五十階攻略に向けて
『神器』に大量の硬貨を投入して開始ボタンを押す。
すると、神器の上部、平らになった部分に一つのアイテムが現れ、代わりに輝く文字で表示された残り金額が減少する。
「……うん、ガチャをやってる気分」
「これは精神上よくありませんね。射幸心を煽るにも程があります」
レンと一緒であれば入室を許されているシオンが子狐の姿でレンの頭に座りつつ息を吐いた。
「やはり、他の方から購入する方が良いのでは?」
「かな、やっぱり」
今日は神器を使ったマジックアイテム生成に挑戦しようとやってきた。
フーリの転生石を買うのに使ったお金は既に稼ぎ終え、またお金が余るようになってきていたため、今度は装備を良くしようと思ったのだ。
余裕があれば一度やってみたかったのがこのランダム生成。
一定額を消費することで効果も形状もバラバラのマジックアイテムを生み出すというまさに博打なのだが、これを用いることでしか手に入らないアイテムもある。うまくすれば街の付与魔法使いでは到達できないような性能の品を安く手に入れられるのだが、言うまでもなく結果は運次第。
「わたしたちだとその場で鑑定もできないしね」
要らないアイテムが出たら別の神器に突っ込んでお金に替えることができるのだが、レンもシオンも鑑定スキルを持っていない。
フーリが一応持っているもののここには入れないし、盗賊としての最低限であって商人系の本格的なスキルには劣っている。
生成物を持って鑑定してもらいに行って、また戻ってきて換金、はちょっと面倒くさい。
「結果的に割高になってしまうかもしれませんが、出来合いの品を購入する、あるいはオーダーメイドを行う方が安心確実です」
「さすが、シオンはしっかりしてるなあ」
レンは残った金額を再び硬貨として取り出すと、生成したアイテムと一緒にストレージに入れた。
ちなみに出てきたのは
「全員分をオーダーメイドするならまだまだお金を貯めないとなあ」
「先は長いですね」
五十階攻略に向けた準備はなかなかに大変そうである。
◇ ◇ ◇
五十階までは攻略する。
そう決めたレンたちは四十一階以降の探索をひとまず後回しにしてレベル上げや資金調達に精を出すことにした。
基本は二十五階でアラーム戦法だが、そればかりだと飽きてくるので他の階のマップ作製やまだ見つかっていない仕様がないかの調査をしたり、菓子職人に頼まれてカカオの収集などもしている。
第一はもちろんレベルアップ。
ただ、資金調達も重要だし、後続が攻略しやすくなるようにするのも必要なことだ。街の資源が豊かになればそれだけみんなの生活も潤う。結局のところすべてのことがなにかしら今後に繋がっていくのである。
かつてはラスボス戦だと思われていた五十階の戦いは厳しい。
難関へ挑むにあたって先人たちはどんな準備をしたのか。賢者やアイリスの母から紹介してもらって何人かに話を聞いたりもした。
人間種族はスキル数でゴリ押すことができないため、基本は「レベルを上げて基礎スペックでゴリ押す」か「人海戦術で敵に対抗する」かの二択、というか両方を並行して試みていたらしい。
山などの広いフィールドなら二パーティ以上での合同攻略もしやすいし、四十階のような長いダンジョンでは複数パーティが交代で敵を食い止めては残りが休む、などといったこともできる。
単純に時間をかけて準備すればそれだけレベルも上がる(人間はステータスに補正がかかるためかなり重要)し、ポーション類を大量に準備しておけば出し惜しみせず火力を発揮できる。
ボス戦でまで収入を気にしていたレンたちが異常というか、下手したら様子見や調査の段階から大赤字が前提、それを補填するために何度もダンジョンへ潜ってお金を稼いで、を繰り返すのがデフォルトらしい。
それはなかなか先へ進めないわけである。
もちろん、レンたちとしても他人事ではない。ここからはさすがに先人たちを見習っていかなければならない。
レンたちの場合、他のパーティと組もうとするといろいろ不都合もある(レンがいるだけで男性陣を誘惑してしまうとか、ミーティアと言葉が通じないとか)ので共闘路線は保留にするにせよ、レベルアップと消耗品の充実、それから装備のバージョンアップは必要だった。
一線級の武器や防具は本当に強力らしいので、そういうのを一つでも手に入れられれば世界ががらっと変わる。
