4、手紙の多さは人気の証

「むきぃぃぃっ!めんどくさぁぁぁっ!!」




「なにっ!もう着いた?」


「ふわぁ〜、ママがさけんだだけ〜むにゃむにゃ〜」



 唯の奇声で叩き起こされた俺とフェリ。

 外の景色を見るがまだ街にはついていないようだ。というか、寝てしまう前と同じ、深淵の森を開拓した道を走っていて景色は変わっていない。


 昨日はコーニャやユノと出会ったライナスレスの街に泊まり、朝から馬車を手配して、目的地であるジラフの村に向かっている。

 お金に余裕があるので貸し切りの馬車だ。


 時計を見るともうすぐお昼だ。片道3時間の道中、朝も早かった俺は暖かさと高い馬車だけあって振動の少ない車内の揺れにウトウト寝てしてしまっていたようだ。


 いつの間にか膝の上にいたフェリも目をシパシパしている。


 

「なに、唯はまだやってたの?

 どうせもう会うことも無いんだから全部目を通す必要は無いんじゃないかな」


 車内は手紙が散乱していた。手紙の表書きは至ってシンプル。

 そのほとんどが果たし状である。


「だってさ〜っ!こんなこと初めてだからっ!どういう内容だか目は通しておきたいしっ!

 ただ量が多いだけでっ!!」




『ドラゴンスレイヤーがこの街に来ている』



 昨日の奴隷商人との騒動が街中に広く知れ渡り、俺たちの泊まった宿屋の前には早朝から屈強な獣人たちの人だかりが出来ていた。


 宿屋の主人に、「外をなんとかしてくれ」と言われ、しぶしぶ対応に当たった俺。

 まだ日が上ったばかり。もう少し寝ていたかったよ。ちなみに他の三人と一匹は寝たままである。



「おーっ?ヒョロそうな男が出てきたが、ヤツがドラゴンスレイヤーかっ?」


「俺が聞いたのは女だって話だったぜっ!てめえ、紛らわしいことすんじゃねえっ」


「ユイ様〜♡どこにいらっしゃるんですか〜♡」


 俺への怒号に混じって、黄色い声も聞こえるが、まぁ集まった集まった、その数100名を超えている。


 純粋に自分の力を試したい者、唯を倒して名を上げたい者。

 ドラゴンスレイヤーという強者を前に獣人としての血が騒ぐのか、早朝から宿の前は大騒動になっていた。


 こんな朝早くからご苦労さまです。あなた達は暇なの?

 さてどう収拾させるべきか。とりあえず声をかけてみる。


「みなさ〜ん、ドラゴンスレイヤー様は一人なので、皆さんを同時にお相手出来ません〜。

 後日、対戦会場を用意しますのでこちらにお名前をお書きください〜」


 おそらく帰れと言っても無駄だろうし、代表者なんているわけがない。

 くじ引きやジャンケンなんて、無理だろうなあ。



「うるせぇっ!お前にゃ用はねえんだっ!ドラゴンスレイヤーの女を出しやがれっ!!」


 おっしゃるとおり。案の定収まらない。なんだか腹が立ってきた。

 いかんいかん。



 ドーーンっ!!


 とりあえず、はてなボックスを出現させて地面に叩きつける。

 大きな音と振動にたじろぐ野郎ども。


 俺はひとつ深呼吸をして、先程より少し凄みを効かせた声で。


「もう一度言います。

 後日、対戦会場を用意しますのでこちらにお名前をお書きください」


 いつもなら、この威嚇で大丈夫なんだけど、獣人相手ではどうだろうか。

 

 1番前にいた狼の獣人が、それでも俺に近づき、食ってかかってくる。


 はぁ〜。


「へ、変な物を出したところで、俺たちは、む、むぐっ!?」


 最終的にリングマジックでその狼と近くの数人の口、腕、足を縛り上げた。

 一瞬の出来事に、縛られた男たちは何が起きたのか理解できないまま、バランスを崩して地面に倒れ込んだ。


 それを見た周りの連中は、何が起きたのか理解してくれたようだ。


 うん。みんなだいぶおとなしくなってくれた。


 俺は、怒らない、怒らない、と心のなかで呪文のように唱えながら周りを見渡す。


 先程出現させた地面に刺さったままの箱を消し、今度は縛られ倒れている狼男の顔の横に箱を落とす。


「俺はいい。ただお前ら、朝っぱらからバカみたいに集まって、この宿屋に迷惑をかけてんだ。

 もう一度だけ言う。名前を書いて解散しろ。宿への迷惑料として、1人銀貨1枚置いていけ」 



 先頭の連中が意味の分からない束縛を受け、強いものには巻かれる特性でもあるのか、その後は大きなトラブルも起きずに全員を解散させることができた。


 全く、朝っぱらからお説教をする羽目になるとは。




「どれどれ、唯、貸してみ。俺も手伝おうか?」



 唯が読み終わった数枚を借りてちょっと拝見したが、文章もしっかりと書けている。


 この世界の獣人としてのの礼儀なのだろうか。ほとんどの連中が果たし状や決闘状を用意してきていたのには驚いた。

 

 なんでも歴代国王の方針というか掟で、獣のようにその場で決闘などありえないとのこと。なんとも騎士道精神だ。

 それが獣人としてのプライドなのだそうだ。


 代筆もあるのかもしれないけど、ほとんどの獣人が読み書きができるってことだよな。

 これを見る限り、教育という面では人間の国より獣人の方が進んでいるのではないだろうか。


 種族にこだわりなど無いと思っていたけど、こういうところは獣人特有なのかな。


 ファンレターや恋文なんかを渡してくる獣人も多く、ドラゴンスレイヤー唯は男女問わずに大人気だわ。


 

「うー、アタシ宛の手紙だからねー。また後で頑張るよっ!!

 それよりどうすんのさっ!?朝、みんなに『別会場で』とか言ってたでしょっ!?」 



 ここに来る前は、「ねぇねぇっ!武道大会があるんだってさっ!」とか言ってノリノリだったはずなのに。


 別会場で僕と握手でいいじゃないか?


「まあ、どこかの公園とかで、『ドラゴンスレイヤーに挑戦トーナメント』とかを開催して、優勝者が唯と対戦するとかでいいんじゃないの?」


 参加者から登録料でも取れれば、俺らの懐も温まるし一石二鳥じゃないか。


「えーっ!?なんかイメージしてた規模と違うんだけどーっ!?」


 唯がコロシアムみたいな場所で、挑戦者として参加したがっていたのは聞いていた。

 フェリも喜ぶだろう。


 武道大会ってそんなイメージだもんね。俺も攻撃魔法とか撃てるのであれば参加したいものだ。


 とりあえず、直近の要件が片付いたら、次は武道大会の方を探してみようということになった。

 


「皆様、そろそろ到着致します」


「「おおー」」


 御者さんから声がかかる。日が差し込む窓から外の景色を見て見ると、景色は一変していた。


「なんか不思議な景色だねっ!」


 森の中なのだが森を抜けた様な不思議な感覚になる。周辺はそれくらい魔木の開拓が行われている。



 今向かっているのはジラフの街。


 トラヴィスが日本へ帰るための手かがりでもある『秩序の花弁』を得た街である。

 

 残念ながら、場所に近づいたら共鳴して右手の紋章が光るみたいなことは無いようだ。

 そういう演出に憧れていたのだけど、残念です。吹いたら山彦が返ってくる笛とかがあればいいのに。



 ねねとハクは、俺たちがどれだけ騒いでも終始寝たままである。

 

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