第五章 第11話 明暗

 セラウィス・ユーレジアの一室で、ドロテアリッカ――リッカ先生から魔法の手ほどきを受ける俺、加藤かとう先生、澪羽みはね天方あまかた君、神代かみしろ君の五人。


 リッカ先生は根気よく、時にはリィナと何かやりとりしながらも、俺たちに魔法ギームの使い方を丁寧ていねいに教えてくれた。


 ただでさえ難しい事柄ことがらを、言葉がほとんど通じない相手に理解させることは相当な困難だったと思う。


 それなのに彼女は一度たりとも声をあららげたり、欠片かけらほども不機嫌な態度を見せたりするようなことはなかった。


 立派な教師、だな。


 ひたすら辛抱しんぼう強く説明と実技指導を繰り返してくれたリッカ先生。


 お互いの意思疎通そつうを可能な限り分かりやすく、正確に出来るよう悪戦苦闘してくれていたリィナ。


 この二人には、本当にもう感謝しかない。


 ――結局のところ、梨汁なしじるみたいな表現はともかく、大筋おおすじでは加藤先生が言っていたことが正鵠せいこくていたのだ。


 事象をイメージし、それを胸からぶっぱなす。

 言葉にすれば、ただそれだけのこと。


 ……俺としては、この「胸から」ってところがいまだにしっくり来ない。


 何故なぜ「胸」なんだろうな。

 頭から直接放射する方が、よっぽどすんなりとに落ちるように思うんだけど。


 ――それと……度々たびたび説明の中に出てきた「ギオ」って言葉。


 こいつの意味が結局分からないままなのも大きな心残りだ。


 ギームと似たような響きだから、きっと超重要なものしくは概念がいねんなんだろうな。


 これについては、リッカ先生もリィナも説明に困っているのがはっきりと分かった。

 もしかしたら二人もよく理解していないのかも知れない。


「う、動いた!」

「うそ……わ、私も……」

「ホントかよ……」


 ――そして、結果として五人中、三人が球を動かすことに成功したのだ。


 神代君と澪羽、そして……俺こと八乙女涼介だ。


 動いたと言っても、リッカ先生のレベルまでは程遠ほどとおく、ほんの数センチころがっただけに過ぎない。


 それでも……ゼロいちの間には埋めようのない差があるのだ。


 少しでもあるのなら増やすこともあるいは期待出来ようが、ないものはどうあがいても増やせないのだから……。


 ――俺たち三人が成功した後も、加藤先生と天方君は何十分も狂ったように頑張り続けた。


 それでも今回の試行トライアルでは……残念ながら動かすに至らなかった。


 二人とも気の毒なくらい落ち込んでいるが……こればっかりはどうしようもない。


「何で私は出来ないんだろう……何がマズいのかなあ」

「……くそう」


 泣きそうになっている二人に、俺たち三人は掛ける言葉が見つからなかった。


 ――ただ、今回のことで一つの疑問が解決し、新たな疑問が生まれたことになる。


 まず、日本人とペルオーラやリィナたちに、恐らく生物的な違いはないだろうということが分かった。


 何しろ、俺たちが出来たんだからね。


 そして……成功した三人と、残りの二人にはどんな違いがあるのか、という疑問が生じてしまった。


 それが努力か何かで埋められるものなのか、かなわないものなのか。


(……!)


 そこまで考えて、俺はふと漠然ばくぜんとした不安に襲われた。


 少なくとも、その可能性・・・・・に思いいたってしまったのだ。


 ――取りえず今は、それが杞憂きゆうであることをいのるしかない……。

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