0−12

 サミィの祖父サブリンの家は、このアットランド国のアットマインという街にあるそうだ。


 火山に近い街で、鉱石や鍛治で有名なんだそうだ。

 森での修練が落ち着いたら寄ってみたいものだ。


 サミィの転移術で、サブリンさんの屋敷の転移部屋に飛んだ。


 そんな部屋があるのかと聞いたら、サミィが毎回、居間に飛んできて、その都度サブリンさんが腰を抜かすので、部屋を指定されたそうだ。



「こっちですわっ!」

 サミィに案内され居間に出る。ドワーフの爺さんが迎えてくれた。


 家主でサミィタミィのじいちゃんであるサブリンさんである。


「サブリンだ。孫のタミィの治療に来ていただいたとサミイに聞いている。頼む。タミィを助けてやってくれ。このとおりだ」


 サブリンさんは、テーブルに頭を下げたままの状態だ。


「頭を上げてください、サブリンさん。タミィさんの今の症状は、俺にも原因があるようなので。

 タミィの回復に、力を尽くしますので」


「なんだとっ!?」


 サブリンさんは、俺の原因という言葉を聞いて、鋭い眼光でこちらを睨んできた。


 サミィが割って入り、事情を説明する。サブリンさんもサミィの話を聞き、納得したようで、俺に話を続けてくれた。


「それはお前さんが悪い訳では無い。国としてのお役目でもあり、タミィが未熟だったこともあるだろう。

 だが、孫娘があのような状態でいるのはあまりにも不憫で仕方がないのだ。

 トモといったか。他のものも、頼む。タミィを治してやってくれ」


 サブリンさんに、タミィを回復させる約束をして、サミィに病室へ案内された。


 部屋には、サミィとタミィのお母さんであるラミィさんが、寝ているタミィの手を握っていた。


 ラミィさんはドワーフと人族のハーフらしく、小柄だがどちらかというと人族に近い。

 

 タミィを見ると、サミィと比べて相当やつれており、苦しいのか寝息も小さく荒れている。


 すでに連絡をしていたようで、タミィの隣にはベッドがもう一つ用意されていた。


 挨拶もそこそこにサブリンさんとラミィさんには部屋の外で待機してもらう。


 まずはねねの鑑定からだ。


「うーん、病名が「   」。空白になっていて読めないわね。

 ただ、治療法は『不明』ってなっているから、治らないってことは無さそうね」


 昨日までのタミィだったならば、ねねの言葉にツッコんだりするのだろうけど、だいぶ俺たちに慣れたのだろう。


「じゃあ、その読めない何かをを惹きつけてみるねっ!」


 唯がスキルを発動し、タミィを蝕む何かを惹きつける。


「うん、なんか手応えがある感じがする。敵意みたいなものはあるけど、悪意は感じられないかな」


 俺たちにはわからないが、唯が言うのならば確かなのだろう。


 俺は、はてなボックスを出現させ、隣のベッドの上に載せた。重さでベッドが軋む。


「うわっ!これテレビのマジックショーで見たことあるやつ。この穴に剣を刺しこむのね」

 そういえば、ねねとサミィはこの箱を見るのは初めてだった。


「サミィ、ちょっと俺の方に来て俺の右手首辺りを掴んでいてくれる?

 タミィの元気だった姿を想いながらのほうが、成功するんじゃないかなと思うから」


 少しでも成功の確率を上げるよう、やれることはやってみる。


 準備が整った。

「じゃあやるよ。一瞬だと思うけど、フェリはタミィの周辺を。ねねはタミィの様子を見ていてね」


 俺は、唯が惹きつけてくれているタミィの中にあるその敵意みたいなものをイメージしながら、コインの移動マジックを発動した。


 タミィはそのままベッドに寝たままだから、何かは移動したはず。成功したならば、箱の中に原因が収納されている。


「どう?」


「スキルは解除されたよっ!タミィちゃんの息も整ってるっ!」


 唯のスキルが解除されたっていうことは、目の前にはそれが居なくなったということなので、少しホッとした。


「うん。体力・魔力が欠乏ってなっているけど、食事と休養で安静にしていれば良くなるわね」

 ねねの鑑定でも問題はなさそうだ。



「よかったっ!ほんと、よかったっ」

 サミィは床に座りながら、タミィの手を握っている。




 ラミィさんとサブリンさんを部屋に呼び、タミィの側で涙を流している。


 家族の時間に水を差す気はないので、こちらはこちらの処理を進めようと思う。


 フェリが箱のフタを開け、中を覗き込んだが、何かが入っているということはなかった。


 ただ、このまま箱を解除して、中の見えないそれが居たとき、タミィに戻ってしまう可能性がある。


 どうするか?

