花が散り穏やかな風の吹く季節
あれから、あっという間に数週間が過ぎた。
長い連休が明けると、もうすぐ1学期最初の大きな行事、体育祭がある。
白夜にとっては初めてで、通常クラス、特進クラス共通で、みんなにとっては中等部で最後の体育祭だ。
すっかり葉桜になった木々の隙間から空を見上げると、既に日差しは夏のようだ。
全ての授業を受けて放課後まで学校にいるというところまでは叶っていないとはいえ、白夜は、今のところ毎日休まずに学校へ行けている。
保健室に1時間いるのが大変な日もあるし、昼まで元気にクラスの教室で過ごしている日も僅かながらある。
ただ、柏 大希との関係は、縮まることもないままだ。
一緒に保健室に居ても、お互い話す事もない。白夜は、時々気にしているようだが、声をかけられる雰囲気でもないし…。
加えて、河村が場の空気を読んで、何かが起きる前に大希を隣の相談室に、そさくさと連れて行き、顔を合わせないように対処をしてくれているのに甘えてばかりいる。
このままで、本当にいいのだろうか?
自分が気にする事ではない、と、わかっていても、ずっとモヤモヤしている。
クラスの方は白夜の能力の影響なのか、以前より穏やかになったと、担任の枦木先生が、ついこの間、わざわざ待機している保健室まで尋ねて来て直接話してくれた。
この学校の特進クラスは能力者揃いで、個性に溢れて、手に負えないことも、しばしばあるのを知っているから…
「ヤマさん?」
車椅子を押す足を、無意識に止めてしまっていた。
「あ、ごめん、ごめん、考え事。」
今日は調子が良いし、いつもは保健室で待機させてばかりのグラウンドで行われている体育祭の練習を、はじめて見学させようと、外に連れ出したのに…
さすがに長い時間は、日差しも風もあって無謀だろう。
それなのに時間を無駄にしてしまうところだ。
再び足を進める。
「…風が気持ちいい…空がとても綺麗だ。」
ふとした呟きが嬉しくなる。
「…具合は悪くない?大丈夫?」
それなのに、自分は、つい余計な事を聞いてしまうんだ…。
「……ヤマさんはそればっかり。見ての通り元気ですって!」
ほら、いつも通りすっかり拗ねてしまった。
子供の扱いにはどうも慣れないというか、真面目過ぎるのがいけないのだろうか…?
でも、仕事中なんだから仕方ない。
グランドに着くと、朔が真っ直ぐに白夜を見つけて駆け寄って来る。
女子が、リレーをやって声援も盛り上がっているのに参加していないのだろうか?
それにしても、朔は普段のフリフリワンピースな姿とは違って体操着を着ていると体格的にも男子に見えるような?
ただの気のせいだろう…。
制服は個性がない!と、嫌がって着ないらしいのに、体操着はちゃんと着るんだな。
「朔、男子は走り終わったのか?」
「ええ、ちょうどさっき。」
「走ってる朔、見たかったな……」
「あたしも、びゃくちゃんに見てもらったら、もっと頑張れそうだわ!」
「じゃあ、本番は、ちゃんと見れるようにしないと、だな。もちろん応援もするぞ!」
「びゃくちゃんの応援があれば、めんどくさいだけの体育祭も、すごく楽しくなるわ。」
「めんどくさい?」
笑い合って楽しそうな2人を黙って見守る。
自分も親友とこんな風に楽しかった日々を過ごしていた頃の事を、また、少し思い出した。
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