第107話 胃外交

その国は内戦によって経済がガタガタになってしまった。

 

このままでは全ての国民が飢えて死んでしまう。

そんな危機的状況に、ある国から援助をしてもよいという打診があった。

 

早速、交渉の場を用意し、相手の国の外交官を迎える。

その際、相手の外交官は美食家ということを聞きつけ、その国は国内の一流のシェフたちと一流の高級素材を用意した。

 

外交官に料理を美味いと言わせることができれば、交渉は成功したも同然という情報も得ていた。

そして、外交官は肉が好きだという情報も手に入れている。

そこで今回の料理の目玉は、高級品の牛ヒレのステーキにした。

滅多に手に入らないと言われている貴重な肉は、必ず上手いと言わせられる自信があった。

 

そして、当日。

相手の外交官を出迎えた際に驚愕し、頭を抱えることとなる。

それは、聞いていた報告よりも、相手の人数が一人多かったのだ。

 

相手の外交官は「妻も来たいと言い出してね」とさっと言った。

相手の気を悪くさせるわけにはいかない。

快く迎えることにする。

 

しかし、材料が足りない。

他の料理はなんとかできそうだったが、メインの牛肉だけはどうしようもない。

慌てて、各所に連絡して追加で手に入れようとしたが、無駄だった。

それどころか、牛肉はおろか、他の肉さえも手に入らなかった。

しかし、今日のメインは肉料理だと伝えてしまっている。

今更、肉以外を出すわけにはいかない。

 

交渉が始まり、料理を出していくことになる。

このままでは交渉は失敗してしまう。

そう考えたこの国の外交官はある決断をした。

 

料理を出す時間がかなり遅くなってしまい、相手の外交官を少し、苛立たせてしまったが、料理を出した途端、その苛立ちは消し飛んだ。

 

交渉は成功し、無事、相手の国から援助を受けられることとなった。

 

そして、相手の外交官は去り際にこう言った。

 

「実に美味しい肉だった。これまで食べたことがない肉だったよ」

 

終わり。















■解説

相手の外交官は肉好きな上に美食家であること、そして、その高い地位からほぼすべての肉を食べたことがあるはず。

しかし、外交官は「食べたことがない」と言っている。

そして、「料理を出すのが遅くなった」のはなぜなのか。

それは「料理を作る人間が減ったから」である。

つまり、この国の外交官はシェフの一人を食材として使用した。

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