「わたしたちは使う武器が偏ってるけど、メイならだいたいなんでも使えるよね」
「お任せください。特定の武器が必要なスキルは今のところ保留にしてあります」
メイは怪力を乗せやすく扱いに技術が要らないという意味でメイスを愛用しているものの、別に鈍器しか使えないわけではない。
クラスレベルが解放されたことで、スキルを習得すれば技術を補えるようになったため、剣や槍、斧などに持ち帰るのもアリになった。
他のメンバーは武器なし(レン、シオン)、短剣(フーリ)、短剣に加えて弓(アイリス、ミーティア)と得意武器が決まっているため、なにかしら掘り出し物の武器が手に入ったらメイに使ってもらえばいい。剣使いとかだと新しい武器も剣になってしまうのでこのあたりは利点だ。
「そういえば、メイのクラスってなんなんだっけ?」
「戦士です」
ド直球だった。
「私は基本『まっすぐ行ってぶっ飛ばす』しかしていませんでしたので、他のクラスになりようがありませんでした。まあ、母が『兵器使い』などという物騒なクラスを持っていますので、いずれ転職を頼んでも良いかもしれませんね」
戦士のスキルをひととおり取ってからでも遅くはない。
メイの母の「兵器使い」とやらは兵器がないと力を発揮しない。その兵器はゴーレムのスキルで作成するしかなく、運用も基本的にゴーレムでないとできない。種族レベルの解放が比較的最近のメイだとまだ活用しきれないし、兵器の種類によっては戦士の戦い方も役に立つ。
「ミーちゃんは戦法も装備も固まってるから楽でいいよねー」
「ええ。生半可な品じゃ今の装備の足元にも及ばないし、特に困ってもいないわ。私は精霊魔法と弓の修行を重視するべきでしょうね」
既に長年修行してきているのでそうそう劇的な変化はないだろうが、幸い近くにアイリスの母がいる。彼女に教わったり対抗する相手として意識することでさらなるパワーアップが狙えそうだ。
「私は弓の技をさらに磨けるようになったので、魔法を使わなくても威力を出せるようになりたいです」
アイリスのクラスは弓使い。
連射や長距離射撃などをサポートしてくれるので今まで以上の活躍が期待できる。
「アイリスとミーティアのために上質な矢も準備しておきたいね」
「そうですね。消耗品なので申し訳ないんですけど……」
「ポーションは買うんだし、矢だって同じだよ」
普段は普通の矢を使い、いざという場面では高い矢を使えばいい。
レベル上げや資金調達で行く階の敵相手なら精霊魔法だけでも戦えるため、節約した分の費用を矢のグレードアップに使う、という考え方でもいい。
「レンさまとフーリさまはどうなさいますか?」
「うーん、わたしは魔法の威力を上げようとすると装飾品系になっちゃうからなあ。かなり高くつくし、防御系の装備優先かな」
「私も無理に装備更新しなくてもいいんだよね。精霊になってれば防御力上がるし。その状態だと短剣も使えないし」
「あなたたちは本当になんというか……チート、と言うんだったかしら?」
レンは常時MPポーションを使用しているようなものだし、フーリはスキルを充実させることで物理攻撃をほぼ無効化できる。
ただ、お金がかからないという点ではある意味さらなる上手がいて、
「わたくしも防御用のアイテムがあれば、といった程度でしょうか……。妖狐の姿の方が便利ですし、この身体ですと大抵の装備ができませんので」
子狐モードなら敵の攻撃もそうそう当たらない。
誰かに抱いてもらったり頭の上に陣取ったり、空中を足場にして狐火を連発するシオンも負けず劣らずの強者である。
なんというか、思ったよりも必要な装備は限られそうだ。もちろん、できる限り集めていくつもりではあるものの、
「じゃ、最優先はメイちゃんの武器ってことでいいかな?」
「異議なし」
マジックアイテムを手に入れるにはガチャ(神器)以外だと市場をこまめにチェックするかオーダーメイドするくらいしかない。
レンたちの防御系装飾アイテムについては付与魔法使いに頼むとして、メイの武器はそれ専用の積み立てをしつつ掘り出し物が出てくるのを待つことにした。
◇ ◇ ◇
アイリスの母はあの後、本当に二人の娘たちを連れてダンジョンに潜り始めたらしい。
