5、ジラフの村

「‥‥ねぇトモ、本当にここで合ってるの?」


「‥‥う~ん、俺も少し心配になってきたところ」



 馬車を降りる前から感じていた。行き交う馬車や竜車、村に向かう人の流れ。

 極めつけは、ライナスレスの街でも見なかった飛竜。


 ジラフの村は、予想以上の思っても見なかった規模の村だった。



「うわ~っ!!人が多い村だねぇっ!もうここまで大きいと村じゃないねっ!

 ねぇちょっとっ!あれって闘技場じゃないっ!?」


「パパ、あそこの『かじの』ってなに?」


「キュキュー!キュキュー!」



 うん。闘技場みたいだね。さっき話していた事が先に実現出来そうだね。

 うんうん。フェリ、カジノっていうのはお金を掛けるところだからフェリがもう少し大人になったら行ってみようか。

 うんうんうん。飛竜だね。気のせいかな。ハクの言葉がわかるようだ。


 ねねと俺の困惑とは対象的に、唯とフェリ、ハクは人の多さと目新しい建物、そして飛竜に夢中である。



 困惑の原因は、情報元のトラヴィス聞いていた村の様相と全く異なっていたからだ。


 トラヴィスが言っていたのはこうだった。


「楽なのはライオネスの方だな。ジラフっていう老人しかいない寂れた村がある。そこで祀られているほこらに手を合わせるだけだ。

 森に囲まれているが、周りに強い魔物は居ねえ。

 多少の魔物の肉でも渡してやりゃ喜んでほこらまで案内してくれるさ」


 

 俺たちはトラヴィスに騙されたのか?でも、村の名前は合っているんだよな。



 看板を指差してはあれは何を繰り返す、フェリのお腹からクウーっと音がなった。

 とりあえず、お昼ご飯でも食べながらどうするか決めることにした。




 近くにあった定食屋のようなレストランに入る。美味しそうな匂いがしたからだ。

 お昼時なので店内は結構賑わっていた。奥のテーブルが空いているようなので、ウサギの給餌さんにそこに案内された。

 おすすめは魚料理らしい。近くに湖があるってことなのかな。


 食事をしながら、このあとの予定を決める。


「まあ焦る必要も無いわけだし、村の人たちに話を聞いていくしか無いわよね」

 なぜ君は、魚料理がオススメっていうのに、スパゲッティを食べるかね。

 ああ、ケーキセットなわけね。


「でもさっでもさっ!この村広いから手分けして聞き込む方が効率がいいんじゃないっ?強そうな人もいっぱい居たしっ!!」

 ハンバーグか〜。君も魚じゃ無いのね。

 唯はコロシアムを見たいだけだよね。まあ構わないけど。


「パパ、このおさかな、おいし」


「キュー、キュー!」


 焼き魚もいいが、この煮付けの味付けも美味いぞ。

 ただ見た目がなんとも。魚なのかな?足生えてるよね。まあ美味しいから気にせずいただきます。


 これだけよそ者が多いとなると治安の良さ悪さもわからないので、ねねと唯、ハクの3人と、俺とフェリで別れて聞き込みをすることにした。




「はあ~、すごいなこの街。いや村だったか」


「パパ〜!つぎあれのりたいっ!」


 フェリが指さしたのはメリーゴーランド。ここはミニミニ遊園地である。

 こんな施設があるなんて。子どもたちとよく行ったなと日本にいた頃が懐かしくなる。


「あっ!やっぱりっ!いたいたトモーっ!」


 唯たちも合流して、そのまま唯とフェリの2人は楽しそうにメリーゴーランドに二人乗りしている。俺も手を振り返す。

 


「この世界に来てから、娯楽で楽しむっていう事が少なかったからなあ」


 独り言のようにつぶやく俺の手に、ねねが手を絡ませてきた。


「生きるか死ぬかの世界だからね。子どもたちのことを思い出した?

 大丈夫。少しづつだけど前に進めているよ」


 そうか。ねねに言われると嬉しいのと同時に、背中がむずかゆくなる。



 遊園地である程度遊んだあと、聞き込みで集めた情報を共有しあった。


「まずはこの村ね。ジラフ村で合ってはいるのだけど、以前の場所から移住しているわ。

 理由は、魔魔物の出現らしいわ。生態系が変わったというところかしら。

 村周辺の魔物が、住人でも退治できるほどの弱い生魔物から、強い魔魔物に取り変わった。

 村の全員でこの場所に移り住んだということみたいね」


 ねねたちは実際に移住を経験した人に運良く出会えたらしい。


「前の村の位置も聞くことができたんだよねっ!同じ境遇の他の人にも聞いてもらったんだけど、ほこらはちょっと記憶にないみたいっ。

 行って探してみるしか無いのかなっ?」 

 

 まあどう見てもトラヴィスがその村に訪れた時からだいぶ時間が経っているようだからしょうがないのかもしれないな。


 その後は村の若者が中心となってこの場所で開拓を進め、あれよあれよと発展を遂げたとのことだ。



 村の周辺を見る限り、魔木の伐採は相当進んだのがわかる。

 しかし、ここまで村が発展できたのは、魔魔物討伐で回収された魔石の存在である。


 俺とフェリは、この村の冒険者ギルドを探した。

 村と言ってもこれだけの規模だ。冒険者も多いのだろうと思っていたのだが、案内されたギルドは閑散としていた。時間帯もあるのだろうが、居たのは受付のおっさん1人だけ。


 運良く暇そうなギルドマスターに話が聞けたのだが、このところろくな依頼もなく冒険者が集まらないのだそうだ。


「昔はそりゃ活気があったぜ。この村の発展を支えたのはシャドーボーンの魔石だったからな。

 ただ、周辺の開拓とともにシャドーボーンも数を減らしていってな。旨味のなくなった村には用が無くなる。冒険者なんてそんなもんだ」

 

 魔石を持つ魔魔物は深淵の森の奥にしかおらず、そのほとんどが人形をしていて、武器防具に近い装備で身を固め、スキルや魔法を繰り出してくる。討伐にも苦労する強さだ。


 シャドーボーンの魔石は、同じ魔力量の魔木と比べて魔透効率は20倍とエネルギー効率が良い。

 さらに魔石の石ころひとつに対して魔木5本と同等の魔力だ。買取金額も大きく異なる。


 その魔魔物の中で1番最弱とされているのがシャドーボーンである。

 見た目は魔の刻で遭遇した黒い騎士の骨版だ。しかし、動きが遅く狩る側としてはやりやすい相手である。

 乱獲と言っていいかはわからないが、ゴールドラッシュのように一斉に討伐した結果、周辺では絶滅してしまったらしい。


 現在この村に来る冒険者の目的は、闘技場と娯楽、夜の歓楽街などもあるらしい。とりあえず場所はこっそり聞いておいたことはナイショである。

 

 

 闘技場はわかるけど、カジノや遊園地なんて獣人の発想じゃ無いし、絶対に召喚勇者が一枚噛んでいたはず。それも経営に強い勇者だよな。


 この村に来るってことは、この国の出身勇者か、秩序の花弁を手に入れたか。

 もしその勇者がまだ生きているならば一度お合いしたいものだ。



「あとはねっ!ハクが飛竜たちと話をしてたかなっ!

 でもさっ、話し終えたあと寂しそうな鳴き声だったから、お母さんの情報とかは聞けなかったんじゃないかな〜」


「ク〜ン」


 犬みたいになくハクの声を初めて聞いた。


 フェリに通訳してもらったところ、飛竜以外の他の仲間は見ていないそうだ。

 まあすぐに見つからなくても、そのうち見つかるさ。


 飛竜の飼い主は貴族様や、有力な闘技場出場者などのお金持ちが多いらしく、厩舎に飼育員は居たようなのだが話も出来なかったそうだ。

 ケチって、そんなわけじゃないだろう。プライバシーとか色々あるんだろうさ、雇われ人は肩身が狭いのだ。



 

「んで、闘技場はどうだったの?」





 

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