第31話 愛しのリヒト 聖女SIDE




私は気がついてしまったわ。


私は『聖女』それだけしか価値が無い事に。


今の私は…多分、幸せじゃない。


『私の夢は綺麗な美少年と恋愛して結婚、幸せに暮らす事だった筈』


カイトは勇者で…そこそこ、カッコ良い。


小さい頃から一緒に育ち、性格も知っていた。


近隣では一番の美男子。


その彼女である事が誇らしかったわね。


カイトは勇者で私は聖女…まさに理想の恋人同士。


他に邪魔なのが2人いるけど、これはカイトが勇者だから仕方が無い。


だが…違っていたの。


勇者は王女との縁談や貴族を娶る事も出来る。


そして…私は『カイトの側室』以外にも道がある事を知った。


そこからが、滅茶苦茶だったわ。


カイトは夜遊びをする様になり、遅れて私達も夜遊びをする様になったわ。


その世界はまるで夢のようで『美少年の体とお酒』が自由にできる世界だった。


私達三職にこれがあるのだから、勇者のカイトにもきっと同じような施設がある。


多分間違い無い筈…鼻を衝く香水の臭いがその証拠。


でもこれはお互い様だわね。


高級なお酒に沢山の美少年。


好みのタイプの男性を伝えれば『すぐに、好みの男性を用意してくれる』夢の様な世界。


『カイトに全てをいつかは捧げよう』そう思っていたのは過去の話。


今となっては『最後の一線』を捧げなくて良かったとさえ思っているわ。


カイトには幾ら『尽くしても見返りは少ない』それにカイトとのSEXには愛が感じられない。


だけど、此処の美少年は、私を誰よりも大切にしてくれる。


「聖女様はいつ見ても綺麗ですね」


「聖女様愛しています」


「聖女様を抱けるなんて俺、幸せです」


僅かな期間で沢山の男性と夜を共にしたわ。


それで解ってしまったのよ。


『この中にも本当の私を愛している存在は居ない』


という事に…あははは本当に馬鹿。


誰も私なんて愛して無い。


カイトは『聖女だから』『戦闘力が必要だから』


その二つ。


他の周りの男全部も『私なんか愛していない』


『聖女』それだけの価値で私を抱いているだけの男。


何処にも、1人の女としての私『フリージア』を愛している存在は居ないの。


確かに私好みのイケメンばかり、貴族の子息に見える男や王子様タイプの男もいる。


SEXは気持ち良いし、お酒も美味い…だけど虚しい。


結局、カイトには戦力として、他の男には『聖女様』。


だから付き合っている…それだけの存在が私なのよ。


それが解り始めたら…もう駄目。


今迄イケメンだと思った男たちが『にへら笑いする気持ち悪い男』にしか思えなくなったの。


お酒だって美味しくない。


カイトはそれ以上にクズ。


お互いに戦力と性欲のはけ口…今思えばそういう関係に過ぎなかったのよ。


「ねぇ、今日も行くよね?」


「今日もイケメンが私達を待っている!行こうぜ」


「ごめん…私は行かない…」


「どうしたの?フリージア?体調が悪いの?」


「どうした、平気か?」


「うん、私、今日お腹が痛いからゴメンね…」


「あっごめん」


「あの日か?」


「私は良いから、二人で楽しんできて」


「そう、それじゃ行ってくる」


「悪いね」


この二人も親友では無かったのかも知れない。


いや『親友で無くなった』んだ。


所詮女の友情なんて、そんな物。


男が絡めばそれで終わり…


『寂しいな』


『凄く寂しいい』


私が欲しいのは美少年との溺れた関係じゃ無かった。


ただ一人で良い『フリージア』を愛してくれる男。


SEXに溺れた…だけど、あれは多分本当のSEXじゃないと思う。


私が欲しいSEX、それは『本当に愛のあるSEX』


自分を愛してくれる男との燃えるような恋愛。


その末の行為のSEX。


だけど…此処にそれは無い。


フリージアでなく彼らが欲しいのは『聖女』だから、私に対して本物の愛は無い。


ミルカとリダが羨ましい。


彼女達は『偽物のSEX』と『本物のSEX』その差がきっと解らない。


きっと生涯それに気がつかないでいられると思う。


私は『本物』を知らない癖に『今のSEXが偽物だと解ってしまった』


本当の私を愛した人なんて何処にも居ない。


私から聖女を取ったら…誰も私を愛してなんてくれない。


「あははははははははっ、本当の私は寂しい女…誰にも愛されないただの村娘…聖女じゃなくちゃ…意味の無い女なのよ」


寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ寂しいよ


本当の私を誰も知らない。


本当は寂しい…1人ボッチの村娘…


『誰かに本当に愛されたい』 


涙が…止まらなくなる


「うっうっ…」


あれっ…今…頭に誰が浮かんだの?


