第59話 こんなときになんだよ!

身体強化コールプス・フォンフィルマーティオ!」


 ジップオレは、ユーティの激しい剣戟に攻められながらも、かろうじて魔法を発現させる。


 すると体の動きが一段と加速して、それでようやくユーティの動きを捉えることが出来た──と思った矢先。


「──!?」


 ユーティの動きがさらに早くなる!


「魔法を使うなら、もっとスピードをあげるよ!」


「冗談だろ!?」


 もはや、ユーティが操る切っ先が無数に見える!


 これでは身体強化しても追いつけない! 斬りつけられるぞ!?


防御結界ディフェンシオ・オービチェ!」


 身体強化を解除して物理結界を展開するも、一気にヒビが入る……!


 まるで、機銃掃射でもされているかのようだ! レイピアの突きに過ぎないというのに!


 ダンジョン都市最高レベル冒険者が張り巡らす結界が、ガラスのように砕け散る!


「──っ! 多重展開ムールティ・インストゥルーエ!」


 防御結界を幾重にも重ね掛けする。だがそれでもダメだ。強度自体は変わらないから、次々と打ち砕かれて結果は変わらない!


 これでは防戦一方だぞ……!?


 多重展開した結界で剣戟を防ぎ、それでも突破してくる切っ先をかろうじて避けてはいるが、避けられるのは偶然に近い! この状況では攻撃がまったく出来ないし、魔法を防御に全振りしているから攻撃魔法も使えない!


 だがここで残機を使うわけには……!


 しかしユーティが、何かしらの固有魔法を使っているのなら、こちらもそれで対抗しないと勝ち目がないぞ!?


 っていうか前人未踏と謳われたレベル64の冒険者を、こうもたやすく追い詰めるとかどんな固有魔法だよ! 剣技系の魔法なのか!?


「ぐっ……!」


 しかし推測をする暇さえ与えられない! ユーティの突きが右腕をかすめて血しぶきが飛んだ!


 もうこうなったら残機を出すしかないか!?


 ──と、そこに『声』が飛び込んでくる。


(おい本体! まずい状況になった!)


 実家に置いてきた準本体!? こんなときになんだよ!


(レニに正体がバレた!)


「はぁ!?」


 思わず驚きの声を上げるオレに、ユーティが怪訝な表情になるも、攻撃の手は緩めてくれない。


(例によって、朝っぱらからベッドに潜り込んできたと思ったら『あなた誰!?』って大騒ぎだ!)


 なんでだよ!? 本体オレ準本体お前に違いなんてないんだぞ!? それこそ遺伝子レベルで!!


(お前に分からないことがオレに分かるわけないだろ! とにかくバレて、いま実家で大騒ぎだ!)


 こっちはそれどころじゃないんだよ! なんとかしろよ!?


(なんとかと言われてもな! さらにギルドまで動き出してる!)


 だからなんでだよ!?


(お前らが戦ってるからだよ! カリンに魔力を感知されたんだ!)


 カリンの固有魔法か!?


 とてつもない索敵が可能なカリンなら、オレやユーティが使っている魔力だって当然感知するだろう。まさか早朝から稼働しているとは思わなかったが──都市防衛の要という話だったし、カリンの固有魔法は、24時間365日常時発現しているのかもしれない。


 だとしたら、カリンを叩き起こしてしまったな!?


(冗談いってる場合か!)


 冗談でも言ってなくちゃやってられ──


「──くっ!」


 一瞬の隙を突かれて、オレは足元を払われる。


 そうして体勢を崩して、地べたに転がってしまった。


 慌てて起き上がろうとするも、上体を起こしたところで剣を突きつけられる。


「わたしの勝ち、だね」


「……マジかよ」


 勝利に喜ぶ様子もなく言ってくるユーティを見て、オレは愕然とした。


 決して、奢っていたつもりはない。


 さらにこの戦闘で気を抜いていたわけでもない。


 だというのにユーティの戦闘能力は圧倒的だった。


「レベル29というのは……嘘だったのか?」


 オレがレベルを低く設定されているように、ユーティも同じなのだろうかと思ったが、彼女は首を横に振る。


「ううん、レベルは本当。ただわたしは、レベル上げに興味がなかっただけ」


 レベル上げに興味がなくても29に到達しているだなんて、そのポテンシャルは計り知れないな。


 そんなことを考えていたらユーティが話を続ける。


「これで、ダンジョン上層にわたしを連れて行く理由は分かったでしょう?」


 確かに、これほどの戦力ならば、オレとパーティを組んでも遜色ない──どころか、是が非にでも一緒に来てほしいが……


 だからオレは、素朴な疑問を口にする。


「けどお前、食料の調達はどうするつもり──」


 オレが言いかけたところで、森の向こうに気配を感じて言葉を止める。


 まさか、もうギルドの連中が到着したのか?


 気配のするほうへと視線を送ると、果たしてそこにはミュラの姿が現れる。


「都市内での戦闘行為は厳禁です。これはどういうことですか?」


 さらに樹々の合間からは、警備隊十数名も現れた。

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