第10話 エミリを連れて行く方法
レイは色々焦っていた。
実はこの状況、レイにとっては喜べない。
助かって良かったとは思っているが、逆に言えば彼女の両親が生き残っている。
つまり、エミリの旅立ちのきっかけが失われる。
エミリがいなければ、後のお別れがやり辛い。
——まず、レイは活躍しない方が良い。
「俺は何も……っていうか、そうだよ。あれだよ。俺はなんとなーく道を見ていただけだったじゃん。それで魔物の活動を調べるみたいなことをアルフレドが言ってたじゃん。これはあれだな。うん、アルフレドのおかげだなぁ。フィーネも俺が走り出すより早く動き出した。あれ、忘れたの?」
俺は活躍していないと全力で言う。
だが、それとエミリが合流する話は関係ない。
「いや、俺たちは一緒に来ただろう。感謝は素直に受け取るべきだぞ。」
そう、その通り。
問題はどうすれば、エミリを連れて行く動機に繋がるかということ。
「そうよ。勘が鋭いのは悪いことじゃないわ。スタト村の時だって……」
そして、このフィーネの発言が僥倖。
エミリの両親に安全を示しつつ、娘を連れていく口実。
「その通り!流石フィーネ‼スタト村のことだよな、フィーネが言いたいのって!そうなんです。まだ、この辺は危ないんです。だから、お母様とお父様はスタト村に移り住むべきじゃないかな。俺は元村長の息子だから俺が一筆書けばなんとか……。でも、えっと……、エミリだっけ?君はお父様の復讐がしたいだろう?それにアルフレド理論だと、魔族をなんとかしないと結局危ない……的な?ほら、アルフレド!前に言ってたじゃん!」
目立ちたくない筈なのに、どう考えても浮いている。
両親には危ないから村へ行けと言い、娘には命は助かった父親の復習に燃えろと言う。
こいつは何がしたいんだと、自分自身でも分かっている。
(だって、仕方なくない?本当はご両親は死ぬ予定でしたとか言えないじゃん!エミリはついてこないといけないんだから!)
そんなレイの言葉に空気が固まった。
やっぱり故郷を捨てるって発想は駄目だったか、という考えが急に頭の中を駆け巡る。
だから彼は一度咳払いを挟んで、場の空気を窺った。
「え、えと……。俺、やっぱりおかしなことを……」
「いや、レイの発言が、かなりまともだったから、意表を突かれただけだ。ご夫妻についても俺は賛成だな。その……、エミリとは彼女のことか?魔族に対して動き出した俺に言える資格はないんだが、娘さんのことは分からない。フィーネはどう思う?」
よく分からないが、賛成された。
だが、この事実がレイに息を呑ませる。
この状況、本当は助からなかった人間が助かってしまったというのは、スタト村とよく似ている。
だからこそ、フィーネは何と言うのか。
「私もアルフレドと同じ。でも、決めるのは私たちじゃないわよね。私もそうした方がいいと思うけど。私たちは道中で、沢山のモンスターを倒してきたから、今は安全に移動できると思う。それにここがこれから先も安全かは疑わしいし。」
いや、その意見じゃない。
どうしてフィーネがついてきたのか、それが聞きたい。
つまり、もう一押し。
「確かにアルフレドとフィーネは沢山のモンスターを倒したよな。んでもよー。フィーネはどうして付いてきたんだ?フィーネも同じような状況だろ?」
エミリの父親はまだ目を覚ましていない。
だから決めるのは母親で、彼らは作中には登場しない。
このゲームの進行上、彼らがどう動いても差し支えない。
だから、問題はエミリに動き。
同じ女性としてのフィーネの動機を彼女に聞かせてみたい。
(勿論、知っているけど。フィーネが付いてきた理由はアルフレドと行動を共にしたいからだ。でも、それを素直に言う彼女ではない。フィーネルートはなかなかに繊細なんだが……)
そして、彼女はレイの予想通りの返答をした。
「私?私は魔族が許せないからよ。戦う為に決まってるじゃない。」
「そうか。そうだったな。」
感情をなかなか見せない彼女、アルフレドが村を出なければ、おそらくは村に留まったであろう彼女。
そんな彼女の言葉を聞き、エミリはどう判断するか。
盤上に情報を出した後の彼女の動きはレイの将来を決める動き。
冒険者に見守られる中で彼女は、母の元に駆け寄って彼女の肩を揺らした。
「お母さん、この方々の言う通りよ。お父さんも暫く安静にしなきゃいけないし、畑仕事も続けられるか分からない。本当なら私たちはここで死んでいた。せっかく助けて頂いた命ですもの。言う通りにしましょう?」
エミリの声に母の顔に生気が戻っていく。
二人がここで死ぬ運命だったのは間違いない。
「そ、そうね。それが一番よね」
だから、エミリが話しをすると母親はいとも容易く折れた。
レイはエミリについてきて欲しい。
だが、どうしてこんな回りくどい方法を取ったのか、それはヒロインの動向を知りたかったから。
(これでエミリが付いてくるかどうか。付いてきて貰わないと困る。……けど、来ない選択をしたとしても、俺にとっては収穫か。)
ということで、村長代理として手紙を書くことになったレイ。
そんな彼が最初にすることは、やはり部屋の物色だ。
さっきは鏡を探していたが、今探しているのは書類関係だったりする。
日本語で良いと思うが、もしかしたら特殊な文字の設定かもしれない。
彼にとっては初めてのゲーム内転生だ、だから書類を確認する必要があった。
(んー。でも、流石にか。)
ただ、書類の中身はレイの予想通りのものだった。
