第三章 第20話 生じた謎
今夜は、久しぶりに二十三人全員が職員室に集まって、夕飯を兼ねた報告会を行うことになった。
情報委員会で班長に伝えた言葉から
まずは、校長室にあったプロジェクタを職員室に移動して、俺のスマホをつないだ。
そして、職員室前面の黒板に投影して動画を流すことにした。
――ちなみに今日の夕飯は、早速調達してきた小麦粉と肉を使った
すいとんの
具の種類は多くなくても、その代わりに団子も肉もたっぷり使った。
醤油の在庫も半減していたらしいけど、岩塩のお
「ぷはー、うめえ!」
「僕もう、お腹いっぱいだよ」
「あたしお代わり!」
「芽衣ちゃん、食べ過ぎじゃあ……」
「……もぐもぐ」
久しぶりに、量でも満足のいく食事だった。
特に、普段から頑張ってる子どもたちが、腹いっぱいご飯を食べて満足している様子を見るのは……うーん、何だろうなこの気持ちは。
――食事が終わり、後片付けが
黒板というスクリーンいっぱい(横撮りで撮影)に、俺が撮った場面が再生されているわけだが、それは
当の本人も、みんなの前で再生される可能性になど
おお……とうとう机に突っ伏してしまった。
時々上がる笑い声が、そんな彼女に更なる追い打ちをかけている。
「山吹先生、可愛い」
「若いわねー、山吹さん」
「これは、いいものだ」
……それなのに、
「ねえねえ
「え? 何だい急に、
「ホント、可愛いなあ。あー可愛い可愛い」
「……」
何がしたいんだろう、この人は。
――まあそんなこんなで、サブリナたちからもらった袋を車に詰め込み、学校に帰る俺たちを見送る彼らの姿をリアガラス越しに納めたところで、動画は終わった。
これでひとまず、事実を全員で共有することは出来た。
ここからは話し合いのような形になるので、参加は希望者のみということになったが、まだそれほど遅い時間ではないせいか、退出する人はいないようだ。
「早速いいですかな?」
「まず、彼らとのやり取りの様子については分かりました。正直、私はここが地球ではない――訳の分からない異世界――とは思っておらんのですが、動画内の姿を見てその思いは
一旦言葉を切って、重々しい調子で続ける。
「見る限り、これらの食料は今動画に映っていた彼らから贈られたと、そういうことでいいわけですな?」
「はい、そういうことです」
俺は答えた。
「そうすると話の流れとして、まずは先日、最初に彼らと
何となく
「いえ、あの時情報委員会で報告した通り、あの子たちは逃げてしまったので一言も言葉を交わしてません。そもそも、今日の動画でもお
「それならば、どうして彼らは我々が欲しているものを、ピンポイントで用意して、さらにわざわざ運んできたのか。どう考えても事前に分かってたとしか思えん」
「まあそれはそうなんですが……正直言って私にも分からないですよ」
実際そうなので、俺は肩を
「いや、別に八乙女さんたちを疑ってるとかではない。誤解させたのなら申し訳ないが、私には一つ
「危惧、とは?」
「我々は――
監視。
……誰に?
同じ思いを他の人も
「監視、とは穏やかじゃありませんが、鏡先生はどなたに私たちが監視されていると?」
「それは私にも分からん。ただ、そう考えなければ筋が通らんと思っただけですよ」
監視とまでは思わなかったけど、確かに鏡先生の言うことにも一理ある。
偶然の一致と呼ぶのは、さすがに
「鏡先生の
教頭先生の発言に、
「
すると、すかさず山吹先生が立ちあがった。
「ちょ、ちょっと話が変な方向に行ってませんか? 確かに皆さんの
「そういう訳ではありませんよ」
「それなら……もし監視だと言うのなら、なぜ私たちを助けるようなことをするんでしょうか。彼らの
「ああ、すみません、山吹さん。私の『監視』という言葉が強すぎたかも知れん。彼らの善意を
鏡先生が右手を挙げて謝罪する。
「ただ、理屈に合わんことはとことん、気になる
「あの」
俺は手を挙げて、発言の許可を求めた。
「どうぞ、八乙女さん」
「私は思うんですが、仮に監視されていたとして、特に問題ないんじゃないかなと」
「――と言うと?」
俺をギロリと
そんな怖い顔、しないで欲しいんですけど……。
「いやだって、向こう側さんの立場で考えれば、町か村か分かりませんがとにかくその
「……なるほど」
「それに、監視されていてもこちらがすることは特に変わらないんじゃないですか。生活は今まで通りだし、あちらさんとは教頭先生がこないだ
「ふむ」
「問題になるのは、私が思うに二つあると思うんですけど……これも言っちゃっていいですか?」
一応みんなの顔を見回してみる。
うんうんと
先を
「……!…………!……!……」
何か……壬生先生の眼が怖いんだけど……俺何かやっちゃったか?
この人に
「えと、ひ、一つ目はですね、その『監視』のベクトルと言うか、どういう心づもりで私たちを見てるのかってことです。まあでも……今日のように物資を提供してくれるところを見ると、『見守る』方向と考えてよさそうです。今のところは、ですが」
「今はどちらかと言うと、好意的に見られているということですね?」
校長先生が
「そんなところです。で、もう一つの方こそ、俺自身も全く理解できないし、それらしい理屈をつけられなくて困っていることなんですが……その、『監視』してる人ってのは、何で私たちに
「それは、監視してるからじゃないのか?」
「そうなんですけど、鏡先生。じゃ、ちょっとだけ言い方を変えましょう。どうして監視してる人は、私たちに穀物と塩が足りないことが
「ん?」
「?」
「……あ」
「はい、はいっ!」
「では、御門さん」
「はいっ」
ガタンッと、興奮気味に立ち上がる。
何か……授業してる気分になってきたな。
「遠くからみ、見てるだけじゃ、分からないはず、ですっ」
「落ち着いて、もうちょい分かりやすく言えるかい?」
「えと、あ、はい。――――すぅ――――。あの……アルファ米とかが足りないのは、ここにいるみんなが知ってることです。何で知ってるかと言えば、あたしたち食料物資班がそう伝えたからです」
「うん、そうだね。続けて?」
「はい。だから、
「聞いてなきゃ……はっ!」
自分の発言がもたらした結果に、御門さんがおろおろしている。
うーん……どうしたもんかな。
理屈がつかない、とは言ったが、素直に考えれば一つだけ可能性のある理由に行き着く。
行き着くんだが……うーん、ちょっと考えられないな。
◇◇◇
こうして、現地の人たちとの最初の交流は幕を下ろした。
またしても、希望と不安を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます