花が散り穏やかな風の吹く季節2
なにをしても自分より長けていた親友が羨ましく、憎ましい事もあったけれど…
それでも……
「ヤマさん!」
名前を呼ばれて思い出に浸っている場合ではなかったと反省する。
朔の顔を見上げ目線を合わせる。
「どうしたの朔ちゃん?」
「そろそろ、さくちゃんはクラスに戻ります。びゃくちゃんを引き続きよろしくお願いします。」
「あ、はい、はい。」
朔は、自分には丁寧に頭を下げて、白夜には爽やかな笑顔で手を振って、パタパタと走ってクラスの待機場所へと戻って行った。
さすが、育ちがいいホンモノのお嬢様は違うもんだな。
「ヤマさん……」
今度は白夜に呼ばれ、姿勢を低くする。
「白夜くん、どうしたの?」
「……えっと…その………やっぱり…なんでもないです。」
言いたかったことは、だいたい予想が付く。
みんなと一緒に走ったり、踊ったり…
それに大きな声を出して応援したり
やりたいこと、やってみたいことが、それはそれは沢山あるんだろう。
身体の状態の事もあり、仕方がないとはいえ、なにひとつ叶えてあげられないのが、もどかしくなる。
それを自ら理解して、言葉を呑み込んでしまうのも可哀想に思える。
どうすることも…
いや!
「……よーし、元気そうだし、残りの種目、全部見学しちゃおうか!」
「…いいんですか?まだ綱引きとマスゲームと…それに閉会式の練習もあるはず…。」
「見学の間は、ずっと、ぼくがついてるんだし、それに、もしも具合悪くなったら、ちゃんと言ってくれるよね?」
白夜は小さく頷いて、嬉しそうな顔を隠すように下を向いたまま
「……ありがとうございます…。」
そう呟いた。
それにしても、体育祭のタイムスケジュールしっかり全部覚えてるのはちょっと驚いたかな…。
そのまま静かに体育祭の見学を続けて、最後まで見ていることは出来たけれど、戻る途中でウトウトして、そこから急いで保健室に戻た途端、疲れが出たのか、すとんと深い眠りに落ちてしまった。
…さすがに、何も言い出さないからって、ちょっと無理をさせてしまったかな…。
担任の枦木先生と柊の家に連絡を入れて、目を覚ますまでは、保健室のベッドを借りる事にした。
一通り診察を終えて、ベッドを囲うカーテンを出ると、河村の横で小柄な身体には似合わない大きな弁当を、黙々と食べている柏 大希が目に入る。
朝、ここへ来た時には姿を見なかったから、てっきり今日は登校していないものだと思っていた。
「ヤマくん、柊くんは大丈夫?」
「大丈夫ですよ、ご心配なく。」
大丈夫、というか、酸素の量を調節することと薬を与えるくらいで、他は何も出来ないというのが、正解なんだけど…細かく言う必要はないだろう。
「ヤマくんも、少し休んだら?」
「では、そうさせていただきます。」
わざとらしく大希の隣の椅子に、よっこらしょと腰掛けてみる。
無視されるものだと思っていたのに、弁当を食べる手を止めてこちらに目線をくれた。
微笑みを返すと、案の定、睨まれてしまったが…負けずに食いつく。
「…お弁当美味しそうだね。」
「……関係ないだろ…」
そう言って、そっと弁当に蓋をする姿が、なんとも可愛らしく思えた。
自分の息子たちも…こんな風に可愛いんだろうか…?
確かに、この腕に抱いた小さな頃は可愛かったはずなのに
今はそんなことも、わからないなんて。
ちっとも、可愛がってあげられなかった……
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