第55話「色々と闇深い」
数日後エミリーさんに呼ばれたボクは、学校が終わった後に仲間達と四人で道具屋に足を運んだ。
「要約すると大昔この都市は、すごいことしてんなって感じだ」
会って早々にエミリーさんが口にしたのは、第二階層に対する感想だった。
「すごいこと……ですか」
「この前ヤバそうな資料貰っただろ。アレからアメリアと伝手を使って俺なりに調べたんだが……」
その結果分かったのは、この都市が滅んだ理由がかなりヤバいとの事。
情報をまとめた端末を手に、エミリーさんは解説した。
「主に行われていたのは太古から驚異的な生命力を誇る植物の研究。資料の中には
「予言された災厄?」
「リリーが言うには、大昔に都市が滅びこの地の人口は一割も残らない……って予言した奴がいるらしい」
「この人のことを、村長達は予言者って呼んでるよ」
「予言者……」
ゲームではド定番と言っても良い存在。
この手のストーリーで登場すると「数年後にこうなるから気をつけろ」と
尚ゲームで予言の問題を回避できるのは、大体主人公が関わった時だけ。
正にNPCにとっては不幸の確定演出だ。
「それで、その災厄から逃れるためにシエル達が見た〈ミュータント・トレント〉とか、植物に召喚獣〈フェンリル〉の毛から採取したDNAを流用した
「え、ガウルフ君って普通のオオカミじゃなかったんですか」
見た目は完全にオオカミにしか見えなかったし、体毛もモフモフしているから全く気付かなかった。
まさかそんなハイテクノロジーから生み出された、もの凄いハイブリッドな存在だったとは。
「ふむふむ、それじゃハチミツを〈スキル〉に加工する技術もその一つですかね」
「多分そうじゃないか。集めた資料にはこれといってハチミツの事は載っていなかったが、もしかしたら〈リトルホーネット〉の方にも何か仕込みがあったりするかもな」
「なるほど」
この第二階層に色々と変わったモンスターがいる理由はわかった。
しかしこの都市は予言を回避できなくて、かつての文明が残した負の遺産が現在は問題となっている。
エミリーさんはウィンドウ画面を出現させると、ボクにクエストの提示をした。
「〈スターリンク〉に村長からの正式な依頼だ。最近では例の汚染の広がりも確認されている、このリストにあるクエストを全てクリアしてほしいそうだ。報酬はそれ相応のものだと思う。受けるか受けないかは、お前達で決めてくれ」
内容に一通り目を通す。
【ガーディアン・ウルフの群れ撃退】:六体の〈ガーディアン・ウルフ〉がまとまって行動しているのが確認されている。サードエリアで各街で利用されているエネルギーストーンの採掘所に居座っているので、これをなんとかしてほしい。
【セーフエリアの汚染除去】:各街で発生している黒い汚染の問題解決。
内容は第一階層で受けたクエストと大体同じだ。
先にガウルフ君の仲間達を正常に戻してから、他のエリアを一つずつ解決するのが良いだろう。
「もちろん全部受けますよ」
「オマエならそう言うと思ったぜ」
クエスト開始の通知を確認すると、ボクは黙って待機してくれていた仲間達を見回す。
「というわけで、先ずはガウルフ君の仲間達に会いに行ってから他のセーフエリアに向かおうと思う。みんなそれで良いかな?」
「オッケー、さっさとクリアしてやろうぜ」
「汚染除去ね。第一階層の時みたいにモンスターが出る可能性もあるから、気をつけないといけないわ」
「すごい、見たことないクエストばかりだ……」
分かっていた事だが反対の意見は一つもない。
装備とアイテム確認をしたボク達は、エミリーさんから採掘所に入るアクセスキーを貰うと出発した。
イーストエリア側にある採掘所。
見慣れたドーム型の建物だけど、壁は倒壊しておらず入り口も固く閉ざされている。
アクセスキーで入り口から中に入ったボク達は、クエストのナビに従って地下に下りる。
そこで待っていたのは大きな採掘所と、淡い光を放つエネルギーストーン。
専用の機械に入れる事でエネルギーを抽出できる鉱石で使い切ると砕け散る。
携帯エネルギーとしては、とても優秀な使い捨て電池みたいなもの。
その採掘エリアのど真ん中に、六体のガウルフ達は陣取っている。
「手間は掛けたくないから、できれば不意打ちがしたいな……」
「それならミカゲに良い案があるよ……ごにょごにょ」
「おお、それで行きましょう!」
というわけで開始したガウルフ正常化作戦。
ミカゲ先輩が彼等の周囲に一瞬だけ〈ファイア・ストーム〉を発生させて、動きが止まったところに〈ガブリエル・ブレット〉で火属性に対する耐性を得たボクとメタちゃんが炎嵐の中に突撃。
メタモルフォーゼでロープになったメタちゃんが足を拘束、その隙に接近したボクが身体にタッチした。
これ以上ない程に綺麗に決まった作戦に、ボクはミカゲ先輩とハイタッチをして喜ぶ。
真白に漂白されたガウルフ達は、全員理性を取り戻して整列した。
彼らの前に出た、ガウルフ君は仲間達となにやら情報のやり取りをする。
『ワンワン!』
『ワンワンオ!』
角付き同士で今後の活動方針を話した後、六体のガウルフはボクの方を見た。
『ワン!』
「うん、分かった。安全な場所で待機してね」
ボクの言葉に頷いた後、ガウルフ達はその場から消えた。
振り返ると仲間達は、何故か全員苦笑いしていた。
「一応聞くけど、最後なんて言ってたんだ」
先程のやり取りが気になるのか、リッカがボクに尋ねてくる。
「えーとね。最終決戦にはガウルフ君経由で教えてくれ、その時にはボク達を助けるために駆けつけるってさ」
「あのワンって一吠えに、そんな意味が込められていたのね……」
「どう考えても二文字の中に入る文字数じゃないぞ、ファイル化してまとめてんのかってレベルだろ」
「前々から思ってたけど、使い魔やモンスターの言葉を理解するプレイヤーって聞いたことがないよね」
リッカとユウの会話に、黙って聞いていたミカゲ先輩が参加する。
その一言に今まで自分以外にもいるだろうと思っていたボクは、少しばかり衝撃を受けた。
「え、そうなんですか」
「そうだよ。何となく分かる人はいるけど、シエルさんの場合は会話として成り立っているから完全に別物だよ。SNSでもメタスラとの連携を見た人達がビックリしてるし、考察動画まで作られてるくらいだし」
「まぁ、シエルだからなんでもありか」
「まぁ、シエルだからね」
考える事を諦めた親友二人は、あっさり受け入れてしまった。
一方でミカゲ先輩から色々と聞かされたボクは、最近クエストで戦闘後のコメント達が使い魔とあんな連携できるなんてヤベーって書き込まれていた理由を理解する。
ああ、だからみんな驚いてたんだ……。
納得したボクはとりあえず、次の汚染クエストを解決するために移動する事にした。
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