第16話 首無騎士の過去&公爵の怒り

 俺は、首無騎士デュラハンの記憶をのぞいている。

 この光景は、たぶん過去のダンジョン。やっぱり、あいつは冒険者だったのか。


 目の前に、4人の冒険者が現れた。


「お~い」

 俺は4人の冒険者に声をかけた。しかし、聞こえた様子はない。過去には干渉できない。考えれば当たり前か。


 先頭を行くのが、おそらく首無騎士デュラハンの前世だろう。銀色の鎧に合わせた鉄仮面を被っている。冒険者たちは、次々と現れる怪物たちを駆逐くちくしていった。


 正統派タイプの戦い方だ。戦士と武闘家が前線で肉弾戦を行い、ヘイトを買いつつ、後方の魔術師がまとめてなぎ払う。僧侶プリーストは、前線のふたりを補助魔力と回復魔力で助けていた。


「そろそろだな。みんな、この階にいるドラゴンを倒せば、俺たちは英雄になれる」

 鎧武者は、パーティーみんなを鼓舞して進んでいく。

 

 そして、通路を進むと、巨大なフロアに到達した。そのフロアは、地下深くのダンジョンのはずなのに、太陽光が差し込んでいる。おそらく地上と直接つながっている中抜けがあるんだな。


「どこにいるのよ」

 女魔術師は、叫ぶ。ここにいるはずのドラゴンがいない。冒険者たちは周囲を見回している。異様な数の骨の塊が転がっている。


「上だっ!!」

 武闘家が叫んだ。

 虚を突かれた冒険者たちはすぐに体勢を立て直そうと、動き始めた瞬間。赤い巨竜は、無慈悲に攻撃を始めていた。


「きゃぁぁぁぁあ」

 女僧侶の甲高かんだかい悲鳴が聞こえる。ドラゴンの爪によって、彼女は切り裂かれていた。彼らの作戦は、ドラゴンの奇襲によって、完全に狂ってしまう。本来であれば、戦士と武闘家が前に出て、魔術師が切り札、僧侶がパーティーの崩壊を防ぐ役割を担うはずだった。一番重要な僧侶が最初に狙い撃ちされたせいで、彼らは全滅に向かっていく。


 武闘家がすぐさま薬草で彼女の救命処置を始めようとするが……

 


「ダメだ。あいつ、爪に猛毒を仕組んでやがる。解毒が間に合わないっ……」

 僧侶は苦しそうに呼吸し、何度も痙攣けいれんを繰り返し動かなくなる。

 

 絶望に染まった武闘家の怒声が響き渡る。そして、巨竜に突撃した。


「ちくしょう、ちくしょう」

 無計画に突撃してしまった彼に対して火炎の息吹が待っていた。

 激高ゆえに僧侶による補助魔力もなく、魔術師による援護射撃も用意できていない段階での突撃は完全に自殺行為。


 武闘家は、炎の中をもがき苦しみ、膝から崩れ落ちる。


「ボールス、逃げてっ!」

 女魔術師の声が聞こえた。彼女は、いくつもの魔力攻撃を行いドラゴンのヘイトを買っていた。複数の魔力を同時に制御していることからも、相当な使い手のようだな。彼女の攻撃は少なからずドラゴンにダメージを与えていた。


「何を言っているんだ。逃げるなら、お前も……」


「ダメよ。このドラゴンはとても頭がいい。回復と補助を担うルーナが一番最初にやられたのがその証拠。誰かが、最後まで残らないと、絶対に逃がしてくれない」


「なら、俺が……」

 魔術師は優しい笑顔で首を横に振った。


「それもダメ。一人でこのダンジョンを抜ける可能性が高いのは、私じゃなくてあなたのほうよ。体力もなく近接戦もできない私は、ひとりではいつか魔力が尽きてしまうもの……」


