第57話 碩人(荘姜夫人はよいおひと)

荘姜そうきょう夫人ふじんは よいおひと

にしき生絹すずしの お召し物

齊侯せいこうの子で 衛侯えいこうの妻

東宮の 妹にして

邢侯けいこうの 奥方さまの ご姉妹で

譚公たんこうともまた ご血縁


お手手は 柔きつばなのようで

お肌は 凝れる脂のようで

うなじは まるで木くい虫

その歯は まるで瓜のたね

蝉のひたいに 蛾のまゆげ

浮かぶ笑くぼが 愛らしく

ひとみは黒く うつくしい


荘姜そうきょう夫人ふじんは よいおひと

お馬車を停めて 一休み

お馬はどれも ご立派で

赤い飾りが よく似合う

きじおおいの おくるまが

到着します 大夫たいふたち

殿を離してやりなさい


河はまんまん 水たたえ

北にざあざあ 流れゆく

網をざんぶと 投げ入れりゃ

こいしびやが ぴちぴち跳ねて

おぎあしやは すくすく伸びる

供のむすめは 麗しく

供のおのこは 逞しい


【もとの詩】

碩人其頎 衣錦褧衣 

齊侯之子 衛侯之妻

東宮之妹 邢侯之姨 譚公維私


手如柔荑 膚如凝脂

領如蝤蠐 齒如瓠犀 螓首蛾眉

巧笑倩兮 美目盼兮


碩人敖敖 說于農郊

四牡有驕 朱幩鑣鑣 翟茀以朝

大夫夙退 無使君勞


河水洋洋 北流活活

施罛濊濊 鱣鮪發發 葭菼揭揭

庶姜孽孽 庶士有朅


【ひとこと】

 古注曰く「壮侯の夫人を讃える詩だが、暗に蔑ろにする壮侯を批判するもの」なんだとか。いいですねぇそういうの、好きです。詩経のユーモアって英国とか京都とかそういう感じだよね。

 想像だけどさ、輿入れして半年後とかにこの歌が流行するんですよね?「平民にとっての娯楽は少ないもんで半年前なんて昨日今日みたいなもんですわ〜」みたいな顔してさ「壮侯ってばその昨日今日嫁いできた嫁さんにもう飽きたんだとよ」「あらやだ、別嬪だって話だったのに」「夫人も可哀想に」「ホントホント」「あのお輿入れにいったいどれだけ費用かけたんだ。あんなに人連れてきて。食いもんだって必要になるのに」「次の嫁が欲しいなんてなったらなんてたまったもんじゃねーぞ」みたいな心を載せて「ないわ〜マジで☆」を婉曲表現するとこうなりますよね、わかる。でもって事あるごとにこの歌が再流行するんですよね、わかる。

 えっ? やだなぁ、古注が言い出したことですよ? そりゃ夫人を褒め称える結婚式の歌だと言われたらそう読みますって、ハハハ。


 ……ところでこの詩、私が読みなおす必要あります? 手元の書き下しが優秀でね、元の詩も隙がないっていうか……こういうのは書いててまるでテンションが上がらない……遊びの余地が欲しい……つらい。

 読む分には楽しいですね! なるほど長恨歌はこれを踏まえていたんですね〜。虫に例えるのは正直褒めてるんだが貶してるんだが分からないんだけど、ここは素直に絶賛してるらしいです。そういう語彙(?)いい回し(?)は手元にいくらでも欲しいですね。

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