第56話「クラスメートのお願い」

 今日の六時間目の授業は、タッグバトルロワイヤルが行われた。


 ルールは最後の一組になるまで戦う方式。

 アイテムの持ち込みは禁止、回復ポーションなどはエリアの中にランダム配置されている。


 今回のエリアテーマは森の中。

 徐々にダメージエリアが縮まり、最後にはエリア外が即死判定となる。


 グループはABCの三グループに分かれ、それぞれ別のエリアで開始した。

 ボクと二年生の女の子が組んだAグループは、積極的にメタちゃんと狩りに動いたので残り時間20分くらいで余裕の勝利で終った。


 今は見学エリアで脱落した人達と一緒に、他のエリアがどうなってるのか見ている。


「ユウのいるCグループは第二階層到達者がいないから、ボクと同じでもうそろそろ終わりそうだね。一番の見どころはやっぱり、同じレベで〈守護騎士〉のリッカと〈魔術師〉のミカゲ先輩の対決かな」


 あの二人は現在PVPで一勝一敗の戦績。

 接近する事ができたらリッカの勝ちで、近づかせなかったらミカゲ先輩が勝つ。

 時間経過でダメージエリアが縮まる中、他のプレイヤーを倒しながら二人は徐々に近づいてきている。


 ドキドキの展開、その一方でCグループの方で遂に決着がついた。

 最後四グループ中でユウ達以外が結託した状況下、ユウがバフと回復を全開放して全員を槍で倒しきった。


 相変わらず〈神官〉とは思えない武闘派っぷりだ。

 最近は学校内でも〈バーサークヒーラー〉の名前で恐れられている程だった。


「さて、後は二人の対決を見守るだけなんだけど……」


 つい最近〈ライフ・ドレイン〉を獲得したリッカが、なんとヤバいくらいに強い。

 元々防御が上手く、ダメージを最小限に抑えていた彼女。

 自身でHP回復と同時にダメージを与える手段が増えて、対人戦が最強クラスとなったのだ。


 おまけに今回の相方は、回復とバフを掛けられる〈神官〉。

 アレを崩すのは容易じゃない、正直ボクでも真正面から打ち合うと負ける可能性がある。


 そうなると残された道は、近づかないで遠距離から削り倒すことだけど。

 遠くからリッカを崩すのはかなり難しい。

 なんせボクの砲撃を盾で軽々受け流すほどだから。


「──シエルちゃん、今回はどっちが勝つのか楽しみだね」


 じっと空中に浮かぶスクリーン映像を眺めていたら、そこに一人の女子生徒が近づいてくる。

 服装は〈神官〉だけど、彼女の顔には見覚えがあった。


 以前ミカゲ先輩が逃げた際、親切に理由を教えてくれた人だ。

 彼女はボクの隣に腰を下ろし、柔らかい笑みを浮かべスクリーンに視線を向けた。


「チーム組んだらしいね、ミカゲがすごく喜んでたよ」


「はい、いつかチームを作ろうとは思っていたので、ミカゲ先輩がいてくれて本当に助かりました」


「うんうん、リアルで珍しくずっとニヤニヤしてるからさ。なんだかこっちまで嬉しくなったよ」


「リアルでも、それはとても良い事ですね」


 ようやく最近学校でも、逃げられずにミカゲ先輩と挨拶ができる程度になった。

 ただボクは人目を集めちゃうから、挨拶が終ったらすぐに逃げてしまうけど。


 徐々に彼女との心の距離は近づいていると思う。

 焦らずにゆっくり、いつか昼食を一緒に取ることがリアルの目標である。


「リアルは順調、ゲームの方も文句なしだけど……」


 彼女は強い。それはベータ版で第三層まで到達した、ボクの目から見ても断言できる。

 だが同時に解せない部分でもあった。


 それはあれだけ強いのに、ミカゲ先輩が第二階層の攻略ができていなかった事。

 もしかして何か問題を抱えているのかなと、実際にこの数週間組んで彼女の動きを見て思った。


 彼女の実力はボクが知っている〈魔術師〉の中でも、確実に上位に入るほどの実力者だ。


 それなりの実力者と組んでも、クリアできる程度に彼女は強い。

 おまけにゲーム内では普通にコミュニケーションも連携もできる事を考えると、パーティーを組むことができないのは考え難い。


 うーむ、わからん。

 ミカゲ先輩とリッカが正面から衝突する姿を眺めながら、体育座りをして前後に揺れると。


「……ミカゲがどうして第二階層止まりなのか、気になるって顔してるね」


「ど、どうしてわかったんですか?」


「うーん、なんとなく。でもミカゲを見てなにか考えているみたいだったから、多分これしかないかなって思ったんだ」


「そうですか……」


 中々に凄い人だ。これでゲームセンスが人並にあったら、トップクラスにはなっていたんじゃないか。

 何度か彼女のプレイングは見たが、フルダイブゲームが怖いのか初心者の域を出ないものだった。


「それでどうする、ミカゲがなんで第二階層止まりなのか聞く? 私は本人から聞いたから知ってるよ」


「……正直、気持ち的には半々って感じです」


「どうして?」


「人に知れらたくない事って沢山あるじゃないですか。ボクも色々と悩みがあった人間ですし、今が楽しいのに無理して聞く必要があるのかなって思います」


「……そっか、それなら聞かない方が良いかもね」


「はい、もしも知る必要がある時は本人から直接聞きます」


「うん、シエルちゃんなら教えてくれると思う。でもこれだけは言わせて欲しい」


「なんでしょうか」


 彼女は真っすぐにボクを見据えると、声に力を込めて告げた。


「私、ゲームをしてる時のあの子の姿が好きなの。だから一緒に上を目指し続けて欲しい」


「……なんとなく、伝えたい事は分かりました。大丈夫です、ボク達は全ての廃都市を攻略するつもりですから」


「ありがとう、それじゃお仲間さんがきたからクラスのところに帰るね」


「はい、色々と教えてくれてありがとうございます」


 ユウと入れ替わるように、彼女は自身のクラスが集まっている場所に戻る。

 ミカゲ先輩のクラスは、全員が拮抗した熱い戦いを繰り広げる彼女の姿を応援していた。


「次で決着がつくかな」


「そうね、相方は両方落ちて一対一。狭まるエリアの中、ミカゲさんは弓と体術で五分の戦いをしていたけど此処にきて〈ライフ・ドレイン〉がかなり効いてるわ」


 緊迫した空気の中、HPが残り二割のミカゲ先輩と半分もあるリッカ。

 通常ならば、ここから逆転するのは厳しいと考えるが。


 彼女が次に矢に変換したのは、一瞬だけ画面が真っ白になるほどの凄まじい爆炎だった。

 アレはまさか最上位魔術〈エクスプロージョン〉を矢に圧縮したのか?


 そんなことまでできるのか。

 場が騒然となる中で、二人は同時に動く。


 リッカが解放するのは、受けたダメージを一撃にまとめて放つ奥義〈アヴェンジャー・ナイトソード〉。


 対するミカゲ先輩が放ったのは、魔術師の最大火力を圧縮した極技。


『──〈エクスプロージョン・ミストルテイン〉!』


 彼女が放った一矢は、復讐の一撃と衝突して凄まじい爆発を引き起こす。

 爆風に吹っ飛ばされた二人は同時にエリア外に。


 即死級のダメージを受けてHPがゼロになって消滅する。

 どっちが先に外に吹っ飛ばされた。

 みんなで固唾をのんで結果を待つ。


 最後の勝者は──

 

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