第37話 回復中毒者たち


 魔王と戦うといっても、なにも相手は魔王だけじゃない。

 魔王が復活すれば、それに伴って魔王軍が結成される。

 魔王以外にも、魔王軍幹部や、その他強力な魔物が続々と現れるだろう。

 そうなったとき、俺やアルトだけでは戦えない。

 魔王本体はアルトに倒してもらうとしても、他の魔王軍と戦うための戦力が必要だ。


 俺は魔王討伐隊のみんなにも、アルトと同じようにレベル上げを行った。

 アルト含め、50人全員に地獄のレベル上げ合宿をほどこす。


 俺は、みんなに訓練の方法を話した。

 まずはみんな、ドミンゴにコテンパンにされて、それを俺が回復するというものだ。

 そうすることで手軽に実践経験が積めて、レベルも上がるし筋肉もつく。

 筋肉というのはぶち壊して回復することで強化できるのだからな。


 最初、俺の突飛なアイデアに、みんな反発した。


「えぇ……ちょっとそれは……」

「痛いのは嫌だな……」

「さすがにひどくないですか……?」

「そんなので、本当に強くなれるんですか?」


 しかし、それを治めたのはドミンゴの証言だった。


「みんな、大丈夫だ。エルド様のおかげで、俺もここまで強くなった。ほら、みろこの筋肉を!」

「おお……!」

「しかも俺はレベル1700だ。俺みたいにみんなもなれるぞ……!」

「そ、それなら……」


 集まった男たちは単純だ。

 みんな、強くなれるためなら、なんでもするという連中だ。

 

「それにな、最初は痛いかもしれんが、だんだんそれが気持ちよくなっていくから大丈夫だ! 強くなれると思えば、どんな痛みも快感に変わる! 安心してエルド様に身を任せるんだ! なあ、アルト!」


 ドミンゴがそう言うと、第一信者であるアルトも大きくうなずいた。


「もちろんです! 俺もエルド様の回復魔法のおかげで強くなれましたから!」

 

 

 ◆


 

 オットーにも協力してもらって、こんどは弓矢を避ける練習だ。

 オットーが弓矢を一斉に放って、それをみんなが死に物狂いで避ける。

 もちろん、オットーはレベル1500で、弓の名手だ。

 オットーの弓を避けることは容易ではない。

 オットーの弓は、討伐隊のみんなに突き刺さりまくった。

 念のため頭は避けるように言ってあるし、頭にはみんな兜をかぶっている。


 しかし、オットーの弓はみんなの腕や脚に突き刺さりまくる。

 だが安心してほしい。

 オットーの弓で死ぬことはない。

 矢が突き刺さったやつから、俺が片っ端から治療していく。

 こうすることで、みんな気兼ねなく弓矢の嵐に向かっていくことができるのだ。


「ひええええええ……スパルタすぎる……!」

「も、もう嫌です……! 痛いのはいやああああ!」


 何人かの連中がそんな声を上げる。

 それを、アルトがすかさず鼓舞する。


「なにを言っているんだみんな! 弓を喰らってもエルド隊長が治してくれるんだから大丈夫だ! さあいこう……!」

「ひぇええ……こいつ、イカレてやがるぜ……」


 アルトはすっかり、このスパルタ合宿に慣れていた。

 まあ、俺がハイになる魔法も使っているからかもしれない。

 だが、アルト自身の精神力や意思がすごかった。そこはやはり、さすがは主人公の器と言えるかもしれない。


「オットーさん! もっと、もっと弓をください! 俺はどんどん強くなれるのが気持ちいいんです! ふおおおおお弓のシャワー最高だぜ!」


 ドン引きする周りをよそに、アルトはハイテンションで果敢にも弓の嵐に向かって行く。

 アルトの肩にはどんどん弓が突き刺さっているが、気にしていないようすだ。

 よしよし、この調子でアルトを最強の戦士に育てよう。


 オットーの弓を避ける修行は、朝まで続いた。

 しだいに、みんな弓を避けるのに慣れていく。

 治療があるとはいっても、みんな痛いのはいやだから、必死によける。

 足が疲れたものは、すぐに治療する。

 そうするうちに、みんなかなり避けれるようになっていった。

 よし、これで魔王軍の攻撃を避けることができるな。


 それから、アカネには魔法で協力してもらった。

 アカネの魔法をみんなに喰らわせて、魔法耐性をつけさせるのだ。

 最小出力にして魔法を撃てばかなり痛いが、死ぬことはない。


「くらえ……! 火炎球――壱ノ型・ほむら


 ――ゴオオオ!!!!


 アカネの魔法が、訓練兵たちを襲う。


「ぎゃああああああああ!!!!」


 しかし、オットーの弓訓練で慣れたのか、もう文句を言うものはいない。

 それどころか、みんなちゃんと強くなれることを実感して、やる気に満ち溢れている。


「もっとです! もっとください! 俺たちはもっと強くなりたいんだああああ!!!!」

「うおおおおおおおおおお!!!!」


 アカネが訓練兵たちを焼いては、俺が治療し、それが三日三晩続いた。

 おかげで、みんなの魔法耐性が爆上がりした。


「おおおおお! レベルも上がってる! エルド様の修行方法は最高だ!」

「ああ、なんて革新的なんだ。こんな方法、エルド様の回復魔法なしではありえねえ! 討伐隊に入ってよかったぜ!」


 と、隊員たちからは軒並み好評だ。

 文句をいう奴も最初はいたが、そういう奴はアルトに裏に連れていかれていた。

 かえってくるころには、みんな訓練を絶賛していた。

 だんだんやっているうちに、みんな訓練中毒みたいになっていって、おかしなテンションになっていく。

 まあ、回復魔法にはハイテンションになる副作用があるからな。

 一回や二回ではどうともないが、薬中毒みたいなもので、何回も繰り返すと回復中毒になるのだ。

 回復中毒になると、痛みも薄れ、どんどんハイテンションになっていく。





 魔王討伐隊としてものになったのは、せいぜいが50人だ。

 だが、魔王軍との戦いはもっと大規模なものになるだろう。

 魔王軍の下っ端モンスターなんかを合わせれば、それこそ数は万をも超える。

 だからこちらも、さらに兵士を揃えなければいけない。


 そこで俺は考えた。


「そうだ、奴隷を使おう」


 やっぱり、奴隷商人である俺といえば、奴隷だ。

 奴隷は安く大量に手に入る労働力だ。

 そして、特に欠損奴隷であれば。


 俺は回復のオーブを、50人全員に配った。

 そして、各々欠損奴隷を買ってくるように金を渡す。

 50×100で5000人の奴隷が集まったわけだ。

 しかも奴隷たちは治療してもらった恩で、忠誠心も高い。


 討伐隊の50人には、それぞれ旅団長を名乗らせた。

 旅団長の下に100人の奴隷を従えてるという組織構図だ。

 旅団長には、さらにオーブを利用して、奴隷の練兵もたのんである。

 俺がやったのと同じように、回復オーブで治療しながら修行させるのだ。

 これで、5000人の屈強な奴隷兵団が完成した。


 また、50人の旅団長をさらにまとめあげる、師団長としてアルトを任命する。

 これで5000人規模の軍隊が完成し、アルトを祭り上げる準備は整った。

 また、防具や武器も必要に応じて買いそろえた。

 それらの資金は、王様が工面してくれた。


 これで、俺たちは魔王に備える――。

 

 そして、ついに魔王が復活する――。

 

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