ところどころ英語が使われているが、所詮日本人が分かる程度の英語。
ターゲットのメインは間違いなく日本人だ。
レイは書類を見ながらそんなことを考えていた。
だから、突然声を掛けられて肩をビクッと跳ね上げる。
「レイ、また物色? ここはあんたの両親の家じゃないのよ。」
「あ、あぁ。そ、そうだった。悪い。」
声を掛けられてしまった。
だから彼はそそくさと窓際の机に座って、手紙を書き始めた。
(あの一件で目をつけられた?……いや、どっちみちレイモンドは目をつけられているのか。)
フィーネは行動を監視するつもりらしい。
「また物色?」と言われたが、彼に焦りはない。
先も述べたが、これはレイにとって良いことなのだ。
(まぁ、こっちの方が俺としても助かるか。ネクタであっさりと俺を捨ててくれよ)
レイは悪い顔でニヤリとした。
好感度を限りなくマイナスにすることで、気持ちよく確実に捨てられる。
フィーネに嫌われていれば、あのイベントは発生しない。
そして、世界は勝手に彼らが平和にしてくれるのだ。
——少なくとも彼はそう思っていた。
◇
少し前に遡る。
フィーネは逐一レイの行動を観察していた。
彼の行動はおかしな点が多過ぎるからだ。
そして、それらはアルフレドとも情報を共有していた。
だからレイが手紙を書きに行くと言って姿を消した後、彼女はいつものようにアルフレドに報告していた。
「レイって、絶対変よ。今の発言は私が知ってる彼のものじゃないわ。」
「やはり、俺が木刀で叩いたからかな。だけど、あいつの行動は間違っていない。なんともしっくりこないが、今はこれでいいんじゃないか?」
「そうだけど……。やっぱ気になるから、私聞いてくる!」
そう言って、フィーネはレイの後をつけることになった。
すると彼は、戸棚や引き出しを開け始めた。
下から順番に引き出しを開けていく行為など、まさに空き巣、まるで無駄がない。
本当にこんな奴とネクタの街まで同行しないといけないのかと思う。
本当に吐き気がしてくる。
彼のその行為は、彼を期待し始めていたフィーネを裏切る行為である。
——でも、それではあくまで今までの彼だったらの話。
だから、彼女は彼の一部始終を観察しようと思った。
(やっぱり空き巣行為。どういうこと?)
彼はその為にこの家に来たのだろうか、けれど彼が即座に行動をしたお陰で彼女の父親は一命を取り留めた。
突然変わったように思える性格も、全く意味が分からない。
本当に分からないことだらけだが、裏切られたことは事実だ。
だから正義感に燃える彼女は、動きを止めた彼に向かって声をかけた。
すると彼はとても悪い顔をして窓際の机に向かった。
「全く、油断も隙もあったもんじゃないわね。ちゃんとご夫妻に持って行って貰うんだから……」
そう言って、フィーネは引き出しを順番に閉めていく。
引き出しの中が荒らされているので、きちんと整理しながら、大切そうなものには手をつけないようにしながら片付けていく。
だが、一番下の引き出しを閉めた時、彼女は目を疑った。
彼の行動は全て見ていた筈だ。
最初は気付かれていなかった自信はある。
だから結局、彼は何も手をつけずに動きを止めた。
だから、金目のものがなかったのだと勝手に思っていた。
(え……、これって……)
だが、一番下の引き出しには明らかに金目のもの、というよりお金が入っていた。
つまり、彼は金目のものを探していた訳ではなかった。
(あの時の話……)
そこでフィーネはアルフレドが休憩中に話した内容を思い出していた。
その時、彼はこの国の所々にあると言われている奇妙なオブジェに夢中だった。
それを見計らってアルフレドが彼女に話をした。
「どうしてレイはここに休める場所があると知っていたんだろうか。」
「さぁ、お父さんに聞いてたんじゃない? 結構レイのお父さんって村の外に行ってたから。」
フィーネはアルフレドの疑問にそう答えた。
でも、フィーネは彼が父親の家で何か探し物をしているのを見ている。
もしかすると、あれはこの先の旅の情報を探していたのではないだろうか。
(じゃあ、これも?)
そんな疑問が彼女の中に浮かび上がった。
だから彼も今回、この先の情報を仕入れるために探し物をしていたのではないか。
動揺している母親から話を聞くのは酷だし、あの赤毛の少女が知っているとも思えない。
(いえ、そもそも彼は赤毛の少女のことを知っていた。名前も……)
だとしたら、フィーネはとんでもないことをしたことになる。
ありもしない彼の罪を村に言いふらしてしまった。
彼女はそれが真実だとして、知らんぷりするような性格ではない。
彼女はメインヒロインであり、美貌も正義感も強さも兼ね備えた少女なのだ。
だから彼女はレイに真実を聞こうと思い、背中を向けている彼のところまで歩いていった。
「ねぇ、レイ。貴方、一体……」
彼女が話しかけたから、レイは当然振り向く。
無論、悪びれた様子はない。
「どした、フィーネ。手紙に何か付け加えることある?なぁ、フィーネ。どうしたい?」
だが、彼の顔はとても
幾度となく迫ってきた、昔の彼を彷彿とさせるものだった。
見ただけで殴りたくなる顔に、フィーネは殴りたい気持ちを抑えるだけで精一杯だった。
「え、えっと、な、なんでもないわ。向こうで待ってるから!」
そして少女は全身の鳥肌を見せないようにしながら、急いでアルフレドの元に戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます