第307話 マタギ
男は現在ではとても少なくなったマタギである。
様々な知識を持ち、初めて入った森の中でも、すぐに自分の庭のように把握できてしまう。
昔はその世界に関係する人間であれば、男の名を知らない者はいなかったほどだった。
何人かは興味本位で、男に教えを乞う者もいたが、男にとってマタギは人生そのものだったため、生半可な覚悟の人間には教える気はなかった。
だが、そんな男も年を取り、引退を考える。
そうなると一人くらいは弟子を取るべきだったかと後悔もしたが、これも時代の流れなのだろうと諦めた。
山に育てられ、山と共に生きてきた人生。
男は自分の死期を感じ、山の中で朽ちようと考えて、山籠もりの準備を始める。
だが、そんなとき、遠くの小さな村で獣害被害があったと相談された。
一夜にして村人17人全員がクマによって殺されたのだという。
猟友会のメンバーがことに当たったが、既に一人が犠牲になっているとのことだった。
そのクマを是非、男に仕留めて欲しいとの話だ。
男はそれを最後の仕事と決め、受けることにした。
男は山に入り、クマを探す。
クマを撃つのは実に10年ぶりくらいだった。
そのことに少し興奮して血が熱くなるのを感じたが、諫めて先へと進んでいく。
するとすぐに男はクマを見つけ出すことができる。
それはとても巨大なヒグマだった。
男はクマの正面に立ち、臆することなく狙いを定める。
今までこんな大きなクマに遭遇したことはなかった。
最後の仕事として十分な獲物だと、男は神に感謝する。
そしてクマは男に襲い掛かろうとする。
その瞬間、男はクマの眉間を見事に撃ち抜くことに成功した。
クマは倒れ、動かなくなる。
一発で仕留められたことに、男はまだまだ自分も現役で通用するなと思いながら、山を下っていく。
数日後。
男は山の中で死体として発見される。
それはクマによって引き裂かれた無残な死体であった。
終わり。
■解説
人食いクマは男が仕留めた以外にも、もう1体いた。
男は1体を仕留めたことで気が緩み、油断したところを襲われた可能性が高い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます