0−10D

「サミィさんにもう一度聞きたいんだけど、タミィさんの状態がわかったほうが回復の確率が上がる気がするんだ。

 だけど治療師の人もそこらへんはわからないんでしょ?」



「サミィで構いませんわっ。そうなのです。来ていただいた高名な治癒師の方も原因がわからないとのことでしたの。

 小瓶でしたのですけどエリクサーも飲ませましたのっ。でも、効果がなくて‥‥」

 サミィは話しながらまた涙が溢れ出してしまった。色々と手を尽くしたのだろう。


 それにしてもエリクサーなんてあるんだね。でもそれでも効かないとなると、やっぱり俺のエラーが原因なんだろうか。


 治療の診断とか、CTスキャンみたいな魔法とかスキルとかこの世界にはないんだろうか?


 ふと思い出した。ねねのスキルが確かそんなスキルだったことを。


 この1ヶ月、自分たちのことで必死だったからすっかり忘れていたけど、ねね達は大丈夫だったのだろうか?



「そうでしたわっ!ねねさんも今、病床に伏していますのっ。

 実はねねさんにもお願いに行ったのですが、国の方から今は面会謝絶だと言われました。

 どうも、皆様がお亡くなりになられたと聞いて、ショックで倒れたとか」




 私は王宮内のいつもと同じ部屋のベッドで目を覚ました。


 あの日。みんなが死んでしまった事実を知って意識を失った。この部屋に運ばれて、私は体が動かなくなった。

 これから何をしていいのかも、わからなくなっちゃった。


 私が倒れたときに一緒にいた桜井くん、高橋くん、リリーさん。沙織ちゃんや香ちゃん達も、心配してここにお見舞いに来てくれているらしい。 


 だけど、会えなかった。会うとみんなのことを思い出してしまいそうで。



 つーっと、頬に涙が伝う。 


 あの日から、ずっと涙が止まらない。この涙は涸れない。 


 私はこんなに弱い人間だった。日本では独りだったし、でも貯めていたお金で独りでも生きていける自信もあった。

 だけど、この身一つで突然異世界とかいう状況にさせられて。


 死んだ人たちだってそれほど親しい人たちではなかった。

 人が死ぬということだって、仕事上接する機会も多かったのに。


 でも、生きる希望だったんだ。死んじゃいたい。 


 私だけ、ぽっかり空いてしまった。心が。


「‥‥日本に帰りたい、まだ、死にたくない」



 ノックの音がしてドアが開いた。ここに入ってくる人は限られている。

 この足音は愛子さんだろう。


「ねね、入るよ。おっ、今日は起きてるね、感心感心。

 行きつけのケーキ屋さんがねっ、新作ケーキを発売したんだっ!どう?カワイイでしょ?

 最近はねねがご飯も食べれるようになったって聞いてさ。

 2種類あるからふたりでシェアしようと思って。調子はどう?」



 愛子さんは、いつも明るく私に話しかけてくれる。

 任務でこんなことがあったとか、仲間がこんなことをしでかしたとか。


 私も話を聞きながら、相槌に似た返事を返している。笑顔を作りたいんだけど、、、上手く笑えているだろうか。


 

 1時間くらいが経っただろうか。そろそろ愛子さんが帰る時間だ。

「さて、じゃあまた寄るよ。その時はもっとカワイイケーキを探して来ようかな?

 あれ?ねね両方とも食べれたんだね。どっちも美味しかったでしょ?」



 え?



 2つを半分づつに分けてもらったケーキだけど、私は1つしか食べて無いのに。



 誰も居ないはずの空間から、声が聞こえてきた。


「うん、食べたものも消えるね。新発見だ」


「おいしかった」


「ちょっとっ!勝手に食べたらねねちゃんがビックリしちゃうじゃんかっ!!」




「そこにいるのはっ、誰だっ!!」

 愛子さんが剣を抜き、そこにいるであろう誰かに警戒をする。


 ただ、この声は、聞き覚えが、生き、てたんだ。


「ま、待って、愛子さんっ」


 私は、また涙を流しながら愛子さんを止めた。



「ほらっ!!怒られたっ!トモのせいだよっ!」

 そんな声と共に、人が、パッと姿を表す。

 

 目の前には口にクリームを付けた猫耳の小さい女の子。


 愛子さんに謝っている魔法服の小さい女の子。


「ねねちゃんっ!!良かったっ!ねねちゃんも生きててっ!!無事でっ!!」

 私に抱きついてきた女性は、唯ちゃんだ。


 そして、その後ろで頭をかいている男性は、トモだった。



「唯ちゃんっ!トモっ!」




「本当に申しわけございません。トモさんが、『ドアが開いているんだから入っていいんじゃない。ビックリさせてあげたほうがねねも喜ぶし元気も出るから』って言うので、つい一緒に侵入してしまいまして‥‥」


 サミィが早口で、ねねと愛子さんに謝罪と経緯の説明中だ。


 なぜか俺だけ、部屋の隅で正座をさせられている。

 なぜ?確かに主犯と計画者は俺かもしれないが、みんな同意したよね。共犯じゃない?


 フェリなんて実行犯なのに、愛子さんの膝の上でもう一個ケーキを食べてるし。


「トモは絶対に途中から、ねねちゃんをビックリさせて元気にさせようっていうのを忘れて、スキルの実験に走ったでしょっ!」

 なんとっ!?唯くんの推理は的中だっ!いい探偵になれるよ君は。



「全く。この部屋にいたのがわたしではなかったら、不敬罪や不法侵入で逮捕されてもおかしくなかったんだぞっ!

 ねねから君はもうちょっと大人だと聞いていたんだが?トモくん?」

 ねねの護衛をしている先輩勇者の愛子さんは、呆れた顔で俺を見つめてくる。

 その視線、ゾクッとするねっ!


「だからやっぱり、サミィちゃんの言う通りに正式な手続きを取ってから来ればよかったんじゃないっ?

 トモが時間がかかるからとか言うのに乗っちゃったアタシ達も悪いんだけどっ!」


 だってねねが居るのが王宮内だよ。面会謝絶の勇者に、そんなにすぐに許可が降りる訳がないでしょ。


 ここは、サミィのせいにするのが得策だな。

「いや~、サミィが、愛子さんなら許してくれるだろうって言うのでついうっかり

「えっ、い、言ってませんわよっ!!トモさんの妄想ですわっ!!」


「パパ、もうそうすき」

 うんうん、失敗した。パパは妄想族なんだよ。ブブンブンっ!



「あははははははっ!ほんとにっ!あー、久しぶりに笑った」


 ねねがみんなのやり取りを見て、泣きながら大笑いしている。


「ほらね、俺の計画通りの

「こんな計画でしたのっ?最初っから無計画の行き当たりばったりでしたわっ!」

 サミィの俺に対する風当たりが厳しくなっていくのがおわかりだろうか。


 ねねは、唯が心配するくらい、ベッドの上で泣きながら大笑いを続けていた。




 ねねが少しでも元気になったようで安心した。あとは、本題であるタミィの回復だ。


 愛子さんに「わたしにも協力させてほしい」と言われたんだが、今回は断った。


 おそらく、厄介事に巻き込んでしまうから。


「トモっ!?愛子さんは信頼できる人だよ。愛子さんが居てくれたおかげで、私がどれだけ心強かったか」

 ねねが、愛子さんの申し出を断った俺を非難する。


「いいんだ。トモくんは、わたしの立場を理解してそう言ってくれているんだよ」

 愛子さんが優しい笑顔で、ねねの頭を撫でながら諭している。俺が断った理由を理解してくれていた。


 愛子さんはセシリア王国に所属する勇者。おそらく、俺らがこれからすることは正攻法じゃない。


 愛子さんの立場や、俺達の今後の生活を守るためにもだ。申し訳ないが。


「まぁ事情はわかったが、こんなことを続けていると本当に牢屋に入れられかねないからね。特にトモくん。わかったね。

 ねねの同伴に関する許可は、わたしの一存でなんとかしよう。

 ただし、ねねは病み上がりだ。無茶はさせないように。

 それとねね、この男に振り回されすぎないように。悪い男では無いのはわかったけど、いや、悪い男かな?

 サミィ、あと唯とフェリだったかな。タミィはわたしにとってもカワイイ後輩だ。助けてやってくれ。よろしく頼む」

 

 そう言って愛子さんは部屋を出ていった。



 ねねに対して、俺は真面目に話を続けた。

「タミィの回復に、ねねの力が必要なんだ。俺たちと一緒についてきてほしい」


「うん。わかったわ。色々と聞きたいことはあるけど、タミィちゃんをなんとかするのが先ね」

 ねねも了承してくれた。ねねのスキルは『治療鑑定』。スキルは発現している。

 ねねが診た対象者の、名前、病名、治療方法が、スキルボードみたいな形でその対象者の前に現れるらしい。


 寝っぱなしだったので体力が問題だったが、唯が支えることにした。スキルの発動には問題がないようだ。


「それで、実際にはどういった方法でタミィちゃんを回復させるつもりなの?」

 ねねが聞くのもごもっともだ。俺たちは回復師や治療師ではないのだから。


 俺はみんなに説明をする。


 まずはタミィの療養している祖父の家まで、サミィの転移術で移動する。

 ねねの「治療鑑定」でタミィの体を鑑定する。



「ここからは、今後、色々面倒くさい問題が起こる可能性があるんだけど、唯とねねには、俺に付き合ってもらいたいんだ」

 

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