第44話 教皇と
やっぱりこうなったか。
「リヒト殿! やってくれたな…まさか、これが目当てだったのか」
通信水晶が強く光り出て見たらこれだ。
そろそろ、連絡する必要も無いし…これ返そうかな。
「メルカリオ教皇様…お久しぶりです」
大体要件は解っている。
フリージアの事だろうな…
「久しぶりではない。何が目的なのだ…元勇者に聖女まで引き入れて…」
「別に何も魂胆なんてありませんよ。あれはこれからの人生、戦いとは無縁の怠惰な人生を送ろうと思っています」
「元勇者パーティで、そこ迄の人材を持っていて、何もしないと言うのですか? 今も魔族による被害が起きているのですよ」
これは恐らく…嘘だ。
魔王は魔王城から出てこないし、強い魔族は滅多に魔族領から出てこない。
だが、こちらから攻めるから向こうも攻めてくる。
俺はそう考えている。
それに大きな『戦争』をしていない。
前の世界で戦争なんてしたら、国が大変な事になっている。
だが、この世界はどうだ。
勇者パーティが命がけで戦っているのに…
商人は普通に店を開けて商売しているし、酒場や娼館も普通に営業している。
そして貴族は舞踏会を開き、王は玉座から動かない。
『頭が可笑しい』
『大体、本当に魔族と戦争するなら、幾ら『超人』のように強いとはいえたった4人の勇者パーティより、万単位の軍勢で戦う筈だ』
本当の所は解らないが前世持ちの俺からしたら『本気で戦争なんてしてない』そう思えてならない。
「賢明なる教皇様ならご存じかと思いますが、魔族以上に『病気や怪我』で亡くなる人間が多い…ですから私は聖女フリージアと共に『救世』の旅に参加します」
「ですが、リヒト殿、貴方とフリージア殿、そしてレイラ殿が」
俺は話を遮るように話した。
「教皇様、レイラは前の戦いの時に、その責任を取らされ『犯罪奴隷』にされていました。 俺だって円満とはいえ、勇者カイトからクビを言い渡された人間です。嫌な言い方ですみませんが『要らない』そう判断された人間なのです。もし、俺達が教皇様の言うような有能な人間だと言うのなら、教皇様は俺達を斬り捨てた人間を罰してくれますか?」
「それは…」
流石に出来ないよな。
俺をクビにしたのは『勇者』だ。
レイラに責任を取らせたのは『王族』や『貴族だ』
「そうですね、私達二人がされた事を教皇様が、やった人間にして頂けるなら考えますが…」
出来ないよな。
勇者をクビにして王族や貴族を奴隷に落とす等…無理だ。
「それは流石にできません…」
これで良い。
「だったら、このままにするしか無いでしょうね。リヒトは使えない人間、レイラは犯罪奴隷。それを決めた人間を処罰できないなら『それが正しい』それで通すしかないでしょう? フリージアの『救世』は教皇様が許可したのでしょう?俺達は『皆が決めた』なかで楽しく暮そうとしている…それだけです」
「ですが、実際に貴方は有能ではないですか、15歳とは思えぬ発想をし、現に、元勇者と聖女を手にしている。 単純な戦力なら、勇者パーティに次ぐ力を持っています」
「買いかぶり過ぎですよ…所詮は『皆が』無能とみなし捨てられた人間です。まぁフリージアは違いますが…よく考えれば、もう勇者パーティを追放されて結構な時間が経ちました。私の様な物が教皇様や王様と話せる通信水晶を持っているのも可笑しな物です…冒険者ギルドから返却させて頂きます」
俺は『追放』は救いだと思っている。
『勇者が使えない』そう判断したと堂々と言える。
戦いたいとか手柄を立てたい者は別だが、戦闘に参加しない者にはある意味『免罪符』だ。
それにレイラは正式な裁判で『犯罪奴隷』になっている。
その際に『手足の事』も書類に記載がある。
『おかげさまで堂々と戦えない』
そう言える。
「いや、通信水晶は、聖女フリージアと共に居るなら、そのままお持ち下さい。ですが…経緯は兎も角、実際のリヒト殿は戦えるし、レイラも手足は治っている…そう聞いております…それなのに立ち上がってはくれないのですか」
しつこいな。
「教皇様、私が有能でレイラが戦えるというのなら『勇者カイトの目は曇っていた』『国王ガルア4世を含むレイラの裁判に関わった者は戦える元勇者を奴隷落ちさせた』それを公言して貰えるのでしょうか?教皇様が言われている事は、その2つを認めるという意味です。もし、どうしても戦闘に出ろと言うのなら、手柄を立てる度に堂々とそれを言いますが宜しいのですか?」
これで困るだろう。
「それは…困ります」
「でしょう? 良いですか? 私達は表舞台に立ちたくありません。皆で、面白可笑しく生きるつもりです。怠惰に自堕落な生活を楽しむつもりです。活躍しなければ『前の二つ』の立証は出来ません。だから極力放って置いて貰えませんか」
ここまで言っても諦めないなら…
帝国から先に行くしかないな。
「解りました…今は一旦諦めます」
「そうですか…それでは失礼します」
これで、聖教国行きは無いな。
通り過ぎて帝国に行くか。
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