3、奴隷と革命
「まあ、なにもないけど、そこらへんに座って」
狐人のユノという姉ちゃんに招かれ、室内にお邪魔する。きれいに片付いた殺風景な室内だ。
ユノはボーイッシュな雰囲気の狐獣人。シッポがモフモフである。
顎のラインまでの金髪ショートボブで、身長はねねより高く、唯よりちょっと低い感じだ。
体型は、スレンダーといったところだろうか。俺の勝手なイメージだが、長距離ランナーに居そうな体型だ。
通された席に座り辺りを見回すが、なんとも生活感がない。向かいの部屋のテーブルには、書類が散乱している。
ここは職場かなにかだろうか。
フェリ、ハクのお子ちゃま3人は、もう1つ隣の部屋でコーニャに何かを見せてもらっているようだ。
3人ともユノに淹れてもらったコーヒーをいただく。
おっ、いつも飲んでいるのとは違う美味いコーヒーだ。豆が違うのかな?
「あれっ、警戒とかしないね。毒が入っているとか思わなかった?」
肩ひじを立てながら笑顔で微笑むユノの言葉に、唯がコーヒーを吹き出し、むせて咳き込んでいる。
ほら、バッグにタオル入ってるからちょっとかして。
その隣では優雅にコーヒーを啜るねねの姿。
「恩人にそんなことしないでしょ貴女は」
鑑定スキルでも使ったのだろうか。ねねは何も動じずお茶請けにも手を伸ばしている。
「アハハッ、そうだね。まずはお礼をしておかないとだったね。
コーニャを連れてきてくれてありがとう。あの子には宿で待っているように言っておいたんだけど、全くどうやって抜け出したんだか。
君たちみたいないい人に見つけてもらって良かったよ」
宿屋には他の子供とユノの仲間がいて、コーニャもその宿屋に居たようなのだが、ユノを探して外に出てきてしまったらしい。
子供って目を離した一瞬で予期せぬ行動をするからね〜。
「あら、なんで私達たちが『いい人』ってわかるの?
あなた達の敵かもしれないのに?」
すまし顔のねねがユノに食って掛かる。なぜ相手を煽るような話し方なの?
「ふ~ん、でもね、コーニャが連れてきたんだ。わかるんだよあの子には。だからいい人」
コーニャのスキルなのだろうか。絶対の信頼があるようだ。
いい人ねぇ。
コーニャとユノの言う『いい人』は、なんの『いい人』なんだろうね。
「そういえばさっ!ここに来る途中でトラの獣人と3人の男の人に会った時、コーニャちゃんの様子がおかしかったんだけどっ!
あっ、でもコーニャちゃんは見つからずに済んだから安心してねっ!」
あーそうだった。俺も聞こうとしていたんだけど、唯に先を越された。
ちょっと感じの悪いやつだった。コーニャが、『いい人と悪い人』がわかる何かを持っているならば、あの怯え方からして『悪い人』っていうことなのだろうか?
「あちゃー。アイツらまだこの街にいるのかよっ。
あの人族の男たちは奴隷商人だよ。タガルのやつ、まだアイツらと組んでんのか」
奴隷。
この世界では、奴隷の制度がある。
セシリア王国やアットランドなど、俺たちが今までに訪れた国にも、一部犯罪奴隷制度が存在した。
ただ、犯罪を犯した者に対する刑罰のようなもので、労働力として役務を果たすために使われている。
犯罪奴隷のほとんどがシュラスに連れて行かれて、体力のあるものは魔木伐採に。それ以外はシュラスの宿場での食事の調理や雑務に使役されている。
このライオネスの国では、労働奴隷、戦闘奴隷、愛玩奴隷など様々な場面で奴隷が扱われている。
売り買いされるのは、身寄りのない子供など力の無いものが多い。
獣人の特色がそうさせているのか、この国では力のある者が国を率いる慣わしがある。
権力や金などの力ではなく、純粋なパワーという意味での力である。
表立って武道大会を開催し、国内外に獣人としての誇り、そして力と存在意義をアピールしているようなのだが、実際には国のリーダーを決める権力争いの場なのである。
まあこれはどの世界でも同じなのかもしれないが。
その枠に入れなかった弱い立場にしわ寄せが及び、身寄りのない子どもたちに降り掛かっている。
「コーニャはこの街の生まれでね。
今はそういった仲間が集まっているところに住んでいるんだけど、定期的に故郷に戻らせるんだ。
将来ひとり立ちさせるための訓練としてね」
