第88話 ハト

私が住んでいる町はハトが多いことで有名なんだよね。

中央公園には、無数のハトがいる。

 

普通は野生のハトに餌をやらないでって言われるところだけど、この町はハトが有名で観光客が来るくらいだから、ハトに餌をやるのは承認されている。

奈良のシカと同じって感じかな。

だから、公園には何個か、ハトの餌を売っている店がある。

 

ただ、この中央公園にはハトが多いが、実はホームレスも多い。

昼は町の役人がホームレスを追い出すのだけれど、夜になると戻って来る。

 

だから、昼は普通の、ハトの多い公園だけど、夜になるとハトの代わりにホームレスが点在する公園に早変わりする。

だから、地元の人間は、夜は中央公園には寄り付かない。

 

あるとき、母が私のところに遊びに来たから、中央公園に連れて行った。

売店でハトの餌を買い、ハトに餌をあげていると、突然ホームレスの一人がハトに交じって餌を拾い始めた。

 

私と母はドン引きした。

だって、ハトの餌を一心不乱で人間が拾っているのだから。

 

そのホームレスはガリガリに痩せていて、目が血走っていた。

食べ物が無くて、ついにはハトの餌さえも食べようとしているんだろうか。

 

とにかく母と私は、速攻でその場を立ち去った。

せっかくの母を案内したのに嫌な思いをさせてしまい、私はバツが悪かった。

 

それから数日後。

お昼に私が一人で公園を歩いていると、ハトに餌をあげている人がいた。

 

それはなんと、母と私が餌を撒いていたのを、必死に拾っていたホームレスだった。

 

食べるために拾ってたんじゃないの?

自分でハトに餌をやりたかったのだろうか?

それにしては、必死過ぎる気もした。

  

でも、そのときはそう思ったくらいで、そこまで気に掛けなかった。

 

それから数ヶ月後。

最近、公園のハトが減ったという噂を聞いた。

 

終わり。














■解説

ホームレスはハトの餌を拾い、その餌を使ってハトを捕まえていた。

そして、そのハトを食べていたのである。

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