第13話 弓の名手【サイド回】

【sideオットー】


「それで、オットー。お前なにか得意なことはあるか?」

「得意なことですか……それなら、弓が得意です!」

「そうか、ならちょうどいい」


 エルド様はそういうと、俺に街へいって冒険者ギルドへいくように命令した。


「冒険者……って、それが僕の仕事なんですか……?」

「そうだ、適当にクエストを受けてきてくれ」

「は、はい……」


 奴隷っていうから、もっとキツイ仕事や、ひどい目にあうのだとばかり思っていた。

 だが、エルド様は腕を治してくれた上に、冒険者になれというのだ。

 冒険者……実はひそかに憧れていた。

 村にいたころは獣を狩るか、スライムなどの村周辺の雑魚を狩るばかりだったけど、もっと強力なモンスターと戦ってみたかったんだ。

 僕は自分の弓の腕を、限界まで試したかった。


「クエストの報酬は8割でいい。残りの2割は好きにつかえ」

「えぇ……!? いいんですか?」

「うちはそれでやっている」

「ありがとうございます!」


 しかも待遇もかなりいい。

 奴隷でありながら、こんな待遇なんて。他ではなかなかないだろう。


「お前のほかにも、ドミンゴという奴隷がいてな。そいつとペアを組んでクエストをやってもらおうと思っているんだ。構わないか?」

「もちろんです」

「ドミンゴは近接の戦士だ。お前の弓でサポートしてやってくれ」

「はい……!」


 それから、僕はドミンゴと合流して、一緒に街へいくことになった。


「ドミンゴさん、よろしくお願いします」

「ああ、よろしくな。それにしても、お前も運がいいな」

「え……?」

「エルド様に拾ってもらってよ」

「ああ。そうですね。本当に、いいご主人様です」


 僕はドミンゴとエルド様をたたえながら、街を目指した。

 それから街へついて、ドミンゴにいろいろ教えてもらった。

 冒険者登録のやりかたとか、クエストのうけかたとか。

 僕は生まれてこのかた、あの村をほとんど出たことがなかったから、こんな都会は新鮮だ。

 まさか奴隷になって、こんなふうに人生に転機が訪れるとは。


「じゃあ、クエストといくか!」

「はい!」


 僕はドミンゴといっしょに、クエストへ出かけた。

 正直、クエストはめちゃくちゃ楽しかった。

 弓を好きに撃てるし、モンスターと戦うのは楽しかった。

 今まで持て余していた弓の実力が、ここぞとばかりに存分に発揮された。


「オットー。お前なかなかやるじゃないか。弓の名手だな」

「ありがとうございます!」


 ドミンゴにも褒められる。

 クエストが終わると、ドミンゴは僕を飲みにつれていってくれた。


「いいんですか? こんな自由に飲みあるいちゃったりして……はやくお屋敷に帰ったほうが……」

「いや、エルド様は寛大なお方だ。俺たちの仕事はクエストだけだからな。それが終わればあとは自由なんだ。金さえおさめれば、エルド様は好きにさせてくれる。最高のご主人さまだろ?」

「はい……! ほんと、そうですね……!」


 クエストでいっぱい汗を流したあとに食べるご飯は、とてもおいしかった。

 これで奴隷だっていうんだから、不思議なもんだ。

 むしろ、奴隷になるまえよりも僕は生き生きしていたし、ワクワクしていた。


 エルド様の寛大な処置は、これで終わらなかった。

 僕が冒険者の仕事について数週間したころだ。

 突然、エルド様から呼び出しをうけた。

 とうとう奴隷らしくひどい目にあわされるのかと思いきや――。


「オットー、いつも頑張ってくれているようだな。それに、弓の腕がすごいのだとか。ドミンゴからきいている」

「は、はい……それは、おかげさまで……」

「これはささやかな品なんだが、ぜひ使ってほしい」

「はい……?」


 すると、エルド様は僕に新品の弓を手渡した。


「こ、これは……?」

「新しい弓だ。今のものよりもかなり性能がいいだろう」

「いいんですか……!? 高価なものなのでは……?」

「先行投資だ。これがあれば、より高難度のクエストに挑めるだろう?」

「あ、ありがとうございます……!」


 僕はよろこんでそれを受け取った。

 正直、その弓のうちごこちは最高だった。

 どんどんモンスターを狩れる。

 おかげで、高難度のクエストを受けて、収入も倍になった。

 少しはエルド様の期待に報いることができただろうか。

 僕はこれからもこの最高の生活を続けるべく、がんばっていくつもりだ。

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