第83話 丑の刻参り

「近所の神社で丑の刻参りをやってる奴がいるんだってよ」

 

突然、祐介くんがそう言い出した。

 

そういえば、お母さんも夜に変な音を聞いたという噂があったと話していた。

そっか。変な音って言うのは、丑の刻参りやってた音だったんだ。

 

「なあ、今日の夜、そいつを見に行かね?」

 

祐介くんがとんでもないことを言い出す。

 

「いや、ダメだよ。丑の刻参りは他人に見られたら呪いは自分に返るって話だよ」

「だからだよ。誰かが呪われてるのを黙って見過ごす気か? それに呪いをやってる奴を退治しないと!」

 

祐介くんはその人が心配みたいなことを言っているが、単に面白半分でみたいだけなんだろう。

 

「丑の刻って確か、深夜の1時から3時までだよね? そんな時間に家、出れないよ」

「いやいや。親だって寝てる時間なんだから、出られるだろ」

「……」

「お前、ホント、怖がりだな」

「違うよ! 行くよ!」

 

怖がりと言われるのが悔しくて、つい、勢いで行くと言ってしまった。

 

そして、その日の夜。

すごく怖かったが、祐介くんにバカにされるのが嫌で、僕は集合場所に行った。

すると、すでに祐介くんがいて、妙にニコニコしていた。

 

「おい、こっちこっち! 音してる!」

 

祐介くんの言った通り、かすかに釘を打つ音が聞こえてくる。

 

「やってるやってる。行こうぜ。どんな奴がやってるのかなぁ?」

 

ニコニコしながら祐介くんは神社の中に入っていく。

僕も仕方なく、祐介くんの後をついていくと、音が段々と大きくなる。

 

「いたっ!」

 

祐介くんが指差す方向には、白い着物を着て、頭にろうそくをつけた人が、すごい勢いで藁人形に釘を打ち付けていた。

 

あまりの異様な光景に、さすがの祐介くんも顔を青ざめて震え始めた。

 

「帰るぞ」

「うん」

 

祐介くんの言葉に、僕は頷くしかなかった。

そして、その場から逃げようとしたとき、枯れ木を踏んでしまい、パキッと音が響いた。

すると、釘を打つ音がピタリと止んだ。

 

「見いいいぃいいたああなああああああああああ!」

 

丑の刻参りをしていた人が振り返り、物凄い勢いでこっちに走ってきた。

僕たちは悲鳴を上げながら全力で逃げた。

 

追ってきた人は途中で転んだみたいで、僕たちは逃げ切ることに成功した。

だけど……。

 

「あっ!」

 

僕はあることに気が付いた。

一気に顔から血の気が引くのが自分でもわかった。

 

「どうした?」

「名札、落とした」

「お前、なんで名札なんか持ってきたんだよ」

「違うよ。忘れないようにいつもポケットに入れてたんだよ」

 

このままじゃあの人に、僕のことがバレてしまう。

 

「ぼ、僕、戻って名札探してくる」

「バカ! 逆に見つかって捕まったらどうするんだよ!」

「でも……」

「大丈夫だって。名札見られたくらいで、どこの誰かなんて絶対にわからないって」

「そうかな?」

 

少し不安だったけど、確かに戻る方が怖かった。

その日は家に帰って布団に入った。

全然眠れなくて、すぐに朝になった。

 

学校に行くと祐介くんも眠れなかったみたいで、目の下にクマができている。

僕は名札のことが気になったけど、あえて考えないようにした。

ひたすら、僕だってバレませんようにと祈ることしかできない。

 

そして、その日。

珍しく担任の先生が学校を休んだ。

元気だけが取り柄の先生だったのに。

 

終わり。















■解説

丑の刻参りをしていたのは、担任の先生。

丑の刻参りを他人に見られたので、呪いが自分に返ってしまった。

また、担任の先生がこの後、無事だった場合、名札で語り部のことがバレてしまう。

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