第三章 第09話 ついてるぜ
「うーん、分からん」
俺――
地図も予備知識もないし、そもそも文化が
さっきの
石造りの建物だらけなのはザハドと同じなんだけど、建物の規模や道幅、移動している人の数なんかがかなり違う。
やっぱり領主が住む
ここと比べると、それなりに大きいと思っていたザハドも少し
「なあ瑠奈、さっき馬車で降りた場所、覚えてるか?」
情けないのは承知で隣を歩く小四の女児に道を尋ねてみるが、彼女はふるふると首を横に振るばかり。
まあ無理もないだろう。
大体、宿屋の形状からしてよく分からないのだ。
俺の知ってる宿はザハドの
(これはいよいよ、その辺の人に聞くしかないか?)
さっき衣料品店を探した時も通行人に道を尋ねはしたけど、フードを
一応、みんな親切に教えてはくれても、好奇に満ちた目を隠そうともしてなかったし、どこでどう追手に
「
「えっ!?」
立ち止まってきょろきょろしていると、背後から突然声がかかった。
(今日は後ろからよく声をかけられる日か?)
そう思いながら振り向くと、そこには一人の青年の姿があった。
手に、何やら青い布を持ってひらひらさせている。
反射的に
「
「お、そうかい」
俺が冷静に答えると、青年は手にしていた
「ところで、何かお困りかい?
「ん? あー……」
――――…………‥‥‥‥こんなん、怪しすぎるだろ!!
落とし物とか言って気を引いて会話に持ち込むとか、手慣れているにも程がある。
何を企んでるんだ? こいつは。
ああもちろん、心当たりと言えばひとつしかない――追手だ。
「いや、
俺は半ば言い捨てるようにして、青年とは反対方向へ瑠奈の手を引いた。
「あ、
青年の声に振り向くことなく、俺たちは歩を進め――
「あっ」
瑠奈の手が、俺の左手からすり抜ける。
そのまま彼女は、うずくまってしまった。
「おい、どうした、瑠奈。疲れたか?」
瑠奈は黙ったまま小さく首を横に振る。
が、しゃがんだまま顔を上げようとしない。
肩が大きく上下している。
「瑠奈!」
駆け寄って、瑠奈の顔をのぞきこもうとした途端、彼女の身体がぐらりと俺の方へ倒れ込んできた。
俺は慌てて瑠奈を抱きとめる。
「! ……瑠奈!」
――!? 熱い!
服の上からでもはっきり分かるほどに!
ほっぺたは
呼吸も、荒い。
俺の心に、突然大きな後悔が巨大な津波のように押し寄せる。
考えてみれば、無理もない。
学校を出て以来――
「いやいや! 違う! そんなこと言ってる場合じゃないだろっ!!」
俺はあえて声に出して、自分を怒鳴りつけた。
後悔なんてあとでいくらでもすればいい。
そして俺は振り向き、棒立ちになっている先ほどの青年に声を掛けた。
「
「ど、どうした?」
「
「
「
「治療?
「せんせー……」
見ると、瑠奈が
「どうした瑠奈! 大丈夫か?」
「くすり……リュックに……」
「薬!?」
俺は瑠奈の負担にならないよう、彼女のリュックサックを
すると、サイドポケットの中に錠剤の入った小箱を見つけた。
これは……風邪薬か?
そう言えば、瑠奈の荷物は黒瀬先生が準備してくれていたはず。
そうか。
(ありがとう、黒瀬先生)
俺は心の中で、彼女の姿を思い浮かべて手を合わせた。
一瞬だけ、原因も分からないのにやたらと薬を飲ませてしまっても問題ないのだろうか、という疑問が思い浮かんだけれど、今はそんなことを言ってられない。
自分のリュックからペットボトルを取り出すと、俺は小箱から錠剤を一錠取り出し、水と一緒に瑠奈に飲ませた。
彼女の
「診療所じゃなくていいから、どこか休ませられる場所……
「宿屋なら」
その青年は胸を張った。
「
「
「ああ。でも歩いていくとそれなりにあるから、
「
得意げな顔で、青年は答える。
「
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