第三章 第133話 蜘蛛の糸
「なるほど……では、可能な範囲で私の知ることをお話ししましょう」
彼女が到着するまでの出来事について
最初に現れた時に
「まず、ヤオトメ・リョースケとクガ・ルナの二人の
「っ!」
息を呑む一同。
張りつめた空気の中、とりわけ久我
「しかし私が対応し、無事に二人を逃がしました。二人は、馬車に乗ってピケという町に向かいました」
「ピケ……?」
「ピケは、ザハドから見て北にあるとても大きな町です。通常は馬車で数日かかるところにあります。ザハドの領主の本拠地ですね」
次に質問したのは、英美里だった。
「あ、あの……どうして、その……
「オーゼリアという町へ向かう船に乗ることが目的です。その町にあるヴァルクス
「望む情報、とは?」
「日本へ
「ええっ!」
マルグレーテ以外の全員が声を上げた。
――日本へ帰還する、方法。
皆が喉から手が出るほど欲している情報の手がかりが、思わぬところから突然飛び出した。
響子が興奮して問い掛ける。
「そ、そんな情報があるのですか!? マリナレスさん」
「あくまで『端緒を掴むための情報』です。私も詳しくは知りません」
「ああっ! もしかして!」
次に声を上げたのは、
「どうしたの!? 樹くん」
「いや、あのっすね。これ、ボイスレコーダーの内容にも関係する話で……うーん、どうしようかな……話すべきか
「ちょっと! 何でそんな出し惜しみするの?」
「加藤せんせー、これはっすね……いやまあ、どうせ鏡せんせーは
「諏訪さん、思わせぶりな言い方は
「すいません、教頭せんせー。
真剣な表情で、樹は一度言葉を切った。
「――きっと鏡せんせーの『殺すリスト』にもれなく載ることになります。校長せんせーや八乙女せんせーと
「えっ……」
絶句する響子。
他の者たちも。
――殺すリスト。
日本でなら、ごく親しい仲間同士で
平和な国とは言え、真顔でそんなことを口走ればただでは済まないかもしれないが、少なくともそう言われて死に直結するような状況は、ごく
しかし、
何しろここにいる全員が、実際に仲間が死に、暴力の嵐に酷く傷つく
日本にいれば
「それでも聞きます? って言おうとしたんすけど、恐らく鏡せんせーは残った僕たちが
皆がお互いに顔を見合わせる。
「じゃあ、聞きたくない人は
「確かめるなんて必要ないと思うけど」
樹の言葉を
「だって、もう鏡さんは十中八九、私たちを排除すべき敵と認識しているんでしょ? だったらもう、実力行使に出られることを前提に、対策を考えなければならない――それが現実だと私は思う」
葵は、やる気満々という感じである。
全てを「
「仰る通りだと思いますよ、椎奈さん。私たちはきっと、好むと好まざるとに関わらず、
葵の方を向いて、
「でも、それでも私は可能な限り、皆さんの意見を聞きながら進んで行きたいと思っています。意見がぶつかることはいいのです。ですが私はこれ以上、誰一人として取りこぼしたくはない……たとえ決断力に
葵は響子の顔を見て、首を縦に振った。
響子がそういう性格であることを、葵も理解しているのだ。
それ故に、普段から調整役として非凡な手腕を発揮していることも。
「教頭せんせーのことを、誰もそんな
「どうぞ」
「じゃあ、ボイスレコーダーの話を聞かされて困るひと――――いないみたいっすね。なら、マリナレスさんの話に関係するとこだけ、まず話を……いや、直接聞いてもらった方がいいっすね」
そう言うと、樹は職員室を出て行った。
そして次に彼が戻ってきた時、その手には、職員なら見慣れたボイスレコーダーが握られていた。
――――――――
――――――
――――
――
◇
一同は、またしても驚愕のあまりに言葉を失うことになった。
ここ数時間で驚くべきことが多すぎて、いい加減麻痺してしまいそうなものだが、それほどに樹がもたらした情報の衝撃は、大きかったのである。
朱:「まさか……私たちが転移した原因が、鏡さんにあった……なんて」
沙:「でも、ほんだゆうご? すみれ? 苗字も違うし、そもそも鏡さんの奥さんの名前はすみれじゃない。それに、子どもは娘さんが一人だったはずよね……」
美:「いや、それよりどうして、そのゆうごと言う子が……
七:「でも……そう言うことなら、鏡先生がこのことを知られたくなかったと言うのも、確かに分かる気がする……」
樹:「そもそも、そのゆうごって人が僕たちを転移させたってことは……日本へも転移させられるかも知れないってことっすよ」
葵:「マリナレスさんの、えーと
話の重大さに驚きながらも、興奮気味に交わされている会話のすべてを、
マルグレーテ自身も「
「あなたたちがこの世界に転移してきた理由は、その小さな機械の言う通りで間違いありません。遠目にではありますが私自身、この目で見ていましたので」
「ええっ!?」
「そして……本来カガミ・リュウノスケだけを転移交換させるはずだったのに、結果として多くの人たちを巻き込んでしまった理由が、
「少年、二人?」
その言葉にほとんどの者が、彼らと近しい少年たちの顔を思い浮かべた。
「そのまま転移交換を
「確かにあの時、天方君と神代君が突然、職員室に入ってきた……」
「そしてすぐに、鏡さんのところに……」
当時、その様子を一番近くで見ていた葵と美咲が、
そう言えばあの子たちは、一体何のために……?
思わぬところで最も知りたかった疑問の一つ――転移の原因――に対する答えが、今明らかになった。
それが、新たな謎を呼ぶことにもなった。
ただ、その回答を追求するのは、後回し。
大切なのは、日本へ帰れるかも知れない、その情報。
――しかし、それに対するマルグレーテの答えは、一同を落胆させるものだった。
「残念ながら、意識を失ったユーゴ様は
「そんな、どうして!?」
「人の身で行使するには、あまりに高度で困難な
「……!」
誰もが、その場面を想像して息を呑んだ。
そんなこと、出来るわけがない。
例え数を
「実際、今回についてもユーゴ様は相当な無理を重ねました。ほんの至近距離ならともかく、世界をまたいで
「……」
「それに……アウレリィナ様が心配されるのは、ユーゴ様のお身体だけではありません。転移交換される
「……」
「そして、もうひとつ。術を
思わぬところから現れた希望の糸だったが、それはあっと言う
彼らの落胆ぶりは、それは
職員室転移 ~先生たちのサバイバルと、会議と、恋愛と、謎と、いろいろ~ 夏井涼 @natsui_ryo
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