0−7
「いいかい。ちみっこと唯っちはスキルを使って精度が上がるタイプだ。いわゆるスキルレベルタイプだな。
だけどトモっちは、スキル確定タイプだ。珍しいらしいタイプなんだけどね。
そうだね、さっきの例でRPGゲーム。ファイアーボールの魔法はファイアーアローの魔法にはならないよね。
この世界には経験値レベルアップは無いよ。魔物を何匹倒したら、チャラララーン♪ファイアーアローを覚えた♪これ無いから。
ならばどうするか、探すしかない。自分のスキルを。そういうの得意でしょ?」
なるほど。確かに俺の『手品師』、コインマジックと人体切断マジック、あとはアシスタントか、これしかネタが無いのは確かだ。
この2つだけじゃ、マジックショー開催してもお客さんからお金は取れない。
おっと違った。
「唯っちの目先の目標は、その無敵状態で動けるようにすること。時間はかかるから焦らないこと。
右手だけ無敵とかできたらいいね。
ちみっこは、能力的には問題ない。四足を心掛けてご覧。サーベルキャットは両手の爪が伸ばせる。左手を上手く使うこと。
パパとママはちみっこが護るんだ。
みんなに1つ良いことを教えよう。この世界は『想いが届く世界』だ。だけど、それを想わないヤツに想いは届かない。
大いに悩めよ、若人よ」
美由紀さんがフェリを撫でながら二人の方針も決めてくれた。
想いか。確かに強くならないと、日本に帰る想いも、生き延びる想いも達成出来ないよな。
「なにかくる」
フェリが何かに反応する。美由紀さんの後方から何かが迫る音が近づいている。
でかいイノシシが一直線に突進してくる。飛びかかろうとするフェリを、弥生さんが優しく止める。
「今日のメインディッシュだわ。特別にオレのスキルも見せてあげるとしよか」
そう言って美由紀さんは振り向くと、目の前まで距離を縮めていたイノシシの鼻先を手で触れた。
突進の衝撃も無いまま、イノシシが風船の空気が抜けたようにみるみるしぼんでいく。
数秒でイノシシは、干からびたというか皮だけになってしまった。
骨はどこに行ったの?
「ぷはー、結構結構。ほれほれ、おすそ分け」
美由紀さんが反対の手広げこちらに差し出す。
暖かい何かを感じる。あれ?疲れが取れた?そして、空腹感も無くなった。
「これ、一人でやると太るからイヤなんだけど、今日は久しぶりのパーティだからな」
妙に顔がツヤツヤになった弥生さんが、サムズアップでドヤ顔をしてくる。
これが癒やしの聖女の力ってことか。
■
ギルドに戻り、美由紀さんにお礼を言って別れた。
夕方とあって、ギルド内は混雑していた。魔物の素材確認も時間がかかりそうだ。
あれ?他の受付の所には行列が出来ているのに、アリシアさんのところは数人が並ぶだけ。普通なら、あんな美人受付嬢を放っておく訳なんかないのにな。
その数人も対応が終わったようなので、俺もアリシアさんに今日の報告をする。
「それは良かったですね。ミユキさんは、ああ見えてこのギルドでも数人のAランクですから。
面倒見はいいんですけど、他人と一緒に行動するのを嫌うので」
ギルドのランクを聞いたところ、SSSからFまでの9段階で、S以上はほとんど居ないらしい。
聖女のことも聞いてみた。弥生さんにも聞いてみたが、はぐらかされてしまった。
守秘義務があって言えないならしょうがないと思っていたのだが。
「そういえばナナムさんたちに、ギルドの説明をしていませんでしたね。
ギルドに守秘義務はありません。ギルドが所有している、所属する冒険者の情報は、どなたにでも公表されます。
ギルドカードに登録していただいた名前、スキル職、犯罪歴、魔物や魔木の討伐歴や実績などですね。
それ以外はギルドは関知しません。
個人の情報を聞いた、もしくは知っていたとしても、ギルドとしては関知していませんので、他の方に伝えることもありません。
ただし、このギルドの受付で私だけは、信用のある冒険者には私の判断で情報を提供していいことになっています。