ユノたちは、奴隷の子どもたちの保護と支援を行っているらしい。
「ってことは、コーニャはまだ他に所有者がいる奴隷ってことなのかな」
「ちょっとトモっ!所有者ってっ!!物じゃないんだよっ!!」
唯はそう言うが、ここは日本ではない。このライオネスの国では奴隷が認められている。
保護と支援。聞こえはいいが、ユノたちは他人の物を勝手に奪い取っている犯罪者でしかない。
「アハハッ、そうだね。確かにコーニャの所有者は存在するよ。
ただね、その所有者がコーニャのことを認識しているかはわからないけどね。
この国の子供の奴隷所有には金銭が絡まない。
獣族はね、一回の出産で複数の子供を産むわ。種族によるけど多い種で20人とかもあるわね。育てられない子は、奴隷として外に出す。
大人の奴隷は金額が自分で付けれるようになるんだけどね。
この仕組みが変わらない限り、この問題は解決しないんだ」
「えっ!?どういうことっ!?」
俺とねねはこの話を聞いて呆然とした。唯はピンときていないようだが。
「使い捨てってことよ。終わってるわねこの国。
考えてみなさい。タダで貰えて、またすぐに手に入る、例えば駅前で配っているポケットティッシュを一生大事にする人が居るかってこと」
確かに野生の動物は弱肉強食だ。幼い子供は天敵などに捕食される可能性は高く、種や子孫の保存のため多産になるのはわかる。
種族によっては、産まれた兄弟を捕食し栄養として取り込むということも聞いたことがある。
カエルとか魚の産卵数は千、万単位だもんな。マンボウは億単位だっけか。
親子の愛情とかの問題ではないのかもしれない。
「愛情はあるよ。親も子もね。だけど現実的に生活が成り立つかは別。
一家心中する前に親は子を外に出すし、子供からも理解した中で自分で進んで外に出る。
コーニャたちをこの街に連れてきているのも、実の親に会うためなんだ」
獅子の子落とし。そんなことわざを思い出した。
子の成長を願ってあえて苦難をっていう意味だったと思うが、この世界では生き延びるために必要な措置ってことなのか。
「へぇ〜。そんな言葉があるんだ。この国にはピッタリの皮肉だな。
このライオネスでは、国は死に寛容だ。強いものこそ生きる価値がある。逆に言うと弱いものは死ねってことだからね。
アタイはそうは思わない。アタイたちは獣や魔物とは違う。
そこのアンタ、さっき『この国は終わってる』って言ったよね。アタイもそう思う。だから」
「やめとけユノ。客人に失礼だぞ」
犬の獣人の男が帰ってきたようだ。男の後ろには子どもたちが数名。
この男がさっき言っていた宿屋に居る仲間だろうか。
「おかえり。コーニャなら隣の部屋にいるよ。
ガイツがちゃんと見てないから、この人たちがコーニャを連れてきてくれたんだ」
コーニャに連れてこられたが正確なのだが。
ガイツと呼ばれた男は、こちらを一瞥すると挨拶もなく隣の部屋へ向かっていった。
「‥‥なんか愛想の無い人だねっ」
耳元で囁いてくる唯。小声で話しても相手は獣人。たぶん聞こえているぞ。
「アハハッ。ゴメンね、愛想の無いやつで。
ほんと、今日はコーニャのこと助けてくれてありがとうね」
俺たちは追い出されるように外に出た。いや、追い出されたんだろう。
もうちょっと色々聞きたいことがあったんだがしょうがない。それより。
「うん。たぶんやるんじゃない?隣の部屋の書類の中に、それらしいのもあったわね」
ねねの目ざとさには恐れ入る。そんな拠点に呼ばれてしまったのか。
コーニャのスキルなのかわからないけど、そういうのも引っくるめてあの家に連れて行かれたのかもしれない。
あまり深入りしたくはないが、ユノたちは、コーニャのニュアンスでいうと『いい人』である。
死ぬには早すぎるよな。
「ねぇ、何の話なのっ?アタシだけわかんないんだけどっ!?」
唯だけじゃなくて、フェリもハクもいるじゃないか。
わかった、わかったからムスッとしながら叩かないの。
「確信は無いけどね。たぶん、あそこはレジスタンスの拠点のひとつだろ。
タイミングはわからないけど、そう遅くないうちに、革命、もしくはクーデターを起こそうとしてるんだろうね」
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