女子ばかりとはいえアイリスの母は経験者。その彼女から教えを受けていたアイリスがあれだけの腕だったのだから、妹たちだって十分強いに決まっている。
ゴブリン程度なら一蹴できる程度の強さはあるので、娘たちにダンジョンの心得を教えながらゆっくりと進むつもりだという。
「お陰で最近、家に誰もいない日が増えて寂しいんだ」
とは、木こりであるアイリスの父親の談。
彼には木を切り、森の資源を管理するという重要な役割がある。自分もダンジョンへ行く、などとは言えないし、なによりそこまで無理のきく年齢でもない。
妻や娘たちの手伝いが減ったこともあって仕事に精を出すしかないのだが、愚痴を言うのはさすがに我慢できないらしい。
「だからアイリスやシオンちゃんを連れてもっと遊びに来て欲しい。アイリスやシオンちゃんを連れて」
冗談めかして「わたしじゃだめですか?」と尋ねると真面目な顔で「君と二人きりだと間違いが起きるかもしれないから」と言われた。
「わたしの魅了、そんなに強いですか?」
「スキルの問題なのかどうか……。そもそも、君自身があまりにも魅力的すぎる」
「そこまでですか」
あらためて自分の身体を見下ろしながら無意識に胸を抱きしめるようにすると「そういうところだよ」と言われた。
アイリスの父を元気づけるためにクリアを目指しているのに一人ぼっちで寂しがらせるのも本末転倒だし、森の管理が滞っても困るので、レンは言われた通り暇な日にはなるべく森へ通うようにした。
半々くらいの確率でミーティアもついてくるし、フーリも転生してから自然が恋しくなるようになったらしくちょくちょくついてきてくれる。
シオンやアイリスが来るようになるとアイリスの妹たちはそれ目当てで家にいる時間が増え、結果、アイリスの父の寂しさ解消はうまく達成された。
「レンさん、そのうち追いつきますから楽しみにしててくださいね?」
「お姉ちゃんたちと冒険するの楽しみです!」
それはそれとして妹たちはダンジョン攻略もやる気満々である。
アイリスに比べると楽観的な感じなのが気になるが、逆に言うとこれくらい気負わない方がマイペースに進められていいかもしれない。母親が一緒なら無理しすぎることもないだろうし、いつか追いついてきてくれたらそれはそれで嬉しい。
「妹といえば、私の妹もダンジョンへ挑戦することにしたようです」
アイリスの実家へ通うようになってしばらく、メイがそんなことを報告してきた。
メイの母は定期的に子供を作っており、メイの下にも何人か妹がいる。レンはなんだかんだまだ会ったことはないのだが、ゴーレムは肉体的にも精神的にも特殊なため、メイを見ていれば「だいたいこんな感じなんだろうな」と思える。
精神的な成熟も早いだろうから若くしてダンジョンへ挑戦するのもそれほど不思議ではなかった。
「へえ。誰か一緒に行ってくれるパーティ見つけたのかな」
「いえ。どうしようかと相談されまして、どうしようかと思っているところです」
「そっか。わたしたちが付き合ってもいいけど、ずっとっていうのは難しいかもしれないしなあ……」
いっそのことアイリスの妹たちと組んでもらうのがいいかもしれない。
なんだか賢者の思惑通りに進んでいる気がして若干癪ではあったものの、レンはメイの妹とアイリスの妹たちを引き合わせることにした。
初めて会うメイ以外のゴーレムはと言うと、
「初めまして、レン様。姉様がいつもお世話になっております」
メイと同じ銀髪をした可憐な少女は丁寧な挨拶と共にお辞儀をし、にっこり微笑む代わりに軽く目を細めて親愛を示してみせてくれた。
「姉様がご迷惑をおかけしてはいないでしょうか。たまに帰っていらしても自分の武勇伝を語るばかりで半信半疑だったのですが」
「メイ? なんだかものすごくまともな子なんだけど、別のところの子だったりしない?」
「失礼な。ご主人様は私をなんだと思っているのですか」
ちょっとお茶目な天然系メイドゴーレムである。
むむむ、と視線を交わしあう二人を見たメイの妹はくすりと笑って、
「仲がよろしいのですね。……レン様のような素敵なご主人様を私もいつか見つけたいものです」
ゴーレム全員が無表情系毒舌娘ではないことが期せずして発覚した。
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