第20話

二羽のインコは二つのケージに入れられていた。引っ越しの日は、ケージではなく小さめの虫かごに分けて入ってもらって、近所なので歩いて移動する予定だった。季節は三月から四月になろうとしていた。これから五月まで、年間でもっとも発情が濃く強くなり、そのまま繁殖期に入って、無精卵を産んでしまうのがパターンだった。ただでさえ、インコのちいさな身体の中で不足しがちなカルシウムは、無精卵を産む行為で大量に消耗してしまうことになった。だから、無精卵を産まないように工夫する必要があった。点点は「私」の顔を見ると、全身ぶるぶる震えてるようになった。寒いのだろうかと保温しようとしたが、隣のケージのガサオは普通である。ネットで調べると、インコがぶるぶると震えるのは、気温が低いからではなく、愛する飼い主が近くにいるから、愛情表現だとある。インコは本当に寒い時は、羽根を空気で膨らませる膨羽になる。点点は、春になると発情し卵を産んだ。今年も産んだ。もう8-9歳、人間にして60歳前なのだから、ケージの片隅に卵を見つけるたびに、ひやっとした。

私は、ペットショップで「偽卵」を買った。点点は一日おきに卵を産み、それを取り出して、偽卵を代わりにケージに置いた。

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