花が散り穏やかな風の吹く季節3
「ヤマくん、柏くんのお昼ごはん、邪魔しちゃダメよ。」
「あーすみません、大希くんごめんね。」
謝ると下に向けていた視線を再び上げて、一瞬だけど、こちらを向いて、ぴたりと目を合わせてくれた。
とても優しくて…
どこか寂しそうな目をしている、そんな印象を受けた。
勝手に力を利用しようとするのは、あの人と同じ考えで…どうかと思うが、白夜の力を使って、この子の心の悩みも癒してあげられないだろうか……
「お茶、淹れようか?」
「あ!河村先生、ぼくがやりますよ!」
「ヤマくん、できるの?」
「それくらい、できますよ〜」
苦笑いすると河村は「そうよね。」と、言って笑う。
不器用ながら、お茶を淹れるのだけはできるのに…どうしてそんな反応なんだ。
お茶の葉っぱを急須に入れて、ポットのお湯を適当に注ぐだけだから、とても簡単だろう。
……確かに普段はペットボトルのお茶で済ませてしまうけれど…。
お茶を淹れたあとは、そのまま自分のパソコンのあるディスクに戻る。
お茶を啜り持ち込んだコンビニのおにぎりを片手で食べながら、病院に提出する書類を、苦手なノートパソコンに向かって作成する。
ランチの時間が終わってすぐの昼休みに朔が尋ねて来て、すぐ横でしばらく騒がしくしても目を覚まさず、そのまま午後の授業の時間になっても、白夜は、まだ眠ったままだ。
脈も呼吸も落ち着いているから、今は特に問題はないだろう。
しかし、時間的に昼ご飯を食べさせて昼の分の薬を飲ませたいのだが、さて、どうするか……。
寝顔を覗きながら、毛布をキチンと掛け直していると、近づいて来る足音が聞こえる。
河村は職員室に用事があって出て行ったし、今、保健室に他にいるのは、自習をしている大希くらいだ。
「大希くん、どうかした?」
声を掛けると静かにカーテンが開く。
振り返って目線を向けると、ボソボソとやっと耳に届くような声量で
「……どうして学校に…連れて来る…」
そんな事を呟く。
疑問に思っても無理もないか……
「……連れて来てるんじゃなくて、白夜くんがここに来たいから、ぼくがついて来ているって言った方が正解かな…?」
「……嘘だ……絶対に嘘だ!!」
言い放ってその場から去ろうとする大希だったが
「…柏……嘘なんかじゃない。」
あたたかく全身をふわりと包み込むような声の音色に引き止められて動けなくなる。
目を覚ましてすぐに急いで起き上がろうとしている白夜に慌てて手を貸す。
目と目が合うと静まり返る。
なにか声をかけて、2人の間に入らなければと思うのだが、残念ながら肝心な時にすぐに言葉は出てこない。
「……ここに来たって、ただ利用されるだけで…決まった道しかない…自由なんてないんだ。……だったら黙って死んだ方がマシじゃないか!?」
「………!」
そんな風に考えた事はなかった。
死んだら自由になる…?
利用されている
確かに
それは……
間違いなんかじゃないのかもしれない。
…その為に生かされている…
「……柊なら…すぐ死ねるだろう?羨ましいなぁ……」
違う、違う…
確かにそうかもしれないけれど
例え未来が決められていても
どうしてそんな悲しい事を言うんだ。
これをそのまま言葉にして口に出したいのに、なんて情けない。
黙って聞いていた白夜が深く一呼吸して
「生きてれば、なんとでもなるだろう……どうにだってできる!たくさん選択肢がある。……俺には、そっちの方が羨ましい!柏は俺に比べたら全然自由じゃないか?なのになんで、死ぬ事を選ぶんだよ!?柏は普通に生きられるのに…明日も確実にあって、その先もずっとずっと普通に生きていけるのに…」
強い口調で怒りをぶつけるように、そう言って大希を睨む。
一瞬驚いた大希は顔を上げ、白夜と目が合うが、すぐに顔を下げて逃げるように目線を逸らし、その場から走り去って行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます