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「告白?いいわよ。恋人から始める感じね」
「え〜っ!?ア、アタシもっ!?ふ、2人がそれでいいなら、アタシもいいけどさっ!」
「な、な、なんでこんな所で、複数の女性を同時に口説いてらっしゃるんですかっ!?不謹慎ですわっ!!」
いやいや、恋や愛の告白じゃないからね。俺の言い方が悪かったようだ。
「俺と唯は、日本に帰るっていう決意をしたんだ。そしてその方法を探していく。今はそのためにこの世界を生き抜く努力をしている。
ねねがどう考えているのかはわからないけど、俺たちに関わると厄介な事になる可能性が高い。すでにセシリア王国からの逃亡者だしね。
それでも、俺と一緒に来てほしいんだ。一緒に日本に帰らないか?」
フェリ以外がポカーンとしている。
「か、変わってませんわよっ!それって愛の告白じゃないですかっ!」
あれ?仲間に誘う場面をイメージしていたんだけど。
「ア、アタシは、トモについていくって決めてるからねっ!」
ほら、唯はパーティに加わった、みたいなBGMが流れても違和感はない。
「いいわよ。私も日本に帰りたいし。それにこれから何をするかも決められなかったからね。
注文をつけると、『一生養ってやるから』ぐらいの言葉が欲しかったわ。
違うか。私がトモを養うんだっけ?娯楽要員として」
それこそプロポーズみたいになってしまうわ。
「フェリも、パパとママといっしょにいく」
フェリが俺に抱きついてくる。俺もギュッと抱きしめる。
「フェリも一緒に日本に帰ろう」
「うん」
これで想いは同じになった。きっと大丈夫だろう。
「さっきから、フェリちゃんがパパママ言っているのが気になるんだけど、後で詳しく聞くからねっ」
ねねが俺と唯を睨んでくるが、別にやましいことなどないからね。
「そして、サミィにも」
「えええっ!?わ、わたくしにも告白ですかっ!?わ、わたくしは、お父様もお母様もこちらの世界の住人ですので、日本には行けませんわっ!!」
サミィ、そういう話じゃ無いからね。この世界の仕組みを知っておきたいんだ。
「タミィを元に戻すために重要なことなんだけど、『想いが届く世界』っていう言葉、聞いたことあるかい?」
以前、美由紀さんが言っていた言葉を聞いてみた。
「『想いが届く世界』かどうかはわかりませんが、この世界の魔法やスキルは、『想い』によって発動するというのはよく知られていることですわっ。
解明されたわけではありませんが、成人の儀での祝福も、この世界の『想い』によってスキルが与えられると信じられていますの。
わたくしはローズムーン家が代々承継している転移術のスキルを、タミィはお母様と同じ呪術師のスキルを授かりましたの。
召喚された勇者様にとっては、本人の想いの『強さ』によって祝福の影響を受けるというのが通説ですわっ」
俺も思い返してみる。最初はマジシャン違いだったとはいえ、人体切断マジックも、フェリのアシスタントも、何気なく『こうできるんじゃないか、こうできれば良いな』という想いが自分のスキル特性に当てはまったときに発現していた。
唯のスキルが初めて発現した時も、おそらくは北さんを護りたいと想った時なのだと俺は思っている。
ねねは、みんなが保護されていると言った愛子さんを疑った時らしい。病気や怪我ではないが、心の痛みが診えたと言っていた。
みんなへの想いなのか、自分の想いなのかはわからないが、やはりそれがこの世界の仕組みでありルールなのだ。
「うん。サミィ、ありがとう。
これから話すこと、見てもらうことは、サミィの今後の人生にに影を落としてしまうかもしれない。
巻き込んでしまうが、それでも構わないかい?」
サミィに最終確認をする。サミィはむくれ顔で俺に返事をした。
「わたくしには、ついてこいって言ってくれないのですわねっ!
ウフっ、ちょっと意地悪を言いたくなっただけですわ。
わたくしは、タミィを元に戻すためならばどうなっても構わないと伝えたはずですわ」
みんなの想いがまとまったところで、俺は部屋にあった水差しを手に取り説明を始める。
「みんなに見てほしいのは、俺のスキルで、コインの移動マジックだ。
右手にはコインで作ってもらった手袋を装備している」
女性4名をお客さんに、マジックショーの開幕である。
ねねの「意味不明な装備を作っているわね」というヤジは聞かなかったことにする。
まずは、水差しを右手から左手に移動させる。
「おお~っ!」と驚きと拍手が起きる。スキルなのだけど、こういう形で披露したことは無かったのでなんか気持ちいい。
続いて、水差しだけ移動させる。水差しが移動して、中の水が元の場所で床に落ちた。
「うわっ!トモっ!そんなことするなら先に言ってよっ!!」
唯が桶のようなものを探しに行った。歓声は上がらず、クレームが上がった。
タライみたいなものを床に置いて再開。
今度は、水差しを移動させずに、中の水だけを移動させた。
これも成功した。水と水差しの瓶が1つで水差しと認識している場合、水と瓶は、分離出来るものだからだ。
俺のドヤ顔に、みんなが拍手をくれる。
「人の心臓だけを移動させるとかができるってこと?」
ねねが怖いことを言うが、それは出来ない。
俺の認識で、心臓が存在してないと人では無く死体になってしまうとわかっているからだと説明する。
最後に、部屋の壁をコンコンっと叩き、空洞でない事を確認したあと、水の入った水差しを持ち、反対の手で壁を触ってスキルを発動させた。
成功したあと、水差しを逆さにして、水が入っていないことをみんなに見せる。
「えっ!?壁の中か、壁の向こうに水が移動したってことなのっ!?」
唯がいい反応をしてくれる。
「実は水差しの中の水は、行き場を無くして消滅したんだ」
フェリが拍手してくれた。ねねと唯は、ふ~んって顔をしている。
そんな中、サミィだけは青ざめて口を金魚みたいにパクパクさせている。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!消滅なんですのっ!?というか、おふたりはなんでそんなに冷静なんですのっ!!?消えてしまったのでしゅよっ!!
消滅ってそういうことですわよねっ!?この世界からっ!!
えぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」
少し間のあってからの、大興奮だろうか?途中、噛んでしまっていたことは名誉のためにもツッコまないでおいた。
「あ~、森でなんかブツクサ言いながらやってたのはこれなんだねっ!地面と話してたわけじゃなかったんだっ!」
唯、そんなことを思ってたのかっ!俺は流石に地面と喋らない。
「サミィちゃん、そんなに驚く事?変人トモだから、これくらいやっても普通なんじゃない?」
ねねさん、変人とはなんだ、変人とは。
「あのですねっ!消滅させたり創造したりというのは、神様の仕事なのですのっ!!そんなことが出来てしまったら、世界の理が変わってしまいますわよっ!!」
サミィが興奮しながら、2人に説明をしていく。そう、この反応が欲しかったのだ。俺はドヤ顔で返しておく。
「なんですのっ!?トモさんは、なんでドヤ顔ですのっ!?
大変なことをしてしまっているのですわよっ!
そして、この事実が世間に知られてしまったら、大変ですのよっ!!
‥‥‥
‥‥‥あー、さっきの確認は、そういうことだったわけですのねっ。
うあー」
サミィはショックで壊れてしまったようだ。頭を抱えて唸りだした。
「サミィちゃんも、もう諦めちゃったほうがいいと思うよ。トモのやることだし」
ねねは、優雅に紅茶を飲みだしている。フェリ、たらいの水は飲まないでいいから、ねねに紅茶を貰いなさい。
□
みんなでティータイムの時間になった。この部屋に人の訪問が無いのは、愛子さんが人払いをしてくれているのだろう。
唸ったり、頭を抱えたり、ボー然としたりを繰り返していたサミィが、ようやく正気に戻ったようだ。
「わかりましたわっ。本当は今見たことを忘れてしまいたいのですが、この事実はお墓まで持っていきますわっ!」
では、次の段階に進みますね。
「まだなにかあるのですのっ!?」
サミィがビクついているが、ここからはタミィを元に戻すための手順の説明だよ。
「それぞれの役割を担ってもらいたいと思います」
まずは、サミィの転移術で、みんなでタミィの病室に移動する。
タミィの寝ているベッドの隣に、もう一つベッドを用意してもらう。
医者や治癒師、家族も部屋からは出てもらう。
ねねが、タミィを治療鑑定して、何がタミィを蝕んでいるのか、異物が混入しているのかなどを確認してもらう。治療法があるならばそれで良し。それを用意するか、探しに行く。
原因不明で治療法がない場合、唯のスキルでタミィの中の『原因不明』、もしくはサミィに協力してもらい、『元気な状態のタミィだけ』を惹きつけてもらう。
俺が、『元気なタミィ』を隣のベッドに移動、もしくは『原因不明』を隙間のない土や壁の中に移動させて消滅させる。
フェリは、その『原因不明』が襲ってきたり、よくわからない動きをしていないか警戒してもらう。倒せそうなら退治する。
「‥‥っとこんな感じかな」
俺の考えをみんなに伝えたが、デジャヴのような光景が目の前に広がっていた。
「原因不明か〜。やったこと無いけど上手く惹きつけられるかなっ?」
感覚派の唯ならば大丈夫だと思うよ。
「私は、スキルの実践経験が少ないから、すんなり鑑定できるかが心配」
とりあえずねねに、サミィの治療鑑定を試してもらった。
『サミィ・ローズムーン 怒り→呆れ 成長と経験』
「できた。サミィちゃん、その感情は大人になれば納得出来ていくみたい」
どんな感情だかわからないが、立派に成長してもらいたいものだ。
ちなみに、俺のこの変わり者の病気は治らないんだと。
「もうっ、諦めましたわっ」
サミィは諦めることを知った。1の成長をした。
「フェリはけいかい!」
フェリはやる気がMAXだっ!
「フェリが1番危なくないっ!?その原因不明をどっかに縛っておけないのっ?」
ふむ。唯の意見も的を得ている。なんせ原因不明だからな。どれほどの強敵なのかがわからない。
「大きさ的にタミィより大きいってことは無いだろうから、人体切断ボックスに収納するか」
タミィの器に収まっているわけだから、ボックスにも収まるだろうということで、その方向に変更した。
相手がガスタイプだったとしたら、素材がコンクリートや魔木の場合に、隙間に入り込むかもしれない。
サミィが「はいはい」みたいな顔をしているが、放おっておく。
その後も、できる限りの対策を検討した。
では、タミィ救出作戦のスタートである。
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