第62話「愚者ニハ全滅ヲ」
カイナに従う者達は、その殆どが第二回層攻略に躓いている者達だった。
集まってきているのは大抵、他のチームで一つの仕事しかできなくて追い出された訳ありプレイヤー。
タンクはVITとAGIにしか振っておらず、動く壁にしかならない者達ばかり。
ヒーラーはバフしか掛けない者や、味方を回復することしか頭にない極端な者達ばかり。
後衛は攻撃をしておけば、仕事をこなしている事になると考えている脳死ばかり。
彼等は口を揃えて言う。
なんでリーダーの指示に従い、役目もこなしているのに勝てないんだろうと。
誰もが原因深く考えずに、そのうちに強い武器が出るとか。
運営がその内下方修正してくれるだろうとか。
立ち回りやステータスの見直しもせずに餌を待つ、雛鳥のように受け身であり続けている。
「今回のイベントは〈阿修羅会〉以外を潰したら、2位と3位のチームはジャンケンで決めるんだと」
「マジかよ、今のうちにジャンケンで誰が強いか決めといた方が良いんじゃね?」
「良いわね、どうせ今回のイベントは半数以上が〈阿修羅会〉と同盟組んでるし。もう勝ったようなものでしょ」
「でもさ、今回あの超有名な〈純白のガンブレイダー〉が参戦してるんだよね。すんなり勝てるのかな……」
「広場でのやり取りみたでしょ。他の同盟を蹴って孤立してるんだから、きっと今頃は集中攻撃されてるよ」
「それなら警戒する必要はないわね。いくら強くても、流石に数の暴力には勝てないんだから」
ローブを羽織った〈魔術師〉の女性は、昔から数が全てだと思っていた。
現に〈阿修羅会〉は数を増やすことで、徐々に実力を上げてきた。
第三層の上位チームには遠く及ばないが、いずれはそこまで進出できると信じている。
MPとINTだけに極振りした彼女は、砲台として火力貢献し今では幹部候補と注目されている。
防衛隊のリーダーに任命されたという事は、ここで誰も通さない役目を果たせば来月には幹部になれる。
この〈阿修羅会〉のリーダーは、中堅企業の社長令嬢である。本チームに入ることができれば、一つだけ願いを叶えてもらえると聞いている。
現にコネで転職した知人は、かなり収入の良いポジションに付いているらしい。
野望を胸に抱く女性は暗い笑みを浮かべた。
「ふふふ、職場では事務のお荷物って言われてるけど、そんな私でもここでは輝けるんだから……」
「姐さん、また職場で怒られたんですか」
「ち、違うわよ。たまたま頼まれてた備品の補充を忘れてただけなんだから……」
「あー、あるあるですね」
「そうよ、後から頼まれてた書類の作成も忘れてただけなんだから」
「それも稀にありますねー」
そんな会話をしている時だった。
同盟を組んでいる他のチーム達と繋げているチャンネルから、いきなり悲鳴が聞こえてきた。
『た、たすけてくれ!』
「うん? どうしたの?」
連絡をしてきたのは、同盟以外を攻撃する六チームの一つからだった。
開始早々に二チームを囲んで、一方的に狩りする実況をしていた性悪集団達だが一体何があったのか。
否、助けを求めているのは彼等だけではない。
チャンネルを繋げている他の攻撃部隊。
その全てから助けを求める声が上がっていた。
『なんであの女、この数の攻撃を受けて倒れないんだ!』
『どんなVITしてんだよ! 某アニメの防御特化キャラか!?』
『うわー!』
『壁になってた前衛達が一撃で倒されたぞ!』
『今のは〈アヴェンジャー・ナイトソード〉か!?』
『──盾構えてるだけってタンク舐めてんのかテメェ等!』
『ぎゃー!?』
怒声の後に悲鳴が聞こえて、その後は何も聞こえなくなった。
慌ててイベントの参加リストを開くと、同盟の攻撃部隊に黒い横線が入っていく。
それは彼等がHPをゼロにして、このマップから消えたことを意味する。
「い、一体何が起きてるんだ……」
「まさか〈純白のガンブレイダー〉のチームが、こっちに攻めてきた?」
ザワつくチームメンバー達。
尚もチャンネルからは、攻撃部隊達からの悲鳴が聞こえてくる。内容は、
──神官の格好をした槍使いが単身で突っ込んで来た。
──気がついたら全員串刺しになっていた。
──空から飛来した炎の矢が全員を消し炭にした。
等と、ぶっ飛んだ内容ばかり。
神官は生放送で見ていたから理解できる。
だがその後の全員串刺しと、炎の矢は全く分からなかった。
この〈ディバイン・ワールド〉に串刺しにするスキルはないし〈魔術師〉の炎の矢にそんな最上位の〈エクスプロージョン〉みたいな威力はない。
一体何が起きているんだ。
チームのメンバー達もざわついている。
「なんで、私達の同盟達だけが消えていくの……」
イベントの参加リストは、他のチーム生存も確認できる。
それをスクロールして見ると、下の同盟を組んでいないチームは数組脱落しているだけだった。
この脱落しているチームは、間違いなく攻撃隊が倒した者達だと思う。
だけどそれ以外に横線は引かれていなかった。
つまり他のチーム達は潰し合いを一切していないという事、そして今攻撃して来ているのは。
「ぎゃあ!?」
真横にいた〈魔術師〉の上半身が消し飛んだ。
HPはゼロになり、光の粒子となって散る。
「は?」
とっさに近くにある岩場に身を隠す。
固まった彼等に、次から次に森の中から光の閃光が飛んでくる。
その閃光は視認した時には着弾して、受けたプレイヤー達を順に消し飛ばす。
「これはまさか〈ガンブレイダー〉の砲撃……?」
生放送で白髪の少女がボスに放った光の閃光。
アレと全く同じ光が、動揺する防衛隊を撃破していく。
「なにこれ、こんなにも速いの……!?」
飛んできた時には既に着弾している。
しかも前衛のVITですら五割以上削られ、続く二撃目で退場させられる。
抵抗できる者は誰もいない。
全員砲撃に当たらないように動くが、砲手はそれを全て読んで的確に撃ち抜く。
生き残ったのは彼女を含め、両手で数える程度だった。
そんな彼等も森の中から出てきた、ガンソードを手にした白髪の少女によって真っ二つにされる。
「この!」
MPを大量に消費し〈ファイア・ストーム〉を連続で放つ。
生き残った味方が何人か巻き添えを受けたが、それでもアレを倒せるのならと、最後には〈エクスプロージョン〉を炸裂させる。
爆発で粉塵が巻き上がり何も見えなくなる。
MPは枯渇して味方も全滅したが、その代わりに一番厄介な奴を仕留めたはず。
「は、ははははははははは! これで私は幹部に!」
輝かしい未来を夢見る彼女だが、背後からドスッと鋭い何かが胸を貫く。
恐る恐る下を見ると、そこには白銀に輝く刃があった。
「は? なにこれ……」
「貴女がなにを言っているのか、ボクには分かりませんが」
涼やかな声と共に、刃が身体を切り裂く。
そしてHPは一気にゼロとなった。
「がは!?」
「攻め込まれた時に仲間と連携しないで、巻き込んで攻撃するのは最大の悪手だと思いますよ」
女性の身体は光の粒子となって散る。
空を見上げる彼女の目に映ったのは、一発も被弾していない白い死神だった。
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