はじまりの季節15
カーテンの向こう側の2人の顔を見る事もなく、帰りの挨拶だけを投げかけて、急いで帰り支度をまとめた。
途中何度か咳をしていた白夜が気になっていた。やはり身体には相当な負担が掛かってしまったのだろう。
さっきから、そればかり気になっている。
美羽に責任を負わなくてもいいと、言われていても、気にせずにいるなんて、やはり自分には絶対無理そうだ。
戻ってすぐに診察をする。
ベッドに横になって少しの間、さっきの事が無かったように、授業中の話しだけを楽しそうにしてくれていたが、すぐに、うとうとして白夜は診察されながら深い眠りに落ちていった。
短時間でも慣れない場所に行って、とても疲れていたようだ。
もはや何をしても起きる気配がない。
ノックの音がして「はい。」と答えると、いつもと違ってしっかり化粧をして服装もどこか派手な美羽が部屋に入って来る。
仕事を終えてバタバタと戻って来た感じか…?
「ヤマさん、お疲れ様。ありがとう…。」
労いの言葉を投げて、そのまま真っ直ぐに眠っている白夜のすぐ近くに歩み寄って手を握る。
とても大切に思っている
唯一無二の宝物のように
そして親子、それ以上に…
感じ取るのに時間はかからなかった。
元々はイトコだと、白夜に聞いた時には少し驚いたが…
高能力者の特別な血筋の家系では、ごく自然で当たり前の事だ。
彼らは…
人間でいて
人間ではない
そんな事を言っていた人もいたくらいだ。
「……今のところ、現状のまま…特に大きな異常はないです。かなり疲れちゃったみたいですが……会話の途中で、ぐっすり寝ちゃうくらいですから。」
「そう…。」
美羽には、簡単にではあるが、大希との出来事を、帰り道の車内からメールで伝えてある。それで尚更心配しているのか?
「明日は念の為、お休みさせますか?」
「……いいえ、白夜本人が休むって言わない限り、1時間でも…いえ30分でもいいわ、学校に連れて行って。」
「……わかりました。」
「…止めないのね…?」
「あれ?止めた方がよかったですか?」
おかしくなった美羽はくすくす笑いだす。
釣られたヤマも微笑む。
明日を諦めない力
今は、それを精一杯支えよう
「何かあったらすぐ呼んでください。」
「ありがとう……ヤマさん。また明日からもよろしくお願いします。柏くんだっけ?あまり…気にしないで。白夜の能力を…Sを良く思っていない他の能力者も、少数とはいえ、それなりにいるのだから。」
「……そう、ですね。昔から…」
「見ての通り本人は能力うんぬんの前に、生きているだけで、やっとなのにね。」
玄関先で美羽とお手伝いさんに見送られ、車に乗って慣れた道を通って病院に戻る。
そういえば、美羽は朔との事をどう思っているのだろうか?
友達というのは知っているだろうが…
椿の家と柊の家…
能力者同士の家は……
それに…
自分自身の為にはならない力…
どうしてこんなに辛い辛い
試練ばかり与えられて…
まるで自分のことのように悔しくなる
同じように力を持ちながら
あの時も苦しい思いも殆どせず
そして、今はなにもしがらみも無く
悠々と生きている自分が
どこか悍ましくなる
この日の病院での仕事を終えるまでに、柊の家からの緊急の連絡はすなく安堵した。
また明日
あの、とても楽しそうな笑顔を見たい。
心から笑ってほしい。
幸せだと思える時間を、たくさんつくってあげたい。
こんな思いを自分の
家族にも抱けていたのなら…
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