企画入賞レビュー「美学が咲かせた花」


その悪は日常に溶け込んでいる。
あたかも道端に咲く控えめな花のように。

ごくごく平凡な個人商店には営業終了後の「裏の顔」があった。
誰の目にも触れない地下室で行われる企業秘密の正体とは!?

この作品の凄い所は美学、狂気、暴力といった悪の要素のみならず、日本人の美徳とされる「慎ましさ」が含まれている点です。主人公は悪党ではあるが、決して出しゃばりだったり承認欲求や独占欲の虜になっていたりはしないのです。
呼吸をするように平然と悪事をなすが、ご近所さんとの共存を願い、街の美化に協力的ですらあります。恐らくサイコパスですらないのでしょう。真っ当に正気のまま、全てを理解した上で慎ましく悪を「働く」のです。
高いプロ意識や、死者への敬意も少なからず感じました。自分のしていることが何らかの「貢献」になると。そういった独自の価値観が彼女の美学を揺るぎないものとしているのでしょう。ある意味リサイクルでもあるし。

しかしながら、表の顔である商店が閑古鳥という点も見逃せません。(ネットでは大人気のようですが!)
余りにも控え目すぎて世間の注目を集めてないのか?
はたまたもしかすると、ご近所さんは深夜に停まる怪しい車を目にしているのかも。
庶民を甘く見てはいけません。長生きしているという事は、それだけ嗅覚が鋭いという証明でもあるのですから。甘くは見ない、それが共存というもの。

美学、共存、プロ意識。
そういった物が一部の隙もなく描かれていたこの作品こそ入賞と確信しています。