。
(朝から嫌な物、見たなぁ)
僕は動物が嫌いだった、特にペットが。犬でも猫でもハムスターでもそうだが、どうして人は動物を飼うなんてことをするのだろう、餌やりやフンの処理なんてよく出来るよなぁ、家畜ならともかく単に可愛いっていうだけでよく世話なんて出来るもんだ。
父さん曰く、僕は幼い時に猫に引っかかれて腫れ上がり、熱を出した経験があるそうだ。よく覚えてないけど、どうやらそれがトラウマになっているらしい。
ふぅ、と息をついて視線を外す。そうだ、人は人、僕は僕だ。他人の嗜好にとやかく思うべきじゃないな。
と、気を抜いて気づいた。なんか右から視線を感じる・・・・・・誰、何?とそちらに目をやる。
どきっ、という胸の鼓動がまともに響いた。
僕を見ていたのは、少し背が低い女生徒だった。同じ国分寺高校のセーラー服を着た、黒髪を長くたなびかせて佇む綺麗な女の子。目が合うと右手をひらひらさせて笑顔を向けてくる。
なんだろう、ものすがく惹かれる、目が離せない、動悸が鳴りやまない・・・・・・すごく、奇麗だ。
いけないいけない、女の子に色目を使うなんて柄じゃないし、それにどうせ彼女も僕を知ればお堅い男だなんて笑われるにきまってる。そもそもそれ以前に二度と会わないかもしれない、不純な事を考えるのは止めよう。そう思って再び前を見る、が、頬が熱を持ってしょうがない、いかんいかん、考えるな感じるな。
しばらくしてようやく動悸が収まり、視線が定まった。その目に映ったのは・・・・・・さっきの犬が飼い主の胸から飛び降り、こちらに向けて駆けてくる姿! 信号はまだ赤なのに!!
(行けっ!)
僕が僕に命令する。右からは迫り来るトラックの気配がする。考えるより先に道路に飛び出し、その子犬目掛けてダイブする。このまま犬を抱き抱えて反対車線まで転がって行く!
がしっ。
体が固定されて、転がることが出来すに道路に横倒しに滑り込む。ああ、間に合わなかった、撥ねられてしまったのか。僕としたことが、やってしまった、ここで死んでしまうのか・・・・・・
でも背中の感触がなんか柔らかいなぁ、トラックってこんな柔らかかったっけ?
――なんしょんじゃあ!このボケがあぁぁっ!!――
そんな怒号で我に返り、目を開けて最初に視界に入ったのは、さっき見た飼い主のおばさんだった。目の前にしゃがみこんで自分から犬を奪い取ると、よかったねぇと愛犬を愛でつつそのまま去って行ってしまった。
でもその態度が逆に僕に、車に撥ねられずにすんだことを教えてくれていた。とにかくどかないと、と体を起こす。でもまるで背中におもりがついているような負荷を感じて、完全に立ち上がる事が出来ずに道路に片膝をつく。
「あ・・・・・ごめんなさい」
背中にあった柔らかくて暖かい感触が離れる、その正体はさっきの女の子だった。え、もしかしてこの子、僕を庇おうとしたのか、いや、犬の方を?
「・・・・・・え、君、大丈夫、ケガとかしとらん?」
なんて無茶を。この子はあの一瞬で僕か犬かのどちらかを庇おうとして道路に飛び出したのだ。こんな華奢な女の子があの犬を掻っ攫ってトラックを躱すなんてできっこないのに。現に彼女の制服の右腕の裾が破れている、僕に後ろから抱きついて道路にこすり付けたのだから当然だ、その下はもちろん派手に擦りむいているだろう・・・・・・女の子の体に傷でも残ったら!
「なんて無茶するんだ!!」
「なんて無茶をするの!」
僕と彼女の声がハモる。え、何で僕が怒られてるの?
