第308話 監視の目

私は昔から母親の監視がすごかった。

 

小中高と部活に入ることや、友達の家に泊まりに行くなんてことは許して貰えなかった。

 

学校が終わったら、すぐに帰って来なさい。

そう言われて育ってきた。

 

中学生まではそれが普通だと思い込んでいたが、高校になれば周りと全然違うことに気づき、何度か抵抗もした。

だけど、未成年のうちはうちの教育方針を変える気はないと突っぱねられてしまった。

 

つまり、私はずっと母親の監視の目の中、生きてきたのだ。

 

そこで私は高校生活を諦め、大学生活に全てをかけた。

必死に勉強に打ち込み、有名大学を目指した。

 

そこに受かれば、家から通うことは無理。

ということは、必然的に一人暮らしができるというわけだ。

 

必死の勉強の甲斐もあり、私は無事、念願の大学受験に成功した。

最初、母は近場の大学に行くことを進めてきたが、さすがに父に説得もされてついに母は折れた。

18にもなれば、もう成人だ。

 

私は晴れて一人暮らしを満喫できる環境を手に入れた。

 

だけど、現実というのはそうそう上手くいかない。

大学でサークルに入り、友達と遊ぶ生活を続けていく中で、ある異変を感じた。

 

それは家にいるときでも監視の目を感じることだ。

 

長年、母の監視に晒されていた私だからこそわかる感覚だと思う。

注意深く観察すると、微妙に部屋の中の物の位置がズレている感じもする。

 

ストーカー。

 

真っ先に浮かんだのがその言葉だった。

 

私は誰にも言わずに引っ越しを決めた。

これで監視の目から離れられる。

 

だけど、その期待はすぐに裏切られることになる。

新しい家でも、監視の目の感覚は消えない。

 

かといって、こんな状態で警察に相談しても門前払いだろう。 

 

だから私はサークルの、女性の先輩に相談してみた。

その先輩も、昔、ストーカー被害にあったらしく、その辺りの対処法には慣れているらしい。

 

さっそく、先輩に家に来てもらうことになった。

真夏の暑い中、嫌な顔一つ見せずに来てくれた。

 

「ごめん。さっそくだけど、喉乾いたからコーラ貰っていい?」

「はい。どうぞ」

 

汗だくの先輩は冷蔵庫に向かっていった。

私は部屋のエアコンの温度を少し下げる。

 

すると先輩は私の分までよそってくれていて、私に差し出してくれた。

 

「ありがとうございます」

「うん。じゃあ、早速始めようか」

 

先輩はコーラを飲み干した後、盗聴器がないかを調べる機械で家の中を見てくれる。

だけど、それらしいものは見つからなかった。

 

ガッカリする私に、先輩は「戸締りをしっかりすることと、男がいるように見せかける」方法を教えてくれた。

それで多少はストーカー対策になるらしい。

 

そして、先輩は頻繁に家に遊びに来てくれると言ってくれた。

本当に面倒見のいい先輩だ。

サークル内でも、みんなに人気があるのだ。

 

頼りになる先輩が頻繁に来てくれるならもう大丈夫だろう。

 

今日からは安心して寝ることができそうだ。

 

終わり。













■解説

先輩はなぜ、語り部の家に『コーラがあることを知っている』のだろうか。

もしかすると、先輩が監視(ストーカー)しているのかもしれない。

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