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 私達は公爵様の屋敷に到着したのだが、門番さんに、時間が遅いから明日の朝に再訪しろと門前払いを食らい、屋敷の中には入れなかった。


 私達は勇者で、仲間のカオリが呼ばれていて屋敷の中にまだ居るかもという話はしたのだが、門番さんは聞く耳を持ってくれない。


 

 一旦、素直に帰るふりをして、離れたところで二人に相談する。


「何なのあの門番、感じ悪いわ。

 どうする?最悪、カオリの確認だけでもしたいんだけど」


 公爵様がカオリに何か危害を加えるとは思わない。カオリも何かされれば反撃するだろう。

 王宮の魔導具でカオリの居場所はわかるはずだけど、この時間、公爵様の屋敷にも入れないのに王宮に入れるかどうか。


 ただ、先程の襲撃が関係無いとは思えない。


「不法侵入しちゃおうぜ。バレなきゃ大丈夫っしょ!」


「うむ。それがいいだろう」


 タツヤがコンビニに行くぐらいの軽いノリで、犯罪に手を染めようとしている。シンジローは、何も考えて無いよね。


 ただ、今のところ他に手段が無い。いつもなら止める役なワタシも今回は、心を痛めながらもその案に乗るしかなかった。



「いいタツヤ。バレたらすぐに撤退よ。危険なことはしない」


「わったから。カオリが居るかどうか確認だけだろ」


 少し、いや相当心配だが、跳ぶだけバカのタツヤが塀を越えて屋敷の中に侵入して、カオリが居るか確認する手はずになった。


 私は何も道具を持ってきていないし、シンジローは斬るだけバカだから。

 とりあえず、ありあわせの持ち物で、すぐにバレないように変装をさせた。

「化粧もするのかよっ!?」


 顔も布で隠したのだが、もしもみくちゃにされて、顔を見られた時の対処だ。公爵様の使用人の中には、私達を知ってる人もいるはずなのよね。


「じゃ、行ってくるぜっ!」



 タツヤがバネ、いやスーパーボールみたいに高く跳躍して、塀を越えて屋敷の中に侵入しようとした所で、屋敷の全体が淡く光だした。


「ぶべっ!」


 屋敷に結界が張られていたようで、侵入者を感知して作動したらしい。


「やばっ」

 

 ものすごい勢いで遠くに跳んでいくタツヤ。結界に跳ね返されたようだ。

 タツヤのスキルなら、跳ね飛ばされたけどなんとか無事だと思う。


 触ったら即死みたいな結界じゃなくて良かった。

 屋敷からは、防犯ブザーみたいなけたたましい音が鳴り続けている。


 私とシンジローは、急いでその場から離れた。



「失敗か」


 今は少し離れたところから屋敷の様子を伺っている。


 うん。どう見ても成功ではないからね。大失敗よっ。


 屋敷からは、ランプを持った警備の兵隊が数人出てきた。


 外の警備の人たちは警戒態勢じゃないところを見ると、侵入者はまだ中にいると思われているみたいね。

 侵入未遂に終わったんだけど。



「あっ!あれ、カオリじゃないか!?2階の窓のところっ!ニーナさんの隣のっ」


 いつの間にか後ろにいたタツヤが大声を出した。顔の化粧がさらに不気味になってるしっ!

 びっくりするから、戻ったなら一言声をかけてよねっ!


 タツヤの言われた方を見てみると、カーテンが少し開けられていて、メイドのニーナさんと一緒にいるカオリが屋敷の2階の窓から少しだけ見えた。


「ニーナさんがこっち気がついたみたいっ!」


 ニーナさんが、緊張した顔でうなずいる。あっ、兵士にカーテンを閉められちゃった。


 ニーナさんは、この世界に来てからずっと私達のお世話をしてくれている王宮所属のメイドさんだ。


 不幸中の幸いとはこういうことなのね。ニーナさんがそばにいるならば、今のところは問題ないのかも。


 でも表情が少し気になった。確かに私達と目があったから、こちらに気がついたはず。その中で、あの緊張の面持ちは何だったのだろう。


 しかし、これだけの騒ぎになってしまったので、再度突入は難しいだろう。


「一旦、家に戻りましょう。とりあえず居場所と無事がわかったから、あとはカオリの帰りを待つしかないわ」


 タツヤは気に食わないみたいだが、今のところは私達が襲撃された事と、カオリが公爵様の屋敷に呼ばれている事との関連性がない。


 心配だが家に帰り、カオリの帰りを交代で待った。



 結局その日、カオリは家に帰ってこなかった。




 次の日の朝、私達はいつも通り王宮に向かう。

 昨日の騒ぎもあって、公爵様の屋敷は警戒が解かれていないと思う。

 もしかしたら王宮の憲兵から、私達の襲撃に関する情報が得られるかもしれない。


 3人だけの移動は初めてだった。カオリもいつもなら一緒に行くのだが、何も問題が起きていないのであれば、公爵様のお屋敷から向かうだろうか。



「号外〜、号外だよ〜」


 前方の商店の前の通り道に、結構な人だかりが出来ている。声を聞く限り、号外の新聞か何かを配っているようだ。


 タツヤが人だかりに割り込み、配っているそれを受け取ってこちらに駆け寄ってくる。



「やべえよっ!これってっ!」 


 タツヤから渡された号外の紙面にはこう書かれていた。



『セシリア王国の新聖女、ハインツフルト公爵家長子エリック様と婚約を発表』


 

 国民へのお披露目は、3日後となっていた。


 

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