第七章 第07話 サブリナの願い

   星暦アスタリア12511年 始まりの月トゥセルナ 第一旬カウ・サーヴ 第三日目セスガディーナ


   ――グレゴリオ暦20XX年 四月六日 金曜日

   ――八乙女、療養四日目


   ―1―


    ◇


 私は今、代官屋敷セラウィス・ユーレジアにいる。


 手にはお土産ガーヴェ

 となりにはシーラ。

 目的地は――りょーすけの部屋ルマ


 リッカさんに案内してもらって、向かっている途中。


 本当はもっと早く来たかったけど、りょーすけの様子がよく分からないからってお父さんダァダたちに止められてた。


 昨日ネロス町長ジェフェットのフランさんが部下バルトランのロタスさんとお見舞いジータに行って、大丈夫ハユーノオーナそうだって教えてくれたのだ。


 それを聞いて私は、お見舞い用のお菓子ミドーチェを焼いた。


 小麦粉グラトラ牛酪レブールたまごイファ砂糖チャロを混ぜて作った生地テリマロを形を整えて焼いてから、果物の煮詰めマルメルを乗せた焼き菓子ベズミドーチェ


 一応、私の自信作ディヴァランス

 お茶マッロはきっと向こうで出してくれる! ……と思う。


 ――それにしても、こないだは本当にびっくりした。


 星祭りアステロマ最終日クォラディーナ


 まさかりょーすけがなぐられて怪我をしたなんて。

 殴ったのが仲間の人だったなんて。


 そして、まさかそれが山風亭うちの前で起こったことだったなんて……。


 何がどうなってそんなことになったのか、くわしいことは今でも私は知らない。


 殴った男の人が何かさけんでたらしいけど、あっちの言葉にほんごが分かる人なんて私とシーラとオズワルコス先生くらいだしね。


 一つだけ聞いたのが、その場にはずみがいたってこと。

 あの人も、今回の騒ぎに関係してるのかな。

 だとしたら、何かちょっとだけ責任を感じてしまう。


 だって……私とめいが「行ってきてアレ」って言ったんだから。


 結局めいの説明アザルファだと理由カラーナはよく分からないままなんだけど、あの子の勢いに押されるままに私も言っちゃったから。


 りょーすけに確かめて、あやまった方がいいかも知れない。


 リッカさんの足が、一つのヴラットの前で止まった。


「こちらがそうです。少々お待ちください」

 そう言うと、リッカさんはこんこんこん、と扉を三度ゆっくりとたたいた。


「はーい、じゃない……ヤァ!」

 すると室内から、聞きなれた声が響いてきた。


八乙女様ノス・ヤオトメお見舞いジータお客様クリエが見えました」

「えーと、どうぞお入りくださいヴェーニル・ルテーム


    ☆


ありがとうマロース、リィナ、シーラ」

どういたしましてグラータグラータ

気にしないでグラグーラ


 寝台サリールから上半身だけ起き上がって、りょーすけがにっこり笑う。

 元気そうでよかった。


 でも……フォリスほっぺたジリクがまだ青黒い。

 もう三日も経ってるのに。 


 いろいろと聞いてみたいことはあるけど、普通に話すのはなかなか大変だし、上手く伝わらないのもいやだから――魔素線ギオリアラを使おう。


 最初はものすごく抵抗があったけど……使ってみたらやっぱり便利。

 私は、魔素ギオでりょーすけのバルトゥスをちょんちょん、っていてみる。


(え、これ使うのか? リィナ)

(うん。そのほうがはなしやすいでしょ?)

(そりゃそうだけどさ……子どもはあんまり使わない方がいいんじゃないのか?)

だいじょぶリユナスオーナよ。たまにちょっとつかうくらい。それに、こっちのひととはなすのにギオリアラなんていらないけど、りょーすけたちとはつかういみがあるじゃない)

(まあ……その通りだし、俺としても助かる。シーラはどうするの?)

(もちろん、シーラもだよ)


 シーラとも魔素ギオつなぐ。

 りょーすけとシーラも繋がった……かな?


(シーラ、きこえるー?)

