8 ウラノン城(一) ②
やっと例の通用口の前に着いたが、ここで問題が起きた。その扉に鍵がかかっていたのだ。
「開かないな。どうしよう……」
「壊して入る? それか燃やす?」アオイが提案した。
「それじゃあダメだ。そんなことしたら本当に敵だと思われる」
「そもそも、どうしてベンはそんなにこの城に執着するの?」と切り出したのはルーカスだった。
「何をするためにこの城に入ろうとしているの?」
「……最初、ホール一般学校の図書館でいろいろ調べただろ? そこで、たまたま『復活の魔法』というものを見たんだ。それは復活というよりは再生に近いんだが、完全に死んだのでなければ、人間の身体の一部を再生させることができるというものだった。俺はしばらく、そんな魔法使うことないと思っていて忘れていたんだが、状況が変わったんで思い出した」
「なるほど……」
ベンは扉から手を離した。
「その魔法を使うには、いくつかの材料がいる。1つは、材料というか、その魔法を使うことのできる人だ。それは特殊魔法の1つで、医療魔法のアオイは管轄外だからな。それと、次に、これもその魔法使いに帰着する問題だが、大量の血液だ。かなり高等な魔法であるから、通常の魔法とは比べ物にならないぐらいの血液が必要らしい。そして、3つ目、この魔法『リバース』を発動するには、金でできた燭台を用意する必要があるんだ。今になってそれを探す必要が出てきたんだが、ここは城。金の燭台がある可能性は高いだろう、この魔法の使い手よりも全然普通にあるものだからな。そして、問題の魔法使いも、もしかするとだが、いるかもしれない。……まあ、いずれにせよ燭台は手に入れたい」
「そうなのね……ありがとう」
ルーカスの、少し赤面して目を合わせようとしない姿に、ベンは心を掴まれていた。もっとも、それ以前から彼は彼女に惹かれていた様子だが。
ベンはもう1度扉を押してみたが、やはりびくともしなかった。
「別の入口を探そう」
ベンはルーカスをアオイに任せ、もう1つ扉を探し始めた。
彼は完璧に見張りの目を盗んでいるつもりだった。
しかし、現実は違った。途中で、彼は1人の見張りに目をつけられていたのだ。
「やあ、さっきから君は、ここで何をしているんだい」
背後から声が聞こえ、彼は驚きを隠せない表情で振り返った。
「いや、その……探検しています」
「探検するなら、ここまでどうやって来た? ただの観光客が、どの兵士にも見つからずにここまで来れるとは思わないが?」
「そ、それは……。あ、そうでした、1人、とっても優しそうな兵士さんがいたので、その人にお願いしました」
「それならば、その兵士はどこにいる? 案内しろ」
彼は困った。もちろんそんな兵士などいない。それに、この状態で、たとえば適当に1人兵士を選びその兵士に教えてもらったなどと言っても、次は2人がかりで捕えられるだけだ。しかし、そんなことをしていては、アオイたちと合流できなくなる。
「あれ、さっきの人、どこにいたっけな……」
そう言ってベンは誤魔化したが、兵士は全く表情を変えなかった。
「お前、本当は何をしにきた? そのローブ、……マージか?」
「あー、それはですね……」
兵士は突然口笛を吹いた。すると、どこからか、いや、四方から幾多の兵士がやって来た。
「この男を捕らえよ! 何者かはわからないが、きっとこの城を攻めに来たのだ!」
例の兵士がそう叫ぶものだから、他の兵士はベンに飛びつき、彼の身柄を取り押さえた。
「やめろ! 俺は攻めに来たわけじゃない!」
「うるさい! 企みを吐け!」
そうして、ベンはとうとう兵士の山の真ん中で身動きが取れなくなった。
彼はフィーレを使おうと考えた。
「お前ら、火に炙られたくなかったら離れろ!」
もちろんそれを兵士が聞くまでもなく、彼はフィーレを自分の周りに放った。
「熱い! こいつ、マージだ! やっぱりこの城を陥落させるつもりだ!」
兵士たちは彼から遠ざかった。
「俺は城自体には用はない!」
「それならば、どうしてここまで来た? 観光ならもっと遠くでしてこい!」
「ちょっと、何してるの?」
後ろからアオイの声が聞こえた。騒ぎを聞きつけて来たようだ。振り返ってみたが、ルーカスの姿は見当たらない。
「待て、アオイ! 戻るんだ!」
「でも、私たち戦う必要ないじゃん!」
「……確かに」
ベンは手の平の上から炎を消した。するとすぐに、背後から両手を拘束された。
「すまん、アオイ……、なんとかするから……」
彼はアオイの方を見たが、彼女も同様に拘束されていた。
「おい! そっちはやめろ!」
ベンは叫んだ。しかし、目の前の兵士に鳩尾を蹴られ、声がそれ以上出なくなった。
彼の耳にアオイの悲鳴が断続的に聞こえた。しかし、さらに何発も鳩尾を蹴られ、とうとう意識を失った。
ベンは、目を覚ますと、薄暗い場所で寝ていることを理解した。アオイのことを思い出し跳ね起きると、彼女は目の前の壁に寄りかかって寝ていた。
「おい、アオイ。大丈夫か?」
駆け寄って揺すると、彼女は目を開いた。
「あ、ベンくん……。ここ、どこ?」
アオイもゆっくりと起き上がってきた。
「わからない。だが、この湿っぽさと薄暗さ、それと寒さからすると、城の地下か、どこかの監獄って感じだな」
ベンは立ち上がった。
「私たち、どうすればいいの? ルウは置いて来てしまったし」
「どうしようか。ただ、ここには窓がない。だから窓から逃げるって選択肢はないな……。それに、あっちに警備員の姿が見える。安易に動き回れない」
「ベンくんの炎は使えない?」
「俺も魔法を使えるかと思ったんだが、見ろよ、これ」
ベンが腕を伸ばして、手首に着けられた腕輪を見せた。
「これはマージが魔法を使えなくするための腕輪だ。特別な細工はない。ただ単に、魔法を使う際に必要な血液をここで止めているだけの仕組みだ。しかし、これのおかげで魔法は使えない。アオイにも着けられているだろう?」
彼女は自分の手首を上げようとした。しかし、腕輪が重すぎてできなかった。
「そうなんだ……。どうやって抜け出そう?」
「抜け出すんじゃなくて、出してもらう、っていうのはどうだ?」
「どういうこと?」
「まずは、何かここの守衛の弱みとか、そういった類の情報を入手する。そして、それで奴らを揺らすんだ」
ベンは顎で1番近くにいた守衛を指した。
「そういうこと……。でも、どうやってその弱みを握るの?」
「それは難しい。だから、あいつの動きをじっくり観察して、がんばって見つけ出す、ってところだな」
「でも、そんなにゆっくりしていたら、私たちは大丈夫でも、ルウがどうなっているかわからないわ。私たちが捕まったときはまだ大丈夫だったと思うけど、今はどうかわからないもの」
アオイはいつでもルーカスのことをいろいろと考えている。
「ああ、そうだな。しかしルーカスはそんな容易く捕まるようなことはしないだろう。まだどこかにいるはずだ」
ベンの頭の中では、ルーカスが一人どこかにいる様子が描かれていた。しかし、本当にそうかはわからない。思いは外れて、もう捕らえられているかもしれない。
「とにかく、今は俺たちが最短でここから出られるような方法を考えないとな。アオイは他に、何かいい案があるか?」
「……今のところ、ないわ。けど、私もあまり時間をかけたくないのは同じ」
「とりあえず、よく周りの様子を観察してみよう」
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