「とりあえず、解体してみようか」


 真ん中の箱をスライドさせて、箱を解除した。

 もし魔物ならば、キレイに解体された状態で、その魔物の素材や肉などが箱の位置に残る。


 箱が消えたベッドの上には、何も残らなかった。ただ、ねねが声を上げた。


「あっ。なんか頭がスッキリしたかも」


 俺や唯がミサンガを強制解除した時の、洗脳のようなモヤモヤが取れたらしい。


 ってことは、タミィの呪いか魔力が反作用みたいな形でタミィ自身に悪影響を与えていたってことなのだろうか?



「‥‥んっ、お母さん‥‥」

 

「タミィっ!わかるっ!?ああ、タミィっ!」


 ラミィさんの声が響く。タミィの意識が戻ったようだ。


 ふぅ~、良かった。とりあえず山は越えた感じなのかな。




「おなかぽんぽん」


「ラミィさんからお土産までいただいちゃったねっ!」



 タミィの意識も戻り、俺たちはサブリン家でたいそうなおもてなしを受けたあと、サミィの転移術でアットサマリーまで送ってもらった。


 あの後、サブリン爺さんが泣くわ笑うわ飲めや歌えやの状態でそりゃ大変だった。


 ここで活躍したのは唯だった。あれだけ強い酒を勧められて、飲まされてもケロッとしていた。

 無敵のスキルはそういうところから来ているのだろうか?


 俺なんて酒はたしなむ程度だから、いい酒だっていうのはわかったけど、流石にギブアップでしたわ。


 ねねはサミィと共にセシリア王国へと先に戻っていった。まだ病み上がりだからね。

 

 俺たちは今の拠点で魔物相手の修練を続けるつもりなので、ねねには一緒に来るかどうかの確認をしたが、本人は思うところがあるようだった。


「頭のモヤモヤが消えたら、なんだかヤル気が出てきたみたい。

 くよくよしててもしょうがないし、私は私の出来ることを探してみる。トモに頼っちゃうのもなんかシャクだしね」


 ねねはセシリア王国で力をつけることを選んだ。愛子さんも居ることだしきっと大丈夫だろう。


 ちなみに、タミィがミサンガにかけていた呪いの内容は、セシリア王国に逆らわないようにするものらしい。

 これは勇者召喚の時に必ず行う儀式だそうだ。


 ねねの帰り際、唯と何か話していたが、女同士のナイショ話らしく、エロ親父認定をされた。


 否定はしない。

 

 タミィはもうしばらく静養が必要のようだった。


 ねねの見立てでは、ごっそりと落ちた体力と、特に魔力の回復には時間がかかりそうとのことだ。


 もしかしたら、タミィを蝕んでいたのはタミィの魔力なのかもしれない。


 そうなると、はてなボックスには魔力を収納出来るってことなのか?


 魔法を使ってくる魔物に遭遇したことがないので試したことが無いが、たとえばファイアーボールなどを収納して、打ち返すみたいなことができるのかもしれない。


 夢は広がるばかりだ。


 ラミィさんからは、ローズムーン家へも来て旦那さんにも会ってほしいと言われたが、また機会があればと今回は遠慮させていただいた。

 確か伯爵様だったはず。まだセシリア王国にしっかりと生存の報告もしてないしね。


 まぁ今回の件でバレてしまうのは諦めている。何かあったら向こうからアクションをしてくるだろうし。

 

 

 夕飯の時間なのだが、みんなお腹がいっぱいなので、お風呂に入って早めの就寝とした。


 次の日の朝、3人で宿の朝食を食べている時、ねねとサミィが宿に駆け込んできた。


 昨日の今日なので、タミィに何かあったのかと聞いたが、そうではないようだ。



「トモ、唯、香ちゃんを覚えてる?高校生の4人組の。

 あの4人が昨日から行方不明なのよっ!」

 


 一難去ってまた一難。

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