(うん。りょーすけー、あたしのこえは?)

(聞こえる聞こえる。三人とも繋がったな)

(なんか……まだあたし、ちょっとていこうあんのよね、これ)

(りょーすけたちとはなすときだけだから、よしとしよ?)

(うん)

(それで? わざわざ魔素線ギオリアラ繋げてまで話したいことがあるのか?)

(おおありだよ! なんでこんなことになっちゃってるのよ!)

(う……)

(あたしもしりたいなー)

(参ったな……)


    ☆


(なにそれ! わたしちょっと、ゆるせないんだけど!)

(あたしもー)


 りょーすけから当時の話を聞いた。

 そのみぶーってノァス、信じらんない。


(りょーすけも、なんでやりかえさなかったのよ)

(そーだそーだ)

(そんなこと言われても……)


 りょーすけから、何とも言えない感情ラグノアが伝わってくる。

 何だろ、これ。


 上手く言葉ヴェルディスに出来ないけど……何かりょーすけが、はずみやみぶーに、とくにはずみに引け目を感じてるような……ごめんポリーニってあやまってるような……。


(いろいろあるんだよ、大人はさ)

(あんまりこどもあつかい、しないでよね)

(いや、子どもだろ?)

(そうだけど!)

(まあ一緒に怒ってくれたことには感謝するよ。でも、いろいろ複雑で面倒な話だから、あとは俺たち大人にまかせておいてくれ)

(ふうん……)


 って言うか、元々私たちが首をっ込むような話じゃないし、根掘り葉掘り聞き出そうとしてたわけでもない。


 それよりも――


(じゃあそれはそれとして、いつものあれ・・はどうするの?)

(あれ、とは?)

げんごきょうしつヴェルディス・メーディア、よ)

(どうするって……あ、そうか。次の集まりの日時、決めてなかったな)


 一旬イシカウ十日とおか)に三回くらい、私たちは猟師ロヴィク小屋ユバンに集まって、お互いの言葉ヴェルディス文化メルディルス勉強メレートしてる。

 で、終わる時に次の日時を調整して決めるのだ。


 正直、猟師小屋まで移動するのは結構な手間。

 時間もかかるしね。


 でも、その分の価値メリトス充分じゅうぶんにあると思う。

 知らない世界ソリスのことを知るのが、こんなに楽しいなんて……。


 シーラだってくちではめんどくさいとか言うけど、いざ始まってみれば私より質問してるし。


 だから、もしなくなっちゃうとしたら、ちょっと――いや、かなり残念なのだ。


(別に俺がいなくても出来るだろうけど……今決めても、学校の方に連絡するのが難しいか)

(そうね)

(そうだな……じゃあ今日から十日後とおかごくらいにしとくか。俺の怪我がなおったら、向こうにもそう伝えるよ)

(十日後ってことは……第二旬カウ・アウリス第三日目セスガディーナね。分かった。シーラもいい?)

(うん、いいよー。先生にも教えてあげないとね)

(そうね。まだ代官屋敷ここにいれば、帰りにでも伝えよっか)

(うん)


    ☆


 それからしばらく、あれこれといろんな話をして、私たちは部屋を出た。


 途中でお菓子ミドーチェの話になった時、ねらい通りリッカさんがお茶マッロを用意してくれたので、持ってきた焼き菓子ベズミドーチェを四人で食べた。


 その時に、りょーすけが話してくれた彼の世界のいろんなお菓子の話……リッカさんまでかぶりつきで聞いてた。


 私は、りょーすけの「学校ガッコウ」に行った時に食べた――あいすくりーむって言う白くて冷たいお菓子を思い出した。


 あんな美味おいしいもの、初めて食べたように思う。


 それなのに、りょーすけってば、あいすくりーむより美味しいものが数えきれないくらいあるって言ってた。


 本当かな。


 本当なら、食べてみたい。


 美味しいものだけじゃなくて、不思議な動くイルディアで見せてもらった、りょーすけの世界のいろんなものを自分の目で見てみたい。


 りょーすけたちは帰る方法を探してるって言ってたけど……私も出来ることなら、ついて行きたい。

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