②白うさぎと黒猫――⑧


 お腹いっぱいになった動物達は、身を寄せ合って眠ってしまいました。ヒスイも、ノアを両手に抱きしめて、イビキという名の寝息を立てています。寝相があまりよくないのか、仰向けの体勢で子羊の背中に乗っかって。


 お昼ご飯の後片付けを終えたアイは、一度だけヒスイの肩を揺らします。しかし、ヒスイが起きる前に、またもや視線を感じました。

 木陰の広がる太い幹の後ろ。小さな影は、やはりじっとこちらを見てきます。太い幹からちょこんと覗く白肌の手にも、白く長い耳にも、土や葉っぱがくっついているのが見えました。

 隠れている小さな誰かさんに近づいたアイは、腰を折り、食べきれなかった木の実を差し出しました。


「腹減ってねぇか? これ余っちまったヤツだから、食ってくれると助かるんだけど」


「……いただきます」


 礼儀はしっかりしているのか、小さな手を合わせてから木の実を受け取ったその男の子を、アイはようやく真正面から見ることができました。

 丈の長い白いブラウスと膝上までのショートパンツを履いたその姿は、一見すると人間の子どものよう。けれど、白銀色の髪からはみ出した長くて白い耳も、お尻の辺りに見えるまんまるな尻尾も、ウサギの特徴に見えます。恐らく人間とウサギの混血なのでしょう。


「名前は? オレはアイ。アオイ森に住んでる木こり」


「なまえ……はくあ」


 木の実を食べ終えたハクアは、これまた律儀に「ごちそうさまでした」と手を合わせました。とても、つまらなそうな顔で。

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