第31話「スキルであってスキルじゃない」
「シャバの空気オイシー!」
地下空間から外に出たアメリアは、思いっきり全身を伸ばし外の空気を吸って吐き出す。
現在の彼女は長い髪を結い上げ、シャツに短パンと最低限の防具を身に着けたラフな格好。
本来は姿隠しのローブがあったのだが、それは角付きガーディアンの攻撃によってロストしたらしい。
その原因となったガーディアンの姿は此処にはない。
施設の最深部で話を終えた後。
彼は正常に戻った仲間達に合流すると言って、どこかに消えてしまった。
目を閉じて、ボクはガーディアンとの会話を思い出す。
「〈リバイズ〉……か」
ガーディアンが言うには、ボクには触れることで異常を修正する能力があるとの事。
だけどスキル覧をどれだけ見ても〈リバイズ〉は一切記載されていない。
この事を尋ねてみたら、その理由は隠しスキルだから見えないのだと教えてくれた。
マスクデータなら確かに、目で確認することはできない。
「それにしてもジャヌアリーって誰なんだろう。大体のNPCは知ってるけど初めて聞く名前だな……」
他の街にも出入りしているアメリアいわく、そんな人は一度も聞いた事がないらしい。
ということは普通のNPCではない事が分かるのだが。
「うーん、考えてもムダかな……あ、こんなところにも黒いのが」
周囲を見回していると地面に、突入前はなかった黒いペンキをぶち
ノイズを発生させながら徐々に広がっているこれは、間違いなくバグによる浸食だ。
しゃがんで指先で触れてみる。
それは瞬く間に、全て真っ白に染まり消滅した。
この現象から判断できるのは、修正する力〈リバイズ〉を自分が確実に宿している事。
──スキルであってスキルじゃない。
どうしてボクが、こんな力を所持しているのか不明だった。
記憶している限り、特殊な事をした覚えは全くない。
唯一考えられるのは、ベータ版の終了時に世界の質問に答えた事。
だが仮に自身を修正した事が関与しているとしたら〈リアルTS〉の人達も同じ力を有しているはず。
だけどSNSを調べても、そんな情報は一つも出てこなかった。
むしろバグに触れた事で、状態異常のスリップダメージで死亡した話題が広まっている。
「むー、今のところ考えても仕方がないのかな」
手持ちの情報が余りにも少ない。
この件に関しては、記憶の片隅に一旦置いておくしかなかった。
思考を切り替えたボクは、別れ際にガーディアンから受け取った物をストレージから出す。
銀色の輝きを放つ金属片。
これは──〈アダマンタイト〉の欠片だ。
「……でも弾丸として今は使えないかな」
上位金属に刻印するには、無属性のレベルが最低でも3以上は必要となる。
レベル3は〈ガンブレイダー〉のINTを250以上にしなければいけない。
そして悲しいかな第一層のレベル上限に達し、尚且つDPを全て回収しても、INTに極振りで最大195が限界だった。
残り必要ポイントは55だが、これを補う装備もベータ版の知識にはない。
「うぐぐぐ……せっかくの上位金属なのに使えないなんて……」
「メタホッシー!」
足元では〈アダマンタイト〉の欠片を食べたくて、猫のようにすり寄っているメタちゃんがいる。
弾丸にはしないといけないので、ボクは可愛らしくおねだりするパートナーに渡した。
「メタ──────ッ!!」
もはや言葉にならない程に、幸福そうな顔をするメタちゃん。
眺めていると幸せな気持ちに包まれた。
彼が出した弾丸を、失くさないようにストレージにしまう。
すると地上を十分に満喫したアメリアが、ボク達にこんな話を切り出した。
「そうだった、あの部屋で手に入れたコレを君達にあげるよ!」
彼女がストレージから取り出したのは、沢山の〈サペリアー・アイアン〉と表記されたインゴット。
これは第二階層の序盤でも通用する。
第一階層に存在する最上位の金属だった。
「おお、しかも一人に四つもくれるの!?」
「アメリア姉さん、一生ついていきます!」
「これだけあれば、ボスと戦えるだけの装備ができるわ! アメリアさん最高!」
「は、恥ずかしいから、そんなに持ち上げないで。これは元々あの部屋にあった物だし、私がもっているよりボスに挑む君達の方が有効活用してくれるよね」
ふむふむ、つまりこれは地下施設をクリアした報酬か。
その証拠に受けているクエスト覧から『秘匿されし地下』が消えた。
「ついでに〈錬金術師〉として、君達に一品ずつ何か装飾装備を作らせてほしいんだ。要望があれば、三人にピッタリの物を作るよ!」
「例えばどんなものが作れるんですか?」
「そうだね、リッカちゃんとかなら手元にある素材を使ってVITを30プラスする指輪とか?」
「「「おお、すごい!!?」」」
アメリアの話に、ボク達は揃って感嘆の声を上げる。
即座に頭の中でぴーんと、自分は彼女の作った道具で足りないINTを補えないか考えた。
「……えっと、流石にINTを55プラスするものは作れないですよね」
「INTを55かぁ、うーん流石にノーマルな素材じゃ天才的な〈錬金術師〉でも難しいな。……あ、そういえばアイツが前に〈賢者の欠片〉が売れなくて困ってるみたいなことを言ってたな。それを指輪にしたら、行けるんじゃない」
「〈賢者の欠片〉ってなんです?」
「〈賢者の石〉の欠片だよ。完全品に比べると性能もランクも大きく落ちるけど、それでも魔術関連の素材としては優秀なんだ」
「という事は、ドワーフ店主さんの店でそれを購入したら……」
「うん、セイラちゃん専用の装備品を作ってあげるよ」
「専用……っ」
専用装備とは、なんたる甘美なる響き。
まるで初恋みたいなトキメキを感じている
彼女達もゲーマーだ。
今の話を聞いて黙っていられなくなったのだろう。
「オレ達の装備も良い素材持ってきたら、セイラみたいに専用を作ってもらえるのか?」
「わ、私も専用の欲しいわ」
「もちろん、まかせて! 私の戦闘能力はゴミだけど、頑張って揃えた機材は超一級品だから、三人が目ん玉飛び出るレベルの装備を作っちゃうよ!」
そういえば〈錬金術師〉は道具によって作れる物が大きく変わると、ベータ版で聞いた事がある。
隠しクエストで救った特殊なキャラ。そんな彼女が所有する道具は、大いに期待できる。
「よし、それじゃ先ずは安全エリアに戻ろう」
話が決まるとボク達は、ファーストエリアを離れてノースエリアに向かった。
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