第90話 田舎の夜

大学の夏休み。

親がうるさいので田舎の実家に帰ることにした。

 

何もない田舎。

コンビニさえも、車で20分は走らせないといけない。

さらに夜は蚊が多くて、虫刺されも凄くて最悪だった。

 

そんなイライラを解消するのと、本当に暇だったこともあり、ゲームばかりしてすごしていた。

 

ゲームにも飽きて、ふと散歩していると、中学時代の同級生と会った。

その子は、当時、実は片思いしていた女の子だ。

 

久しぶりと言うことで話が弾み、色々とお互いのことを語り合った。

その子は一度は都会に出たらしいが、匂いに敏感になる変な病気になってしまい、耐え切れなくて実家に戻って来たらしい。

 

戻ってきて大分症状は落ち着いたが、今でも匂いがきついものはダメらしい。

なんと、俺が虫刺されで塗っている薬も、ちょっと苦手だと顔を少しだけしかめていた。

 

その日はもう遅い時間になったので、帰るということになったが、その子が「明日も会える?」と聞いてきた。

 

これはチャンスだった。

ただ、明後日には帰ってしまうので実質明日がラストチャンスだ。

 

明日は、告白して付き合うくらいまで持っていけるかもと考えた。

離れているからこそ、なあなあで付き合ってもらえるかもしれない。

 

その日の夜は気合いを入れてデートプランを練った。

なにもない田舎だが、それでも二人で行けそうな場所をとことん調べた。

 

そして布団の中で何度もシミュレーションを繰り返す。

だが、不意に耳元でプーンという蚊の飛ぶ音が聞こえた。

 

あの子は虫刺されの薬の匂いが苦手と言っていた。

蚊に刺されるわけにはいかない。

 

母親に虫よけを出して欲しいというと、蚊取り線香しかないと言われた。

古典的だなぁと思いながら、仕方なく、ガンガン蚊取り線香を焚いて寝ることにした。

 

終わり。














■解説

語り部は蚊に刺されず、薬を塗ることはないが蚊取り線香の匂いが染みついているので、女の子に会ってももらえなくなる。

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