花が散り穏やかな風の吹く季節4

白夜のあんなに必死な表情を見るのは初めてで衝撃のあまりすぐに動けない。


思わず耳にした本音…


「白夜くん、大丈夫!?」


やっと出た言葉がそんなものか…

いつもより少し大きな声を出しただけで、呼吸が乱れ、苦しそうにしている。


自分がなにも言えなかったから、大きな負担を掛けてしまったじゃないか…


「…ヤマ…さん…俺の事はいいから……柏を…」


「いや、でも…白夜くん、とりあえず横になろう?」


保健室の扉は開いていない。

だから、白夜の事を優先したかった。

それなのに白夜は殆どない力を振り絞って腕をぎゅっと捕まえる。


「…かし…わを…救い…たい…救おう…おねが…い…」


弱々しくも強い強い想い。


「……わかった、わかったから、横になって安静にしているんだよ?」


ベッドに再び横になった白夜は、小さく頷いて、腕を掴んでいた、いつもひんやり冷たい、か細い白い手をスッと離した。

カーテンの外へ出て、すぐに大希の姿を目で探す。

幸いひとつ瞬きをしたくらいで、すぐに見つけられた。

自習をしていた机に戻って伏せっている。


「……大希くん…。」


しまった!

なんて声をかけるのか、考える間がなかった。

こういう時、河村なら上手に言葉を繋げられるんだろうな……。

とりあえず、背中にそっと触れて、優しく撫でる。

抱えていた悩みを爆発させて、本人もさぞ戸惑っているんだろう……。


白夜があの状態に加えて咳までしているのが、やっぱり気になるが、大希を放って戻ったりしたら、怒るんだろうな…。


途方に暮れていると、タイミングよく河村が用事を終えて戻って来た。

扉を開けるなり、ただならぬ雰囲気を読み取ったようで、もはや、窮地を救う女神様にしか見えなかった。

すぐに大希の事を託して、白夜の元へ戻る事が出来た。

一目でわかるほどに、あまりにも状態が悪かったので、念の為、病院に連れて行こうと思って美羽に電話で連絡を入れたのだが、それは即座に拒否されて結局は柊の家にただ戻る事になった。

病院に行った所で、白夜にできる事は限られている。家や学校より設備が整っていて、頼れる医師や看護師が大勢いるくらいしか利点はない。

美羽は「ヤマさんがいれば大丈夫でしょう?」なんて言うが、そんなに頼られるとプレッシャーが大きくなってばかり…。

幸い薬がすぐに効いてくれたようで、咳は落ち着いてくれた。

広いダイニングの片隅でお手伝いさんが用意してくれた、昼食のサンドイッチを、ゆったり食べている白夜を静かに見守る。

食欲もありそうだし、顔色もさっきよりはだいぶ良い。


「……あの、ヤマさん…。」


「どこか辛い?…部屋に戻って横になる?」


白夜は首を横に振る。


「…そうじゃなくて……俺の考えって…変なのかなって…。」


「全然変じゃないよ。」


生きたいと…

死にたい…


背中合わせの思い。


希死の願いの本音は、生きていたいということの裏返しでもあって…


救って欲しいと言えないからこそ…


横まで歩み寄って、腰を屈め目線を合わせる。


「……柏と話し…できないかな…。」


「河村先生と相談してみよう?」


頷いてそのまま下を向いた白夜の目からポツポツと涙が溢れる。


こんな時も、かける言葉がすぐに出てこないなんて……。


軽々しい言葉は傷を増やすだけ。


どうしたら?


そうだ、、


こんな時には


うたを、メロディを、口ずさんで、自分には言葉なんて要らなかったじゃないか?


優しく背中を撫でて、小さく小さく、あの日から大切にしていたメロディをうたった。


能力を無くしていても、きっと、どんな言葉をかけるよりも役に立つ。


なんで、忘れていたんだろう。

こんな容易い方法を。







































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