第86話 カタログ

男はカタログを見るのが好きだった。

 

それは買い物が好き、というわけではなく、単にカタログを見るのが好きなのである。

昔はカタログ雑誌などを買いあさっていたが、今ではネット上に色々と転がっている。

 

カタログを見ているとあっという間に時間が過ぎ、男は1日中カタログを眺めるということも少なくなかった。

 

だが、そんな男にも当然、飽きというものが出てくる。

服や家電、ゲームソフト、日用品などなど、普通の物では満足できなくなってきた。

 

世の中、色々な物がある。

こんなものを売るのかと思っていると、それを高額で買い取っていく人もいる。

 

そんなのを見るのが楽しかった。

また、オークションを眺めて1日が過ぎていくというのを何度も繰り返した。

 

すると、やはり普通のネットオークションでは飽きて来る。

そこで男はダークウェブに入ることにした。

 

そこでは本当に色々なもののやり取りが行われていた。

思いつきもしなかったものが高額でやり取りされている。

 

男は魅了された。

寝る間も惜しんで、ダークウェブ上のオークションを閲覧していた。

 

そんなあるとき、変わったものがオークションされているのを発見した。

それは人の顔写真が載ったカタログだった。

 

有名人の顔のものもあれば、全然知らない人間の顔も載っている。

男はなんだろうと思い、タイトルを見ると『人生』と書かれていた。

 

そこで、先日訃報が伝えられた芸能人の写真の詳細を見ようとした。

だが、既に売れた後のようだった。

次に、全然知らない人の詳細を見てみると金額が表示されているだけだった。

 

色々と見ているとどうやら、有名人の方が金額が高いということがわかった。

一般の人間でも金額の差があり、若いと高い傾向にあった。

なんなのかはわからなかったが、普通はそうだろうと男は納得する。

 

だが、男はその後、驚くことになる。

それは自分の顔が載っているのを見つけたからだ。

 

恐る恐る詳細を開く。

すると金額が書かれていた。

その金額は今まで見てきた中でも低い方だった。

 

なんとなくイラつきを覚えていると、突然、ソールドアウトになった。

どうやら売れたらしい。

 

あっと思う間もなく、男は胸に痛みを覚えた。

そして、目の前が暗くなった。

 

終わり。















■解説

そのカタログはタイトル通り、その人の人生が売られていた。

男の残りの人生が買われたということで、男の命が取られてしまったということである。

このオークションは悪魔との取引だったのかもしれない。

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