周囲から拍手と口笛とスマホのシャッター音がする・・・・・・なにこの状況。
「と、とにかく、どかないと!」
女の子の手を取り、一緒に立ち上がって肩に手を回し、すでに青になった横断歩道を向こう側まで渡る。普通に歩けるところを見るに足腰に怪我はなさそうだ。
「大丈夫、病院に行く?」
「ええっ!? う、ううん、、全然ぜんぜん大丈夫、だから!」
一歩引いてぶんぶん首を振る女の子。でも駄目だよ、轢かれなかったとはいえ交通事故なんだし、腕も擦りむいているんだからちゃんと診てもらわないと。
「お、お騒がせしましたぁっ!」
でも彼女はそう言って深々と頭を下げると、僕を振り切って横断歩道を戻って走り去ってしまった。ああ、目立つのが嫌いなんだな。でもそれじゃ駄目なんだよ、と、ふぅと息をつく。
僕はその後父さんに電話して来てもらい、トラックの運転手さんと示談の話をつけてもらった。急ブレーキを踏ませてしまった以上中の荷物が破損した可能性はあるし、何より後から事故という形で発覚すると運送会社の信用にも関わるだろう。こういうことはキチンと話を収めておかないといけないのだ。
「後は父さんが話しておくからお前は学校に急げ、初日から遅刻なんてカッコにならんぞ」
そう言われて思い出す、そうだ今日は入学式だ、急がないと!
全力ダッシュの甲斐もあって、なんとか遅刻寸前に校門に滑り込むことが出来た。人のいなくなったクラス分けの掲示板から自分の名前を探し、1年3組に見つけると校舎に飛び込んで教室を探す。ようやく見つけて入室した時には校内放送で「新入生は体育館に集合してください」のアナウンスが流れ始めていた。
空いている机を探す。残っているのは窓際の最後方と教壇の目の前の最前列のふたつだ、僕は迷わず教壇の前の机にカバンを置き、上履きを取り出して体育館に向かうみんなの後を追う。
入学式がつつがなく終わり教室に戻ると、すぐに先生が来てホームルームが始まった。体格のいい厳格そうな男の先生に教室の空気が引き締まる。うん、望むところ!
「担任の
全員が「はい!」と返す。もちろん僕も負けないように元気に返事を返した、いい緊張感だ。
「あー、じゃあ自己紹介の前に・・・・・・
はいと答えて前に出たのは、背が高くてがっしりした体格の男子生徒と、やや丸みのある眼鏡をかけた色白の女生徒だった。クラスの中の何人かは彼らを知っているようで、僕もまた本田君はよく知っていた。
「とりあえず一学期は本田に委員長を、宮本に副委員長をやってもらう、自己紹介を。」
ああ残念。一学期の委員長はすでに決まっていたか、でも本田君なら無理もない、中学時代に同じ西中の柔道部で個人戦全国大会まで行ったスター生徒だ、ここは譲るしかないか。
宮本さんの方は古田中出身で、全国文学コンクールで金賞を取ったいわば作家の金の卵だそうだ。なるほど見るからに知的な感じがして、体育会系の本田君といいコンビに見える。
「では順に自己紹介してもらおう、まずは出席番号1番、天野。」
「はいっ!」
待ってましたとばかりに立ち上がる。言うセリフも決まっている、さぁ、行くぞ!
その時、教室のドアが勢いよく開き、僕の言葉を押し止める、何事だ?
「す、すみませぇん、遅刻しましたぁー。」
ドアを掴んだ手を支えにぜぇぜぇ息を吐いて教室に入って来たのは、黒髪をポニーテールで纏めた女の子だった。部屋にやれやれという空気が流れる中、僕はその子から視線を外すことが出来なかった。
教室で唯一起立している僕と、ひとりドアにたたずむ彼女が当然の如く視線を合わせる。
惹きつけられる、その姿にどうしても見入ってしまう、頬が思わず熱を持つ。間違いない、この娘は!
「君は・・・・・・今朝の!」
「え、え?ええー! 君このクラスなのーー!?」
こうして僕は彼女、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます