2-2 練習室でのコンサート

「あ、いけない。もうレッスンの時間だわ」


 たわいもない会話を楽しんでいると、セレナが部屋の時計を見て立ち上がった。それを聴いたシャントも、急いで楽器の入っているケースを取り出した。


「準備は…できてるわね。じゃあシャンス、練習室に行くわよ」

「分かったよ、姉さん」


 そして二人が向かうのは家に備え付けられた、防音の練習室。シャントは毎日ここで、セレナから演奏のレッスンを受けていた。少し小走りで辿り着いた練習室に入ると、軽く息を整えてからレッスンが始まった。

 シャントが演奏する楽器はハープ。選んだ理由はセレナに薦められたからである。ハープならセレナと同じ楽器だから、彼女が教えることができるのだ。それに加え、ハープなら弾き語りもできて歌と両立ができることも大きい。弾き語りの練習をするのも、セレナが先生となって教えているなら可能となる。


「まず、次のコンクールの課題曲を練習しましょうか。シャント、自主練はしてきたかしら?」


 そう訊ねるセレナに、軽くため息を吐くシャント。


「それなりにはしたよ。コンクールで弾けないと、父さんが余計うるさいから」

「それなり、ねぇ…」


 セレナはシャントの答えを聞くと、複雑そうな呟きを漏らしつつ彼に演奏してみるように指示した。シャントは指示に従って演奏を始める。彼が奏でる旋律を聴いて、セレナは一人頷いた。


「…、ふぅ。どうかな、セレナ姉さん」

「これなら問題ないと思うわ。流石シャントねぇ…ところで、それなりって言っていたけれど実際どれくらい練習したのかしら?」


 その問いに、なんてことはないと言うようにシャントは答える。


「えーと…大体一日六時間くらい、かなぁ」


 シャントの答えを聞いて、セレナはでしょうね、と納得した。


「やっぱりそれなりどころの練習時間じゃなかったわ…演奏はそこまで好きじゃない筈なのに、よく毎回そこまでできるわね?お父様がいるとはいえ」


 そう言って不思議そうにするセレナに、シャントは皆には内緒ですよと前打って沢山練習ができる理由を話した。


「課題曲に歌詞があったらそれを、なかったら自分で考えて頭の中で歌いながら練習してるんだ。それなら弾き語りみたいで楽しくできるから」


 セレナはシャントの言葉に驚いた。まさか、頭の中で歌いながら練習できるとは思っていなかったのだ。また、彼女が気になったのはもう一つ。


「歌詞がない曲には自分で考えるって…作詞もできるのね、シャンス」

「すごい拙い詞だと思うけどね。でもずっと演奏練習だけするのは僕には辛いんだ…」

「シャンスにはそうでしょうね…。あ、もしかして」


 シャンスの話を聞いていたセレナは、ある可能性に思い当たった。今日のレッスンに使用した曲は歌詞がない。ならばシャンスはこの曲にも詞を付けているのでは、と考えたのだ。


「ねぇシャンス。この課題曲も歌詞はない筈よね。…これにも詞、考えたのかしら?」

「もちろん、考えたよ」


 シャンスが自作の詞を歌うのを聴いてみたいと、そう思ったセレナ。彼女は好奇心に任せれシャントに頼んだ。


「それ、今歌えるなら聴いてみたいわ」

「姉さんが、聴きたいなら…」


 シャントはその頼みをセレナがそう言うなら、と快諾する。その結果、暫くの間防音室ではセレナ一人の為だけのコンサートが開催された。



 

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