1人居たじゃない?


リヒトの前で確かに私は『聖女』だったけど…リヒトは私に何も求めて来なかった。


いつも、私の事を考えてくれて…何時も尽くしてくれた。


私が病気の時には看病もしてくれたし『自分の女でもない』のに髪を梳かしてくれたり、お世話してくれた。


どうしようも無いお人よしの馬鹿な幼馴染。


食事だって、いつも美味しい物を作ってくれたじゃない?


美味しかったなオムライス…多分あれには『愛』が籠っていた気がするわ


気がついてしまったの。


『真実の愛』それを私に捧げてくれたのはリヒト1人だわ。


パーティ追放の時も、今思えば凄く悲しそうだったわ。


自分が辞めた後も困らない様に『しおり』まで作って…優しいな。


自分じゃ無理だからと『夜のしおり』まで作って…


全て私を優先してくれたのよね。


『私の為に、美少年に私を押し付けて自分は身を引いたのに違いないわ』


なんて大きな『愛』なの…


あーもう!どうしよう?


リヒトの気持ちが解ってしまったら…もう駄目。


リヒト…


涙がこぼれ落ちてきた…


リヒト…そうだわ、私を…只の私を愛してくれた唯一の男、リヒト。


彼とならきっと『真実の愛』『本物のSEX』が出来る。


リヒト…愛しているわ…もう一生離さないから…ね


本当の彼の気持ちに今更気がつくなんて…私は馬鹿だ。


すぐに私が迎えにいくからね。


私はもう迷わないわ…『愛しているわリヒト』



◆◆◆


もう気持ちは決まったわ。


勇者パーティの専門通信水晶を握りしめ私は、教皇メルカリオ様に連絡をとったの。


全員が宿に居ないから凄く楽だわ。


「どうかされましたか? 聖女フリージア殿」


もう此処迄くれば引き戻せない。


「私は勇者パーティから抜けて『救世の聖女』を目指そうと思います!」


リヒトを追うならこれしか無いわ。


「なんですと…魔王討伐の旅から外れ『救世』を目指す…そう言う事ですか?」


聖女には魔王討伐以外にももう一つの道がある。


それは、この世の中で病や怪我で苦しんでいる人を救う旅をする事。


「はい…」


「フリージア殿…確かにその道はある。だが、魔王と戦う方が優先です。幾らフリージア殿のお願いでもこれは聞けません」


此処迄は解っているわ。


だから、私は切り札を出す事にしたわ。


「私は聖女でありながら、破瓜してしまいました。しかも相手は1人や2人じゃありません…沢山の男性と関係を持ちました」


賢者や剣聖以上に聖女は『神聖』でなければいけません。


女神に仕える存在なのですから。


多分、ロマンスクラブは教皇様に繋がっている筈です。


そうでなければ『聖教国が支払う訳が無い』のですから。


「それは…そのこちらでも知っていますから…安心」


私は此処で、記録水晶を取り出した。


ごめん、私は『友情よりも愛に生きる女なの』


利用させて頂きます…ごめんね。


「多分、そうだと思いました…ですがこれを見てどう思いますか? 私だけじゃありません…ミルカとリダも男性相手に乱交している証拠です。それと勇者であるカイトもみだらな行為をしている映像があります…私は罪を償いたいのです…もし『救世』を許して貰えないなら、これを公表して裁きを受けるつもりです」


教皇様ならこの意味が解る筈だわ。


つまり遠まわしに『救世』を認めて貰えないならこれを公表するという脅しだわ。


「仕方ありませんな…確かにこれは酷い貴方の『救世』を認めましょう、但し『救世』は聖女だけです。他の勇者パーティのメンバーには無い道です。私から注意しますので…この事は他言無用にお願いします」


「はい…」


「それでは、これで貴方は聖女ではありますが『勇者パーティ』ではありません。当然ロマンスクラブも使えません…それでは『救世』の道を頑張りなさい」


「はい…」


やったわ…これでリヒトを追いかけることが出来るわ。


待っててね…愛しいリヒト。


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