第60話 薬師育成25 研修本番 / 後半戦12 最終パート9 

トップランナー(最初の最終工程突入者)がスパート(と言うには長丁場の作業だが)に入っって、少しと言うには少し長めの時間が開いたが、作業開始から11時間半ほど経過したタイミングで次の研修生の(当帰投入の)準備が完了した。

やはり少しの間だけ交代して、諸々身支度をさせてあげて、この娘もラストスパートに突入していった。

長丁場なんだから、あまり気合を入れ過ぎるなよ。

途中でくじけるゾ。


そんな感じで、準備が完了した研修生に小休憩を取らせて、最後の合成に入らせる。

最後の8人目が、休憩を終えて、当帰を投入した頃には、実習開始から13時間弱の時間が過ぎようとしていた。


既に、研修生たちは疲労困憊の体ではあるが、まだまだ24時間近い時間が必要だ。

頑張れよ、俺も頑張る。


全員がスパートに入って約9時間が経過し様としていた。

実習開始からカウントすると22時間ほどだ。

その間、釜の火加減の指導や投射する魔力がブレ始めた者への指導などをちょっとした動きは有ったのだが大した事は無く、実習自体は順調と言って良い流れで展開しているのだが、聊か問題が発生したかも知れない。

そう、顔色が悪い研修生が居るのだ。

研修生全員の体調は、コアにモニターさせており、異常と言える程度に不良な状態であればこちらにも報告があるはずなので、そう言う事ではない。


となると、やはりアレだろう。


一応、そう言う事態にならない様に、最後の実習工程に入る際に、なるべく固形物の飲食は控えて、自宅でも支給の研修食(こちらで用意した消化・吸収されると固形物が殆ど胃や腸に残らない様に調整された食料)で我慢する様には伝えておいたのだが…

研修生は基本的に20才台から30才台にかけての比較的若い男女だ。

1月半もの間、研修食だけで我慢するなんてことは出来なかったんだろう。


一応、アレは味にもそれなりに配慮した自信作なので、そう不味くは無いはずでは

あるのだが、味覚と言う物には個人によって差が大きい部分である様であるし、そもそも研修生を受け入れる事になって、実習工程をくみ上げている段階で気が付いて急遽でっち上げた物なので、そんなに味のバリエーションは多く無いのだ。

一応、時間が無いなりに手に入り易いもの(シーズニング等)である程度味付けはしたのだが、それでも、チョコ味、チーズ味、バニラ味、胡麻味、メイプル味等々、準備できたのは10種類ほどで、栄養価自体は兎も角、消化後に固形物を極力残さないと言う条件では、喰い応えのあるものにはしようが無かったのだ。


そんな訳で、そうじゃないものを摂取して丸々1日以上経つとどうなるのかと言うと、生理的現象に悩まされる事になる訳で、心身共に正常な人として当たり前な欲求だけに何とも切ない話ではある。

だから言ったのにな。フゥ…


いよいよ顔色が悪く、体をもじもじくねくねさせる様になって、切羽詰まって来たようなので、彼女には非常な選択を強いる事になってしまった。

そう、今回の実習を諦めてトイレに駆け込むか、このまま垂らすか、である。


一応、説明させてもらえれば、どちらを選んでも実習自体の継続は可能である。

ただし、俺と交代してトイレに駆け込んだ場合、その間の釜の調整を俺がやる事になるので成績としてカウントできなくなる。

そう言う意味では薬の錬成に成功しても失敗しても、実習自体は失敗だ。


実習を継続してそのまま垂らす場合だが、一応、彼女たちが身に付けているのは、こう言う事態も想定して配布した高分子吸収体を内側に配置した使い捨ての実習用インナー、ぶちゃけて言ってしまえば高性能な薄型の大人用のおむつ類のはずで、エアフローを考慮して粗相しても周辺に匂いも漏れない様に実習机廻りに配慮もしてある。


当然だろう、妻にしても最後の合成工程を始めれば丸々24時間釜から離れられなくなるのだから。

色々と実体験に基づく想定済みなのだ。


そんな訳で、彼女自身に選択を委ねた訳だが、彼女は、仕事より自分の尊厳を選んだ様だ。

そんな訳で彼女と交代して釜の管理を行う。

一応、他の研修生の状態も確認したが、特に問題がありそうな者は居なさそうなので、安心して代役を務める事が出来る。

念のために釜の中の状態を確認しておくと…、ふむふむ。

この時間帯に出来ているものとしては悪く無い。

丁度、折り返し位の頃合いの熟成度間で、魔力投射による偏向も良い感じに効いて来ている。

これなら、成果は期待しても良いかも知れない。

ただし、製薬工程の連続した魔力投射に耐え得るか、と言う確認は失敗だ。

現時点では不可しか付け様がない。


さて、戻って来たようなので、このまま続けるか、中止するか確認しようか。


その後も恙なく実習は進んでいき、1日半近くが過ぎ様としていた。

実際に経過した時間で表現しようとすると、36時間近い時間が経過しようとしていた。実際にこちらで確認した限り、薬の熟成度合いは多少の相違はある様だが、概ね8~9割方終わっている感じだろう。

そろそろ最後の変性が生じても良い時間に差し掛かっている。


ヒールポーション系のポーションの場合、完全に熟成したタイミングで最後の変性が生じてポーションとして整う事になる。

同時にこれが生じないと何時間やっても失敗だ。

使った薬材なんかの影響で、全く役に立たない物になる事は殆ど無いが、ポーションとしての機序は期待できない。

多分、漢方薬っぽい何かになるのだろう。

ただし、服用は厳禁だ。不妊性がある。

まぁ、諸々撒き散らしたい男にとっては都合の良いクスリなのかも知れないが。


最終合成開始(当帰投入)から25時間、実習開始から37時間余りが経過した頃、遂にその時が来た。

とは言え来たのは失格になった娘の釜だ。

どうやら、俺が交代で錬成した事が思いの他効いたらしい。

クスリの錬成自体は成功した。

ただし、ノーカウント。ご当人にもスキルは生えなかった、と言う結果になった。


その後トータルで41時間が経過するまで粘ったのだが、最終変性は生じないと判断して、今回の研修は終了する事となった。

ノーコンテスト1件、十分に熟成できず失敗と判断された事例が5件、変性は生じたのだがポーションとしては品質が低すぎて失敗と判定された事例が1件、変性が生じポーションとしては品質がギリギリ合格と判定された事例が1件と言う結果になった。

また、薬師スキルが生えた者は居なかった。


こんな感じで、再開した合成実習の1回目は終了したのだった。


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こんなヨタ話のネタを信じて使う人は居ないと思いますが、この小説で記述する処方はいい加減です。何となくホントっぽく書いている心算ですが絶対真似しないでね。

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