私って結構偉い立場なんですよ。
そしてそれは、ナナムさんはマスターに信用されているってことです」
なるほど。専属みたいな感じなのかな?信用と言っても大したことしていないけど。
アリシアさんが続ける。
「このギルドは、アットサマリーの1級ギルドになります。2級、3級ギルドも存在します。
真っ当な依頼は1級ギルドに集中します。ギルドでの信用をなくした場合、このギルドで依頼を受けることが出来なくなるでしょう。
2級からここへ戻ってくる方は多くありません」
午前中に聞いて厄介だと思ったのがこれだ。
契約みたいなルールがあるわけではない、あるのは信用のみ。これをやったら信用を失うよみたいなものもない。
冒険者達もそれを理解しているからか、横柄な態度を取ったり、新人イジメのテンプレみたいな奴らが居ない。
ただ、ギルドが一方的に『こいつ嫌いだから信用無し』って言うこともできてしまう。
それを根に持って反発や造反する冒険者が出てきても大変だ。
ただし、そうはなっていないってことは、ギルド側は何かしら対面した冒険者の情報が『判断できる仕組み』と『強い権限力』があるってことだよな。
そして、俺はそれに近い物を経験している。『翻訳のミサンガ』にかけられていた呪いだ。
ギルドカード辺りが怪しいが、信用されている今は特に問題はないのかなとも思う。
今のところ何か悪さをするつもりもないしね。俺は無難に、そして面倒くさいことは回避したいのだ。
「依頼を失敗したなどでは信用を失うことはありませんから大丈夫ですよ。
どうしても争わなければならない場合には『決闘』という手段があります。これは、ギルドだけでなく国としても認められている契約の一種です。
あと、聖女のことでしたかね」
アリシアさんから聞いた聖女に関しては、以前この国に、真聖女協会という森を崇める組織が存在しており、象徴としての聖女を認定していたらしい。その最後の聖女が弥生さん。
最後というのは、美由紀さん含めた集団が、その組織を壊滅させたからだそうだ。
なんだか破茶滅茶だけど、美由紀さんが信用を失わずこのギルドにいるっていうことは、そういうことなんだと思う。
色々な組織があるからね。何が正しいかは未来か、もしくは神しかわからないのかもしれない。
素材の確認が終わり、お金の半分は弥生さんの取り分としてギルドに預けた。酒代ぐらいにはなるだろう。
そこまで高くない評判のいい宿も教えてもらったので、とりあえずそこを拠点として森での特訓に励むつもりだ。
■
ギルドを出た所で、サレンダーさんに会ったので、今日のお礼と、これからよろしくお願いいたしますと言っておいた。
同郷だろうし、アイツも気晴らしになっただろうとのことだ。
美由紀さんが今日ここにいたのはたまたまで、明日からは別の国に出向くらしい。
Aランクは流石に忙しいのかと思いきやそうではなく、旦那探しの旅を続けているらしい。本人のね。
「えーっ!美由紀さんならすぐにでも見つかりそうなのにっ!?癒やしの聖女って、少年の冒険者に言われてましたよっ!?」
唯の驚きもわかる。性格はどうあれ、美人さんだからよりどりみどりかと思うのだが。
「全くアイツはまだ諦めてねえのか。この国でアイツの昔を知ってるやつは、そう呼ばねえんだ」
真聖女協会が潰れた要因の1つが、美由紀さんの男漁りだったらしい。
そういう行為の最中に勢い余って、男の精気を全て搾り取ってしまい、男たちは2つの意味で昇天してしまうらしい。
元々問題のある組織だったのと、双方の同意の上での事故として処理されたそうだが、その数が組織の人間の半数以上を締めていたそうだ。
本人曰く、「若気の至りだ」と言っているそうだが、何にせよ恐ろしい話だ。
最後のスキルのときの、一人でやるとってそういうこと?
ああ、癒やしの聖女ではなく、癒やしの性女なのか。
いやらしい、なのか?
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