「そんな……」


「仕方がないわ。2人が殺されてしまった以上、せめて全滅だけは避けるのが最善手。可能性が一番高いあなたに託す。ごめんなさい、すべてを背負わせてしまって……」


 説得されてデュラハンは、フロアを駆け戻っていく。

 それを見送りながら、魔術師はつぶやいた。


「ごめんなさい、最期の別れの時に、こんな冷たい理屈しか言えない女で……言わなきゃいけなかった言葉をずっと心にしまった勇気のない女で……愛してるわ、ボールス」


 最後に涙をためたまま笑う魔術師は爆炎に包まれて消えた……。


 ※


 その後、デュラハンはずっと走り続けていた。必ず生き残るために。

 階段を登り、少しずつ地上に近づいていく。

 仲間たちが作ってくれた最後の時間を紡ぐために……


「魔物か?」

 彼に突然、言葉が投げかれる。


「人間だ」

 彼は短く答えて、警戒を怠らない。


「俺たちは、イブグランド王国の近衛騎士団だ。敵意はない。ん、まさか、あなたはボールス殿ではないか。あなたたちは、我が国の依頼でドラゴン討伐に向かったはず。他の方はいかがなさったのですか? まさか、A級冒険者パーティーのはずのあなたちが……」


「そうだ、俺を残して全滅した」


「なんとっ……それは厄介だ。ひとりだけ生き残ってしまったんですね。かわいそうに」

 騎士団のひとりがそう言って、戦士に近づくと、鎧の接手の狭間から彼の左足をナイフで突き刺していた。本来であれば避けることはできたはずだ。だが、完全な油断が生まれていた。


「なんだとっ……」

 デュラハンは、そのまま崩れ落ちる。


「申し訳ございません。ボールス殿、あなたが一人だけ生き残るのは、我々にとって不都合な真実なのですよ」

 騎士は邪悪な笑顔で笑った。


 ※


―王都(ソフィー視点)―


「どういうことだ、なぜ公爵家は、婚約破棄などと……」

 お父様は、私の胸倉をつかみそうな勢いで、私に詰め寄った。すでに、先方からすべて連絡を受けているはずなのに……


「私がグレアを裏切ったからです。具体的な内容は、お父様だってもうご存知でしょう?」


「ああ、知っている。だが、この莫大ばくだいな慰謝料をどうするつもりだ? 公爵家との婚約は、我らブーラン貴族の悲願だったのだぞ」


「屋敷でも領土でも何でも売ればいいでしょうっ。私のことを政略結婚の道具にしか見ていなかったくせに。大丈夫です、私は王太子殿下と幸せになりますから」


「そんな夢見がちなバカなことをっ。誇り高きイブグランド王国の伯爵令嬢が、王族のめかけになるつもりか。ばかげている。お前はもっと優秀だと思っていたんだがな。どうせ遊ばれて、数多くいる側室のひとりになるだけだぞ。そんなこともわからんのか」

 売り言葉に買い言葉。


「私は殿下を信じています」

 昨夜のことを思い出しながら、私は父上に初めて反抗した。


「出ていけ。賠償金とお前に対する手切れ金くらいは払ってやる。だが、もう金輪際こんりんざい、お前と私は関係ない」

 親子の縁はこうして切れてしまった。でも、大丈夫。私には殿下がいるから。


「わかりました」

 私が毅然に返すと、父上は少しだけ親の顔に戻った。


「最後に教えてやる。さきほど、ミザイル公爵の辞任が発表された。表向きは愛する後継者を失ったことによる心労だが……お前たちの浅はかな行為の結果だ。彼は農務卿として、この国の食料政策の根幹を担っていた。公爵は小国の王に匹敵する権力と軍事力を持っているんだ。その彼が、政権から離脱を表明した。この意味が分かるか。大なり小なり、今回の農務卿辞任劇は、この国を混乱に導く。お前の不用意な行為のせいだ。この因果はいつかお前に牙をむくぞ。お前の罪は決して消えない」


――――――――


モラン=ミザイル(公爵・農務卿)

→グレアの父親。優秀な官僚タイプの貴族であり、武断派が多いイブグランド王国においては貴重な文吏派の調整型。国内情勢において常に緊張感が走っている王国において、貴重な人材である。理知的な穏健派。

(能力)左:現在/右:ポテンシャル

政治:91/93

武力:45/51

統率:70/71

魔力:38/40

知略:86/86

魅力:80

義理:89


(適正)

歩兵:C

騎兵:D

弓兵:C

魔兵:D

内政:S

外政:A

謀略:B

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